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2020.04.03

「どうなる!? 二〇二〇年の日本経済」福山支部新春講演会

講師:㈲第一コンサルティングオブビジネス 代表取締役 丸山 博 氏

■二〇二〇年、波乱の年明け

 今年は年明け1週間で、政治と経済と軍事問題がリンクし、マイナスの影響を与える出来事が起こりました。米国によるイラン要人の殺害は、イラクの国際空港でドローンを使って実行しました。IT技術の軍事転用です。この事件を受けて、金と原油が高騰し、株安と円高が起こりました。今年11月には米国の大統領選挙が行われます。政治経済、軍事的に不安定な出来事が今年1年を通して起こるのではと予想しています。
 政治経済を大きくとらえると、危機・転換・再編の時代を迎えています。
 覇権国家の推移を見てみます。世界は16世紀から覇権国が入れ替わるタイミングで、保護主義と戦争が起こってきました。覇権国が他国にその地位を奪われそうになると、政治的・軍事的な力を駆使して追い落とそうとし、保護主義が生まれます。そして保護主義が行きつくと貿易の停滞が起こり、政治的・経済的な危機が発生。その危機を打開するために戦争が起こり、新しい覇権国が誕生します。
 歴史を振り返ると、覇権国になるのは当時の№2ではなく、№3の国でした。20世紀の覇権国は米国、№3は中国です。予言は出来ませんが、マーク・トゥエインは「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という言葉を残しています。今、世界は危機的な状況から次の時代を準備していると考えれば、不景気や売上不振などと言っている場合ではないのかもしれません。
 もう一つ着目しておく必要があるのが、情報・通信の技術革命です。その一つが、Googleが開発に成功した量子コンピュータです。このコンピュータは、現在のものと比べ100万倍の能力があると言われ、「発見」の加速が進むと考えられています。研究者が10年かけた新薬の開発も一日で計算出来てしまうだけでなく、現在使われている暗号も瞬時に解読してしまいます。技術インフラは、今後30年で大きく様変わりするでしょう。

■日本経済の動向

 日本では2020年の推計で、日本女性の50%が50歳以上になることがわかりました。量から付加価値の時代への転換は、産業の再編と集中につながります。特にものづくりやサービス業は、量をこなす時代ではなくなってきています。今年のお正月もコンビニや飲食店は休業しました。特にコンビニは始まって以来のことです。これも人手不足が一因です。  かつての基幹産業にいて、分業の一部を担っている自動車や電機、半導体などの会社は、これから分業から再編統合の時代を迎えます。大量生産から付加価値の高いものづくりへのシフト、5Gなどの情報通信技術の発展や自動化が加わり、今年から目に見える再編が進んでいく可能性が高くなっています。
 また、東京オリンピック後の景気低迷予測をよく耳にしますが、私はオリンピックのパニックが収まるだけだと考えています。株や原油の取引等が実需で動いているわけではなく、この予測による心理的要因が働くことが原因になると思います。
 人手不足の問題もそうです。人手不足のように見えて、実は自社で採用できないだけではないでしょうか。みんなが採用を始めたときに、動き始めるから採用出来ないのです。中小企業は人を採るのが上手くはありません。苦しくても頑張って採用して育て、そして景気がよくなったときに、大いに活躍してもらう。そうすれば企業にも力になり、本当に人が必要なときに慌てなくて済むのです。

■転換と危機の時代

 本日は問題提案をします。原点に立ち返る、時代の流れに適応する、高収益企業、人が辞めない会社づくりの4つです。人が辞めない会社の多くは高収益を上げています。そんな会社になるためにも原点を押さえ、時代の流れに適応する手法を身につけなければなりません。
 では、一つ目の原点回帰から見てみましょう。ヒトはなぜ働くのか?この最良の答えは、「幸福な生活、よりよい生活のため」です。かつて人類は必要なものを自分たちで作る、「自給自足」の生活を永く送っていました。それから月日が経ち、現代社会は、売るためにものを作る「商品生産社会」の時代になりました。どんなに一生懸命作っても、売れなければ価値がゼロの厳しい時代です。
 企業とは、社会的分業の中で価値を作り出して社会に貢献し、社員の物心両面の幸せを実現する組織です。この原点に立ち返ることが必要です。そして、社員の物心両面の幸せを実現するためには、社会が必要としている何らかの価値を生み出していくことが必要です。世の中が変化していれば、その世の中が欲しているものを生み出すのです。
 生産性は人類の長い自給自足の生活で生み出したものです。工夫と努力、そして改善を繰り返し、「もっと豊かに、もっと幸せになりたい」と思うことが私たちの原動力なのです。  

■時代の流れに適応し、高付加価値企業になる!

 二つ目の「時代の流れに適応する」ですが、先日、12年振りにハワイに行くと、タクシーは配車アプリの「Uber(ウーバー)」が主流になっていました。スマホに行きたい場所を打ち込むと、タクシーのリストが並び、選んだタクシーが迎えに来てくれます。それに乗り込むと、目的地を伝えることなく到着します。支払いもスマホ決済です。時代はこのように変化しています。時代の流れに逆らい、守りに入ってしまうと、新しい時代の人やものに負けてしまいます。そこで見えている未来を考え、適応することが大切なのです。
 現代の不安・不信の時代に求められるのは、本物の追求と発信力です。中小企業は本物を追求しているのに、発信力が弱いとよく言われます。これからAIやIOT、Webがさらに深化していきます。その一方で、人々はリアルやダイレクトなことを求めています。自社に置き換えたとき、どんなことができるか考えてみてください。
 そして高収益企業ですが、経済が縮む時こそ企業の差がつきます。マーケットの縮小で起きるのはお客様からの選別です。そんなときに選ばれるのは、「ちょっといい仕事」をしているところです。このちょっとの差が後々に大きな差になります。中小企業の柔軟な変化能力を活用して、ちょっとの差をつけていくために、全力を尽くすことが大切です。

■「Same Page」を描く

 最後が「現在の戦力」で勝つことです。そのために経営者に求められることは、社員一人ひとりの能力を理解して、その強みが発揮できるようなストーリーを作ることです。ラグビー日本代表の「ONE TEAM」がそれです。
 昨年のワールドカップのスコットランド戦で、ラファエレのキックから福岡がトライを決めました。その日、日本はキックを封印する作戦で、この時はアイコンタクトすらしていません。ではなぜ、彼らはこの行動を取り、得点できたのか。それはメンバーが瞬時に状況を理解し、同じ絵「Same Page」を見ていたからです。全員が相互に信頼し、戦略・戦術を理解し、日々ハードな練習をしてきたからこそ生まれた結果です。
 中小企業では、ハードな練習が難しいかもしれませんが、社員は戦略戦術を適切に理解し、経営者が社員の適正に見合った仕事を与え、社内で相互に高めあう関係が築ければ、どんな時代でも勝ち抜くことができると思います。

■最後に

 時代は一生懸命に仕事をすればいいという時代ではなくなりました。これからは単にいいものを作るだけでなく、戦略戦術を構想する力がないと生き残れない時代です。戦略・戦術を立て、それを計画にし、実行する力があれば、どんな時代になろうとも大丈夫です。変化のときこそ中小零細企業が頑張れる時代であり、チャンスです。
 そのためにも同友会が長年提唱したきた「人を生かす経営」をベースにした経営指針の成文化と実践を進め、2020年を共に乗り切っていきましょう。