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2022.08.23

中小企業は社会の主役 ~中小企業憲章の精神を実現しよう~「中小企業憲章」閣議決定 記念行事

講師  岡田知弘 氏(京都大名誉教授・京都橘大学教授)

中小企業憲章が閣議決定され12周年になります。中小企業を取り巻く情勢は大きく変化しています。その中で地域における中小企業の役割と責任を、再確認するための周年記念行事が開催されました。(参加者 同友会三八名、会員外三四名)  

■誰が地域を支えていくのか

私は地域開発政策と公害の研究をしていました。どのようにして地域を作っていくのか関心が出てきた時、中小企業家同友会と出会いました。  
日本は、災害の時代に入りました。過去から現在まで同じような災害が繰り返し起きています。2011年に起きた東日本大震災と同じ規模の地震が、1100年前にも起きています。その18年後、仁和大地震が起きています。これが南海トラフ地震ではないかと言われています。  
また3年前から新型コロナウイルスが流行しており、これも生物由来の災害の一つです。人類や地域に甚大な影響を及ぼしています。
災害が起きた際、地域社会の再建のために貢献しているのは、地域の中小企業者です。東日本大震災が起きた時、岩手同友会代表理事の田村さんたちは、陸前高田市の同友会会員の企業をつぶさないため、金融機関に働きかけ自動引き落としなどを止めました。また震災直後大型店が開いていない時も、地元の商店が一番に店を開けました。
被災して6年半後、気仙沼に状況を調査した時のことです。同友会の支部長をされていた建設関係の方で、地元にどのくらい復興資金が還流したかお聞きしたところ、UR系の企業が東京経由で発注をかけたため、地域にお金が落ちなかったそうです。阪神・淡路大震災の際も、復興資金の2割ほどしか地元に落ちなかったそうです。地元に発注されていれば、もっと復興が早まったと言われています。
災害局面において、誰が地域と暮らす人々の生活を守るのでしょうか。誰が次の世代にバトンタッチする役割を果たしていくのでしょうか。それは地域社会を構成する経済的主体である中小企業群・農家・協同組合・地方自治体です。地域経済社会の維持・発展のために、地域に再投資ができるような経営環境をつくることが求められています。  

■なぜ条例に関心が集まるか

多国籍企業の増加に伴い、地域に住み続ける住民・企業・産業の役割が増しています。東京をはじめ3大都市圏への富の集中と地方の衰退が加速しているためです。  
地域で暮らし続けるためには、地域内でお金に加え食料とエネルギーを循環させることが求められています。地域社会を維持する最大の経済主体に中小企業・農家・共同組合・NPO、そして地方自治体があげられます。これらが地域に再投資する力をつけることが重要になります。  
2010年6月に閣議決定された中小企業憲章では、中小企業は、「経済を牽引する力であり、社会の主役である」と述べられています。そのための戦略的な連携を、地域で具体化する手段として「中小企業振興基本条例」が注目されています。全国で610以上の市区町村、広島県では8つの市と町で制定されています。条例が制定された地域が増加する中で、条例をいかに活用して、具体化していくかが課題となります。

■地域を豊かにするとはどういうことか

グローバル化と人口減少・高齢化により、「大型公共事業と企業誘致政策」をすれば地域が活性化するという神話が崩れてきています。大型公共事業は、東京本社のゼネコンが受注先となっており、地域内にお金が循環しないためです。企業誘致では、立地しても本社に富が移転したり撤退や縮小の危険が伴います。
「地域が豊かになる」とは、住民一人ひとりの暮らしが維持され、向上することです。
地域発展の決定的要素は「地域内再投資力」です。地域の中小企業が質的・量的に力をつけ、金融機関や地方自治体と連携し、取引網を太くすることが求められます。
その他に、地域の物を地域で加工し、地域で販売する「地域内経済循環」が重要です。企業の投資活動、消費を通じて、地域に還流し、地域内で循環すると大きな経済効果が見込めます。販売した利益を必ず地域に戻し再投資して、雇用を維持することが必要です。またお金の面だけでなく、地域で暮らす人々の生活向上につながります。

■地域一体の取り組み

観光客の招致による観光消費も、大きな市場です。大分県由布市の旧湯布院町の「泊食分離」が良い例として挙げられます。
温泉湧出量全国2位の湯布院町では、「大型の旅館やホテルは作らないようにしよう」という条例をつくりました。お客さんが街に出なくなり、飲食店が流行らず衰退してしまうためです。そのため宿泊と食事を分ける「泊食分離」を基本としました。一泊朝食付を標準にして、昼食や夕食は地元の飲食店で食べてもらうようにしました。その結果、宿泊者が街に出て地域にお金が落ちました。お店同士が紹介し合うことで、地域の活性化につながります。  
また湯布院町は、農村景観を守るため、開発の条例を厳しくしました。その他に農地維持のために、周辺の旅館やレストランが、良い農産物を作っていることを大前提として、買い入れをしています。農業が維持できるような農産物価格を保障しています。  
地域産業の維持・拡大を通して、住民一人ひとりの生活の営みが豊かになり、財政収入の増加にもつながります。エネルギーやモノの循環で、国土保全にもつながります。これらは中小企業者が手を取り合うことで実現します。
「買い手よし」「売り手よし」「世間よし」の三方よしの原則が実現するような社会を追求することが、中小企業憲章が目指す地域社会の在り方ではないでしょうか。  

■条例を活かした地域づくり

東日本大震災後、条例制定自治体が増加しています。条例のターゲットを従来の商工業者だけでなく、農業法人、医療・福祉事業所、各種サービス事業所に拡張する自治体が増えています。地域の個性に合わせて活用することが求められています。制定自治体が増加する中で、条例の効果を生み出すために、具体的な施策を生み出さなければ意味がないと考えます。
横浜市では、工事・物品等の契約で、地元中小企業に何件、いくら発注したかを公表しています。それだけでも、税金がどう使われているか分かります。また自治体が地域経済にどれだけ貢献しているかが分かります。条項一つ変えるだけで、大きく変化します。具体的な施策の企画・運営は、多くの中小企業者・地域住民に参加してもらうことが必要です。  

■地域の主体が連携

大災害とグローバリズムの時代においてお金儲け第一では地域社会の維持・発展には繋がりません。地域をつくる気持ちを持ち行動できるのは、地域に貢献する中小企業者です。中小企業群が自治体や農家・協同組合などと手を取り合うことで持続的な地域社会を作ることができます。
地域を作り支える仲間をどれだけ増やしていくかに、地域社会の未来がかかっていると考えます。