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2020.06.19

危機に、ベテラン経営者はどう戦ったのか「 経営理念を見つめ直して新事業のヒントに ~経営者の覚悟が今こそ試される」

旭調温工業㈱ 代表取締役  粟屋 充博 氏(広島中支部)

 コロナウイルスの感染症対策で、多くの会員企業が大きな影響を受けています。それを突破するアイディアはないのか…。そこで過去にあったバブル崩壊やリーマンショックなどの経営危機を、ベテラン経営者の方々がどう乗り越えたのか、過去の記事から振り返ります。第一回は、2009年4月号に掲載された、粟屋氏の記事を再掲します。

【会社概要】設立 昭和33年、資本金 2000万円、社員数 51名(現在)、事業内容 空調設備・冷凍冷蔵設備の設計施工及び冷風乾燥設備(自社製品)エコシルフィーの施工販売  

■現状を正しく掴む

 建設業界は相変わらず厳しい状況です。好転の要素もまったくなく、半年から1年先まで厳しい状況が続くとみています。ただ、「経営者は経営を維持・発展させる責任がある」、中同協の「労使見解」の言葉です。私は「維持する」「発展させる」という二つの視点で考えています。
 一昨年9月の「リーマンショック」の時、私は「本当に大変なことになる」と腹をくくりました。売上がこれまでの7割になってもやってけることをまず考えました。まず翌月に役員報酬をカット、徹底した経費の見直しを行い、車両数を減す等、打てるべき手はどんどん打っていきました。年内はこれでしのげると思いましたが、厳しさはさらに増すだろうと予測しました。実際に1昨年12月に「週休3日、あるいは勤務時間を8時間から6.5時間に減らし、給与の15%カットもあり得ます」と社員に提案もしました。その背景には、いくら厳しくなったとしても社員の解雇はせず、この難局を全社一丸で乗り越えようという思いがありました。当時は周囲の方からは「何もそこまで」とご指摘も頂きましたが、経営者として最悪の状況を考えておく、現実を正しく掴むということは大事なことだと思います。  

■理念が新事業のヒントに

 こんな中でどう「発展」させていくか。減った売上分をどうしていくか。社内会議で「新しい仕事(柱)を作ろう」と一致しました。しかし、社員同様、私自身もよいアイデアは浮かびません。本当に困ったのですが、実は我が社の経営指針に救われました。何のために我が社はあるのか?経営理念である「空調・冷凍冷蔵の仕事を通して、地域社会の食文化・住文化の向上に貢献していくこと」です。ここからチャンスの芽、新事業へのヒントを見出せたのです。
 我が社の取扱商品に「地熱利用換気システム」があります。省エネ法が改正され、これに対応した新しい柱にしたいと考えています。
 もう一つは「CASシステム」(磁場を活用して食品を冷凍する装置)の営業展開です。千葉のある会社と技術提携を結び、中四国エリアで販売していきます。既にカキの冷凍出荷やマグロ船の船内冷凍などで導入が進んでおり、地域の特産をどこでもいつでも新鮮に食べられるような活用に力を入れていきます。  

■「負けない」経営

 我が社には自社製品である「冷風乾燥機」があります。第1世代の機械は魚、第2世代は乾麺(素麺など)、第33世代は葛(くず)、そして、昨年12月に受注にこぎつけた第4世代は米を乾燥させます。これはサイロ(米を蔵置・収蔵する倉庫)に使うものです。温度・湿度・風量の制御等、技術的かなり難しいものでした。設計部門では試行錯誤や会議を何回も繰り返しました。しかし、ようやく諸問題をクリアして完成し、2月末に納品することができました。市場規模は大きいので、なんとか軌道に乗って欲しいという思いです。
 これは自社のコアコンピタンス(他社に真似できない技術)を追究したものです。目先に追われて、今思えば市場開拓に「本気」ではなかったと猛省しています。そういう意味では、この厳しい環境はよい「試練」だと思っています。
 企業のあり方には様々ありますが、私は「負けない」企業をめざしたいと思います。野球にたとえれば、守備を徹底して磨きこんで0点に抑え続ければ、負けることはありません。巨人のように大量点を狙うのではなく、最少得点でも勝てる、そんな企業にしたいのです。