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2020.06.22

シリーズ 危機にベテラン経営者はどう戦ったのか「経営指針があるからこそ、迅速な経営戦略が打てる!」

㈲メタルワーク福山 代表取締役  大植 栄 氏(福山支部)

 コロナウイルスの感染症対策で、多くの会員企業が大きな影響を受けています。それを突破するアイディアはないのか…。そこで過去にあったバブル崩壊やリーマンショックなどの経営危機を、ベテラン経営者の方々がどう乗り越えたのか、過去の記事から振り返ります。第2回は、2009年4月号に掲載された、大植氏の記事を再掲します。

■バラ色の経営計画

 わが社は、ステンレスに特化した製缶業です。主に、半導体製造装置の筐体、食品製造機械の部品、大型印刷機械の部品などで6割の売上を構成してきました。
 特に曲げや溶接において歪の出やすいステンレス材の加工ですが、精度の高い加工技術がわが社の強みになっています。
 9月下旬に受講した丸山先生の経営指針セミナーでは、多くの受注残と受注見込みを抱え、バラ色の経営計画を立てました。本当に明るい未来でした。しかし、丸山先生は、半日の時間を割いて、サブプライムローンの解説とまもなくアメリカの金融バブルが崩壊すること、そしてその影響について、力説されました。
 私は、一般教養のような感じで耳を傾けただけ、さして重要だとは思わず、すっかり、対岸の火事だと気にもかけていませんでした。  

■リーマンの荒波に襲われる

 しかし、10月のリーマンショックの影響は、すぐにわが社を襲いました。11月に入った時点で、12月、1月の受注はすべてキャンセルになりました。これは、半導体も食品も印刷もすべてが輸出を主体とする製品であったため、特に為替の問題が大きく影響したようです。
 バラ色の経営計画は、もちろん紙くずになってしまいました。けれど、この計画があったからこそ、情勢に対応した新しい戦略を打つことができたのだと思います。

■まずは、3年先までの資金手当て

 まず、売上3割減に対応する経営計画を立て直しました。社員と現状を共有し、年末の賞与は3割カットするものの、給与が減額しないことで理解してもらいました。
 3年間はこの状況で辛抱できるように、運転資金の調達に走りました。セーフティネット融資で3000万円、政府系金融機関から、経営革新に基づく融資で3000円、計6000万円調達ができました。
 そして3年分の資金調達ができたことを社員に伝え、雇用調整は絶対行わない、だからこそ、力を合わせてこの難局を乗り越えようと意思統一を行いました。

■トップ営業に奔走中

 仕事はゼロになったわけではありません。大きく減少したこれまでの仕事も、四割を占めていた小口の仕事も、取りこぼしのないように拾っています。
 そして、ニッチを狙ったトップ営業に奔走しています。特に食品機械関連は、少しずつ動きが出始めています。海外へシフトしていた食品製造は、食の安全の問題から、国内製造へ戻り始めています。そのための設備投資が動き始めているのです。

■今だからこそ社員に技術力を

 そして、回復局面を迎えたときに、より同業他社より抜きん出るために、この現状だからこそできる社員教育に力を注いでいます。
 金属加工技術、特に曲げと溶接の技術力の向上のために、現場の全社員がマツダの短期大学校で研修を受ける準備が整っています。
 このような状況で新卒の社員を迎えるべきかどうかとも思いましたが、現場の課長たちが、今、若い社員を入れないと5年後、10年後に向けた技術の継承ができなくなるという提案で、予定通り採用しています。社員の平均年齢は39歳ですが、多くは20代30代の若手社員が現場で頑張ってくれています。彼らの成長こそがわが社の発展だと感じています。
 コスト削減、エンドユーザーを視野に入れた製品やサービスの見直し、そして、5年後、10年後に向けた企業づくりが、この厳しい状況だからこそ社員と共に取り組んでいける、取り組まなければ生き残れないと日々、実感しています。
 今、同友会での学びを実践するときです。