活動レポート
  • ホーム
  • >活動
  • >「学校と地域企業の連携で地域に人材を育む」 ~地域の中に学校を!学校の中に地域を~ 「中小企業憲章」閣議決定13周年記念行事
2023.08.03

「学校と地域企業の連携で地域に人材を育む」 ~地域の中に学校を!学校の中に地域を~ 「中小企業憲章」閣議決定13周年記念行事

パネリスト
㈱タテイシ広美社 会長  立石 克昭 氏(府中市立府中明郷学園 学校運営協議会 会長/広島同友会代表理事)
府中市教育委員会 教育課程研究センター 副センター長  竹内 博行  氏(前府中市立府中明郷学園 校長)
広島県教育委員会 生涯学習課 社会教育監  宮田 幸治  氏(前府中市教育委員会 学校教育課主幹)
コーディネーター
広島同友会 専務理事 源田 敏彦 氏

源田)本日は地域と学校がテーマです。中小企業憲章と学校は距離が遠いと思われるかもしれませんが、憲章の行動指針の中に、学校での勤労感や職業観の育成が書かれています。そして人口減少や若年層の人口流出など、地域の課題解決のヒントになるかもしれないのが今日お話する府中明郷学園(以下、明郷学園)の事例です。

立石)明郷学園がコミュニティ・スクールを始めたのは12年前です。スローガンは「地域の中に学校を!学校の中に地域を!」です。

宮田)コミュニティ・スクールとは学校運営協議会を設置した学校のことで、地域(企業)・学校・家庭が、子ども達を真ん中に置いて一緒に育てようという学校です。私は12年前に当時の上司であった竹内前校長とその理解から始めました。

コミュニティ・スクールは、運動会の騎馬戦のようなものです。騎馬のウマ役は背も体格も違いますが、上に乗る人のために高さを調整して進みます。コミュニティ・スクールも子どもが安心して騎乗してするために、地域・学校・家庭が同じ目標に向かって力を合わせていく、そんなイメージです。

竹内)明郷学園は平成22年に府中市の公立中学校2校、小学校4校が統合して出来た公立の義務教育学校です。平成26年度にコミュニティ・スクールに指定され、現在の児童生徒数は242名です。私はこれからの未来を担う子ども達のためにも教育は学校だけではなく、産業界など地域の力が必要だと校長に就任して初めての運営協議会で話しました。

明郷学園はこれまでに文科省から3回表彰されていますが、以前の子ども達は何かを主体的に取り組むことが少なく、最初は「山あり、山あり」の日々でした。

■模擬会社LinkSから生まれた変化

源田)模擬会社について教えてください。

立石)模擬会社の設立のきっかけは、竹内前校長の一代前の校長でした。生徒が社長を務める模擬会社を作りたいというのです。そして平成31年に初の模擬会社を設立ました。令和3年にはそれまで毎年変えていた会社名をLinkS(リンクス)に固定し、会社の経営理念を作りました。生徒が作った経営理念は、「お客様、地域と会社がつながって一丸となり社会に貢献する~自ら考え判断して行動することで笑顔と感謝の虹をかける~」。すばらしい経営理念です。生徒達は、学校教育が求める「考える力・自己表現力」という思いを受け止めて理解していたのです。

模擬会社は商品開発や営業、経理、広報部に分かれています。また企業支援チームを作り、経営者がサポートをしています。この企業は同友会の会員企業が中心です。周囲の大人は生徒がもし迷っても結論は言いません。アドバイスだけします。すると初めは小声で話していた生徒も、そのうち身振り手振りで商品のプレゼンをするようになりました。

竹内)変わったのは教員も同じです。教員は子どもが主体性を出すために、待つようになりました。育った教員が子ども達を育てる、という循環が生まれました。立石会長に教えてもらった同友会の人を生かす経営は、教員の育成や学校経営につながる内容だと思っています。

立石)私は商品の出来栄えが良くなくても、生徒にやらせることが大切だと思います。商品の値段は生徒自身が市場調査や仕入れ値を計算して決めます。2代目のLinkSでは箸と箸袋を企画しました。値段は一膳2400円と少々割高です。しかし生徒達は売り切りました。修学旅行で東京の府中市アンテナショップに行き、店頭販売もしました。最近は将来起業したいという子どもも数人出てきました。

宮田)最近は県内外からの視察が増えました。見学の際に地域の人たちは、明郷学園のことを「うちの学校」と言います。
明郷学園では学んだ事が生きて社会とつながる学びを作ろうとしています。まさにコミュニティ・スクールそのものです。今、社会から求められている人材になるためには、学校の周囲にある資源を生かし、小中学校から学びを取り込んでいく事が必要です。これを高校生からではなく、小中学校から学んでいくためにも地域の力が不可欠なのです。

■これからの学校と地域

宮田)これから各学校からこんな学びがしたい、と発信される時代になると思います。私はそれに対応できる紹介のネットワークを作りたいと考えています。学校には地域の力を借りて育てた子どもをどう地域に返し、そして子ども達がこんな風に育ったよ、とお話しする役割があると思います。

竹内)学校は子ども達が能動的に学ぶ力を得るためには、どんな事が必要なのか考えます。たとえ不完全でも、自ら考えて行動するサイクルをたくさん経験する事が子ども達には必要です。地域の皆さんが地域の子ども達に関わることは、とても大きなことだと考えています。しかし、学校と連携する企業は自社の利益ではなく、理念を大切にした企業であることが大切です。同友会の会員とお話しすると、同じ方向を向いていると実感します。
 私が校長として一番大切にしたのは、学校の人を生かす経営です。これからは府中市に広めていきたいと思っています。

立石)学校だけで子どもを育てる時代は終わったと思います。宮田さんは「人は、人を浴びて、人になる」と良く言います。子ども達は皆アンテナが違います。多くの大人の姿を見せて、子ども達が選ぶことが本当の教育ではないでしょうか。
 持続可能な地域を作っていくのは子ども達です。今、地方の子どもが減り、持続可能な地域になっていません。持続可能な地域は産業界にとっても重要です。私はこの活動はボランティアではやってません。地域や自社に対する将来への投資だと考えています。
 私がよくお話しする「いこるところに人は集まる」(いこる=備後弁で炭が赤々としている様子)のように、住民や地域がいこっていないと人は集まりません。まず私達が種火となって、いこっていくことが地域にとって必要なのです。

■コーディネーターまとめ

地域や企業にはいろんな課題があって、それぞれ自分の力で解決してきました。しかし、これからはみんなで協力する時代です。大切なのは「何のためにするのか」、立場が違っても理念や目的で一致していることです。明郷学園の子どもたちが変わり、その姿を見た先生が成長する。そして期待に応えたい企業が成長する。こんな幸せな地域循環を県内に広げていくためにも、企業は理念型の経営を行い、経営指針を作って地域に誇れる企業になり、社員とその家族が幸せを感じられる企業であり続けることが必要なのではないでしょうか。

7月は中小企業魅力発信月間であり、7月20日は中小企業の日です。私からの提案ですが、7月は社員の家族や地域の人が中小企業を自由に訪れる企業参観日を各社で実施してみませんか。行政や地域の金融機関にはぜひその支援をお願いし、地域に中小企業を広く知ってもらいたいと思うのです。

(記:事務局 本田)