「どうなる日本2023年~世界と日本の政治経済の情勢~」福山支部新春講演会
講師:㈲第一コンサルティングオブビジネス 代表取締役 丸山 博 氏(東京同友会)
■予測がつかない2023年!その理由は?
今年は経済学のテキストが通用しない、予測がつかない年だと言えます。あくまで一般論としての考察ですが、今年は昨年起こった危機が深まり、戦後最悪の経済状況の年になる可能性があります。
世界経済の成長に陰りを見せ始めたのは、大企業に富が集中し経済格差が生まれ始めた2015年から20年にかけてです。それに拍車をかけたのが、新型コロナウィルス感染症やロシアのウクライナ侵攻です。多くの方がコロナによって時代の転換期を迎えたと思われているかもしれませんが、時代の転換はそれ以前から始まっていました。コロナやウクライナ侵攻は、グローバル資本主義の転換を早めただけなのです。時代の転換に気づかせてくれた、と理解する方がいいかもしれません。
なぜ危機は深まっているのに、先が読めないのでしょうか。それは「投機」が背景にあります。投資はこれから良くなりそうな企業や土地に資本投下をするのに対し、投機は事業内容やその企業の社会的な影響は関係なく、明日、株が儲かるかどうかだけが判断材料です。投機的な経済活動の一つに「レバレッジ」があります。レバレッジとは、1千万円の投資活動を10万円でできるオプション取引のことで、株の予約権などです。1千万円を用意しなくても手元に10万円さえあればよく、購入した株をすぐに売却すれば利益が手に入ります。もし株価が下がりそうなら、予約権の10万円を放棄すればいいのです。世界中でこの動きが起こっており、今の世界経済の脆弱性を表しています。先が読めないと言っているのは、このギャンブルのような投機活動によって世界経済が動いているためということができます。 コロナ禍で日本もアメリカもゼロ金利政策を取っていました。ところがアメリカが金利を2.5%にまで引き上げ、日米の金利差が一気に広がりました。当然、投資家はアメリカを選びました。必然と売られた通貨(円)は安くなり、買われた通貨(米ドル)は高くなります。しかし、これも投機の結果で実需経済を現したものではありません。これが昨年の秋ごろから一気に進んだ円安の要因です。
■ニューノーマルの時代
世界はニューノーマル(新常態)の時代を迎えています。その時代を象徴する一つがシェアビジネスです。今年はこれが当たり前になるでしょう。企業、特に小売業・BtoCの企業は考え方を変え、「お客様を手のひらに乗せる(抱き抱える)」企業から「お客様の手のひらに乗る(スマホで繋がる)」工夫と努力が必要になってきました。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)はこれからますます進化を遂げます。先日のサッカーワールドカップでは、VARが活躍しました。ボールにはセンサーが内蔵され、100分の1ミリまで動きが把握できます。そのボールと12個のwebカメラでとらえたのが、スペイン戦の「三苫の1ミリの奇跡」です。前回のワールドカップから4年、ここまで技術が進化したのです。中小企業は上手に技術を使いこなす側に回る必要があるでしょう。
もう一つの特徴がグリーントランスフォーメーション、脱炭素です。2025年頃には、Co2の排出量によって炭素税が課税される可能性が出てきました。すでにアメリカでは炭素税の対策として、大規模農園から排出権を買う実験的な動きが始まっています。作物を生産しても刈入れをせず、排出権を売るためだけの農園があるのです。こういった企業が日本でも2025年までに出てくる可能性があります。ぜひ動向に目を向けてみて下さい。
■「ゆでガエル」に注意
歴史を見てみると大企業や中堅企業の中には、危機の時にどう動いたかによって、その後の道が分かれたという実例があります。冒頭に申し上げたように、現在の経済のベースはあまり良い状態ではありません。おそらく5年~10年はこの転換期の状態が続くでしょう。転換と危機の時代こそチャンスなのですが、このまま何もしないでいるとそれは最も危険です。 多くの危機は急激には来ず、じわりじわりと来るものです。そんな時に人は動きにくいものですが、じっと耐えているだけだと、それがピンチになります。ゆっくりとした変化に人は対応しづらいものです。よく言われる「ゆでガエル」状態が実は一番危険なのです。
私は中小企業の経営者から、「自社では新規事業やオリジナルの企画や商品が出来ない」という相談や質問を受けることがあります。中小企業のオリジナリティは商品開発だけではありません。商品の提供の仕方にオリジナリティを持たせるのです。他よりも「ちょっと早い」「ちょっと良い」がポイントで、この「ちょっとの差」が大きな差につながります。他社が見積もりに一週間かけるのであれば、そこよりも早く出すことで差別化が出来ます。独自商品がない=オリジナリティがない、というのは間違いです。
しかし、終わった役割や機能は捨てなければなりません。今までと同じような事を同じようにしていると、先述の「ゆでガエル」になってしまいます。企業が、業界のビジネスモデルが変わったことに気付けば、まだまだやれる事はたくさんあるはずです。
■キーワードは「Pretty」!
日本経済新聞は、2022年末の消費動向の特徴を「Pretty(プリティ)」としました。Pはプレミアム、yはYEN(円)、つまり値ごろ感です。どこで買ってもいい物は値ごろ感が大事になります。中途半端なものは売れないので、ぜひ気をつけて下さい。reはリサイクル、リバイバルなどの「再」です。今年のイベントカレンダーを参考に、ちょっと世の中が盛り上がるタイミングでビジネスチャンスを仕掛けてみると面白いかもしれません。
最後に「tt」はTime(時間)を意味し、1つ目のtはキャンプなどの時間を楽しむ消費、もう一つのtが無駄な時間を使わないという意味です。私も以前はよく書店巡りをしていましたが、今はネットで本を買うようになりました。しかし誰も書店に行かないかというと、そうではありません。ビジネスマンはあまり見かけませんが、子ども連れや年配の人はよく見ます。小売業はこの使い分けが大切です。私はこの「Pretty」を「可愛げ」とアレンジしてみました。お客様から見て可愛げのある会社です。可愛げのある社員、ちょっと良い取り組み…。皆さんの会社では、どうでしょうか。
■新たなチャレンジへのヒント
今年は「つなぐ」「つながる」がキーワードです。同業社がいつまでも価格競争していてはいけません。ライバルと思っていても、仲間としてつなぎ合うことがこれからの時代には必要です。
商品を探しているお客様に対して一流店員は、お客様が何のためにその商品を求めているのか、その用途を聞き出します。モノを売る企業はお客様の本当のニーズを見逃しがちです。商売の原点はお客様の本当のニーズは何かを考え提供することです。イマジネーションを働かせることが大切です。これからの危機と転換の時代には、商売の原点に立ち戻る事が必要です。時代が変わる事でお客様のニーズも変わります。その本当のニーズに気づき、提供の仕方を見出すことが出来れば、その企業はどんな時代になっても生き残れる可能性があるでしょう。
同時にポスト・コロナの時代は、『人材』獲得競争の時代でもあります。これから人を採用できる企業になるためには、選ばれる会社になることです。人から選ばれるためには、企業の発信力が必要です。その発信力や構想力を高めるためにも、同友会で学んでいる経営指針書を社員と共に作り、実践する仕組みを会社に作る事が大切です。これが激変の時代を生き残っていく一つの道筋です。
2023年はヤワな時代ではありません。だからこそチャンスがあるのです。