「コロナ禍でも新しい年を展望しよう ~ウィズコロナ時代の中小企業の打つべき手は~」広島安佐支部 新春講演会(一月二五日)講演要旨
講師 広島修道大学 商学部 教授 木村 弘 氏
■丑年は波乱の年?
今年は丑年ですが、過去を調べてみると、政治や経済は大波乱が起きています。
新型コロナウィルスについては、今後も気を付けて対応しましょう。10年スパンで考えるなら、規模を縮小した経済が続く可能性が大きいと思います。生活スタイルは、少しずつ日常を取り戻していくでしょうが、対面・非対面が混在していきそうです。この一年は、デジタル・情報化社会への移行期だと捉えています。
■中小企業こそDXを
今後の経営を考える上で、大事になってくるのがデジタル化だと言われています。特に、企業経営とデジタル化を考える上で重要な概念が、DX(デジタルトランスフォーメーション)です。DXとは「デジタル技術をツールとしてだけではなく、価値の創造や戦略全般、企業文化、顧客体験に取り入れていくこと」を指しています。
これまでの企業の組織文化を変える可能性も高いのですが、変化に対する順応性やスピードが求められます。「サイロの罠」という言葉があります。サイロとは縦割りのこと。企業内のある組織内だけに情報や成果が留まってしまうことを言っています。DXでは、部署の壁を越えて、人材・データ・インフラをつなげることが実現して初めて、成果が得られるといいます。この罠に陥らないためには、全社的な情報活用、部分最適より全体最適を考えることが大事です。
DXによって、リーダーに求められる資質の比重も変化していきます。今後は、「スピード」「他者をやる気にする」「デジタルスキル」「変える意思」が求められています。注意しておくべき点は「デジタル化のためのデジタル化」に集中してしまうこと、です。
■中小企業が成長する鉄則
中小企業が成長する鉄則は、やらないところを決めて、やるところは深く掘り下げて追求することです。なぜなら、中小企業は経営資源に制約があり、その中で人・物・金・情報を活用する必要があるからです。その上で、狙うべきは「小さな市場で大きな占有率」です。大きすぎる市場を狙ってはいけません。市場が大きければ、市場の細分化を行いましょう。細分化した市場で、必要な占有率を確保するのです。競争相手が少ない、有利に戦えるように自らの規模に合った市場を狙うのです。
■自然界から学ぶ戦略
ここで、日本経済新聞の記事にあった、植物の生き残り戦略をご紹介します。
春の七草として有名なハコベは、道端という「踏まれる」逆境を選んでいます。茎や葉が柔らかいため、人間の足や車の車輪に踏まれても、圧力を受け流すことができるのです。その代わりに、日光や栄養分を他の植物と競争しなくても良いのです。企業で例えて考えるなら、大企業や多くの競争相手が好まない市場を狙う。顧客のクチコミで適正な市場規模を確保することです。
全国に広く分布する雑草のオオバコ。人の往来が盛んな場所では背が低く葉も小さくなり、踏まれる圧力に耐えれます。踏まれにくい場所では高さが二〇cm超えて伸び、葉を広げて日光を多く受けます。専門家によれば「環境に応じて形を変えている」とのこと。まさに中小企業の環境対応そのものではないでしょうか。
タンポポは、「時間差戦略」です。背の高い植物が少ない春に花を咲かせ、他の植物が茂る夏には葉が枯れて根だけが残ります。秋から冬にかけて再び葉を伸ばす。こうして成長や子孫を残すのに必要な日光を確保しているのです。他の植物が好まない時期や場所を選んでしっかりと生きていきる様は、企業で例えると、独自市場(生存領域)の確保です。
「時期や環境を選び競争避ける」ことがキーワードです。独自の工夫を凝らして生き抜いている植物たちから大いなるヒントを得られます。狭く深く、小さな市場で大きな占有率。これを自社の市場なら何かを考えてみましょう。