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2023.02.22

「『働く環境づくりの手引き』が示しているものは何か」経営基礎講座第6講

講師:社会保険労務士法人レイバーセクション 代表  藤浦 隆英 氏
(中同協経営労働副委員長)

2月2日、本年度の経営基礎講座最後の講座を開催しました。今回は、広島エリアと東部エリアの共同で開催しました。講師に、中同協経営労働副委員長の藤浦氏を迎えました。以下、その講演要旨です。

■信頼関係と雇用契約

 皆さんは社員さんを雇用する時に、きちんと雇用契約を結んでいるでしょうか。よく聞くのが「ウチは社員との信頼関係があるから大丈夫」という言葉です。しかし、関係はなあなあであってはいけません。互いの役割と責任を明確にしたうえで対話をすることが大事です。
 雇用契約書には、雇用期間、更新基準、就業場所、業務内容、勤務時間、休息時間、休日休暇・シフト、賃金の決定・計算・締支払、退職・解雇事由を明示しなければなりません。しかし、毎回これを書くのは大変です。労働契約法では、合理的な就業規則を作成し、周知しておれば、それを雇用契約内容とすると示しています(第7条)。まず、就業規則を作ること。これが信頼関係づくりの前提になるのではないでしょうか。

■働く環境づくり≠働き方改革

 ブラック企業問題の影響で、労基局などでの相談件数は、2001年の2万5千件から、2020年には129万件に急増しました。アマゾンで「就業規則」の書籍検索をすれば、問題社員への対応のワードばかりが目につきます。
 同友会の先人は、はるかに厳しい労働争議の嵐の中で、「労使関係の見解」をまとめました。そこには「労使は、相互に独立した権利主体として認めあい、話し合い、交渉して労使問題を処理し、生産と企業と生活の防衛にあたっては、相互に理解しあって協力する新しい型の労使関係をつくるべきであると考えます」と語っています。つまり、同友会の言う「働く環境づくり」は政府のすすめる単なる「働き方改革」ではありません。「働く環境づくりの意義」を元に、経営者の覚悟を決めることを求めていることがポイントで、①強靭な企業づくり、②経営指針の実践、③人口減少社会で持続可能な企業や地域をつくる、④自主的・自律的な「働き方改革」の推進、をめざすものです。

■経営指針は誰のため

 経営指針の成文化運動は全国に広がっていますが、なかなか実践に結び付きません。それは経営指針が社員に「自分の事」としてとらえられていないことが原因の一つです。指針を作る際に、社員にとってどんな未来が自分の将来に開けているのかを示す必要があります。
 若い人は、企業選択で「安定」「社風」「待遇」などを重視します。逆に「働きがい」や「成長」などは軽視する傾向があります。しかし視点を変えてみてみると、重視されるポイントは、会社への定着の要因にすぎません。逆に軽視されているポイントは、モチベーションをあげる理由なのです。
 この二つをきちんと理解して、バランスよく実現をしていく事が大事です。
 マズローの5段階欲求説で言えば、下位の欲求が満たされて初めて、次の欲求に意義を見出すのです。社員に「自己実現」を求めるなら、そのステップアップを社員とともに追求していくことが大切だと思います。

■5冊のテキストを活用しよう

 働く環境づくりをステップアップするためには、まず36協定を名年提出する体制を整えることです。次に就業規則をつくり、それをベースに働く環境づくりに取り組みます。
 そのためにも、会が発行する5冊のテキストを大いにご活用いただきたいと思います。
①「就業規則のつくり方」…まずは社長が一人で労働法を学びながら簡単な就業規則を作成してみる。
②「中小輝業への道」…同友会企業の実例も参考に、働く環境づくりの意義について学ぶ
③「経営指針成文化と実践の手引き」…経営指針の成文化に取り組む
④「働く環境づくりの手引き」…経営指針と一体となった、働く環境づくりに取り組む
⑤「企業変革支援プログラムver.2」…社員と共に定期的に自己診断を行い、継続的に企業の変革に取り組む

■社員とともに会社づくりを

 働く環境づくりを進めるには、経営理念の元、経営指針と働く環境を結びつけることが大事です。まずは、会社と社員の10年後のイメージを共有します。そうすると、現状と課題が整理でき、すぐにできることは単年度計画や就業規則の改訂等で対応します。すぐにはできないことは、できない理由を明確にし、経営戦略と一体のものとして、計画を作ることが大事です。その際には、ギャップを埋めるための未来年表を作成し、そこから逆算で考えると良いでしょう。

■社員さんの要求に応える実例

 昨年の講座で、一番質問が多かったのが、社員さんの要求にこたえきれない場合にどうするか、です。これには、「中小輝業への道」に掲載された広島同友会のオーザックさんの取り組みが参考になります(https://www.hiroshima.doyu.jp/news/28049/)。完全週休2日を実現するために目標を明確にして社員に計画を立ててもらって取り組んだところ、目標に達しない。そこで「元に戻す」と社員に伝えると、社員が再度計画を作成。目標を上回る生産効率を実現しました。
 こうした、社員に任せる、考えさせる、失敗させる、また考えさせるというPDCAを回していく事が大事です。

■生産性向上と付加価値の増大

働く環境づくりを進めるためには、もちろん仕事の効率化も大事です。でも、これだけでは環境づくりは終わりません。というのは、効率化で浮いた時間で仕事を増やしてしまうからです(パーキンソンの法則)。ですから、同時に付加価値を大きくする、あるいは付加価値の大きな仕事に切り替える、という視点が必要です。
 わが社では、ワークライフバランスを実践するために、「高付加価値路線、給与計算業務をしない」を方針として掲げました。それによって、繁忙期がなくなり、労働時間を週35時間にできた、などの成果を上げることができました。

■社員との対等な労使関係とは

こうした活動を進めるには、社員との「対等な労使関係」を築く。そのためにも、信頼と信用が大事です。労使が互いの役割と責務を明確にし、対話します。社員を「信頼(その人の未来に期待し、任せる)」し、「信用(過去の行いの積み重ねによって得る)」されなければなりません。
そうした関係の中でこそ、「経営指針」で会社の未来を会社と社員がともにつくり、「働く環境づくり」で、社員の未来を会社と社員がともにつくることができるようになるのではないでしょうか。