公正取引委員会との懇談会 「価格転嫁と値上げ交渉」
県政策委員会は11月2日、公正取引委員会(以下、公取委)との懇談会を行いました。これは、同友会が7月に行った全会員アンケート(1,425名の回答)の報告を公取委にしたところ、価格転嫁問題など中小企業経営者の生の声を聞きたいとの要望で行われたものです。
大手電力会社による市場分割カルテルを公取委が公表、排除措置命令と課徴金納付命令を行い、地元の大手電力会社は700億円余りの課徴金を納めた(係争中)という報道は記憶に新しいところです。
最初に、政策委員長の宮﨑基氏が「われわれを取り巻く環境は、原材料費の高騰に加えて賃金の上昇など厳しさを増しているが、価格転嫁がなかなか進まない。逆に値下げを求められる事例もある。どう対応するか。公取委さんのお話を参考にしていきたい」と問題意識を紹介しました。
公取委からのご出席は、中国支所長の唐澤斉氏ほか三名の皆さんで、以下のポイントにそって、事例を紹介しながら詳しく説明いただきました。
- 公取委の所管する法律は、①独占禁止法、②官製談合防止法、③下請法、④フリーランス・事業者間取引適正化法等、の四つ。それらに基づく、違反行為の取り締まりと未然防止に取り組んでいる。
- 下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用を迅速に取り締まり、下請事業者の利益を保護する。親事業者に対し、書面の交付や支払期日を定めること、書類の作成・保存、遅延利息の支払いの四つの義務を課している。また、11の禁止行為を定めている。すなわち、①受領拒否、②下請代金の支払遅延、③下請代金の減額、④返品、⑤買いたたき、⑥購入・利用強制、⑦報復措置、⑧有償支給原材料等の対価の早期決済、⑨割引困難な手形の交付、⑩不当な経済上の利益の提供要請、⑪不当な給付内容の変更・やり直し。
- インボイス制度が始まった。買い手と免税事業者との取引で、価格交渉に応じず単価据置や免税事業者のままなら10%価格を引き下げたり支払わなかったりすると下請法違反となり得る。
参加者から、次のような意見、要望が寄せられました。
- テナントとして多店舗展開をしている。ほとんどの大家さんが免税事業者なので、登録事業者になってもらいたいとお願いしたら、拒絶された。消費税分の家賃を下げてもらいたいし、出ていこうにも造作や改造に資金を投資しているので厳しい。どうすればいいか。
- 電気代の高騰や人件費の上昇分を発注企業にみてもらいたいが、なかなか交渉が進まない。強く言えば、次の仕事が取れなくなるかもしれない。
- 原材料費や電気代などは価格が一定で価格転嫁に応じてもらいやすいが、人件費は自由競争で企業によってまちまちなので価格転嫁が難しい。働き方改革をすすめ賃上げをした企業ほど人件費は高くなる。国として、応じてもらいやすいガイドラインをつくってもらいたい。
- 発注企業の求めに応じ、設備投資をしながらコストダウンに努めてきた。ところがある日、発注が止まった。大変困っている。
同席した広島経済大学の田浦元教授(中同協企業環境研究センター委員)は「価格転嫁が難しい中、強者と弱者が対等に話し合える環境づくりに取り組む公取委の役割はとても大きい。同時に、中小企業経営者が話し合える力をつけることも大切」と感想をのべました。
中小企業をめぐる公取委の取組は、以前は取引の外形的な条件(支払期日の遅延や契約以後の値引きなど)が主だと感じていましたが、最近は取引条件の内容、すなわち原材料費の高騰に対する受注価格のアップに加え、人件費の上昇も加えようとしています。こうした国の政策の変化は、中小企業の力の発揮なくして持続可能な日本経済をつくれないという政府の問題意識が働いているようにも思えます。今後も独占禁止法など、国の経済政策を注視し、改善の要望あれば声をあげていきたいものです。
(記:事務局 国広)