第50回定時総会記念講演「人を生かす経営の総合実践」
講師 ㈱現場サポート 代表取締役社長 福留進一 氏 (鹿児島同友会 副代表理事)
■会社紹介
㈱現場サポートは建設業向けサービスを提供するIT企業です。私がサラリーマン時代に事業リストラにあい、お客様を裏切りたくないという思いから起業しました。
弊社ではさまざまな数字を共有しています。売上、有給休暇取得率、平均年収、新卒離職率(9年間0%・2022年5月時点)などを社員と共有することで、生産性の大切さを伝えています。社員一人が一時間働く際の生産性を表す人時生産性も重視しています。自社の人時生産性は5800円で、二〇三〇年には1万円を目標にしています。
今でこそ新卒離職率9年間0%ですが、悪い時は二七%もありました。当時、弊社には商品を売る戦略はありましたが、理念がありませんでした。そこで同友会に入り、理念を作りました。新卒採用、共育、ダイバーシティなどに取り組んでいきました。
■働きがいと人時生産性
新卒採用を始めたとき、春が来る会社を作りたいという思いがありました。新人が毎年入ってくる。どんなに苦しい時でも、自分の役員報酬を減らしてでも続けようと考えました。
採用したら終わりではなく、働き続けてもらうための環境が大切です。自社は九州初のユースエール企業認定を受けたり、日本で一番大切にしたい会社大賞、日本における働きがいのある会社ランキングで賞をいただきました。そんな中で「働きがい」というキーワードに注目しました。「働きがい」は「働きやすさ」+「やりがい」です。働きやすさややりがいは「労使見解」の精神に通ずるものです。
働きがいと人時生産性を一緒に考えてみます。人時生産性をあげるには、投入時間を減らすか、粗利を増やすしかありません。
投入時間を減らすことが働き方改革であり、働きやすさに繋がります。長時間労働の是正など、データで管理しながら費用対効果を上げます。
一方で粗利を上げるためには、個人がやりがいを高め、商品を高く売るための努力をする必要があります。では、どうすればやりがいを高めることができるのか?その答えはコミュニケーションによる相互作用しかありません。だから費用対効果で考えるのではなく、未来への投資と捉えています。
人時生産性を高め、働きやすさとやりがいを追求することで、働きがいの高い会社をめざしています。
■浸透ではなく共感
同友会で作った経営指針を2020年に作り直しました。きっかけは社員満足度調査です。90%前後の満足度でした。高い水準でしたが、それ以上満足度が上がらないことに危機感を感じました。そこで一から作ったのが現在のGSポリシー(経営指針)です。1年かけて全社員で現場サポートについて八つのテーマで議論し作り上げました。
自社では経営理念を「私たちの理念」と言います。みんなでつくった理念として「チームを活かす、だれもが活きる」と掲げています。理念が決まったとき、社員の75%は賛成してくれました。残り25%は違和感を覚えていました。
違和感をなくすために共感するプロセスを組みました。経営方針説明会や朝礼でのスピーチ、社長勉強会など年間でたくさん行います。週に1回の社長スピーチは今朝で500回目になりました。社長勉強会は年間80回開催し、社員に20回以上参加してもらいます。とても大変ですが、かなり効果も出ています。
弊社では、理念は「浸透」させるものではなく「共感」するものと定義しています。浸透だと上から染み渡らせるイメージがありますが「私たちの理念」だから共感なのです。
■新卒採用のプロセス
弊社の採用方針は明確です。①私たちの考え方に共感できる人、②学歴や成績は参考程度、③現場サポートで活躍できるステージを用意できるか、と謳っています。
採用活動の特徴は、1次面接が社長面接であることです。志望度アップを狙っての理由もありますが、私が学生さんから面接を受けるスタンスで臨んでいます。
内定後も毎週研修として、自社コミュニケーションツールを使って簡単な投稿をしてもらいます。社員もリアクションを返します。またオンライン研修や、経営方針説明会へも参加してもらいます。おかげで学生さんも社員もお互いをよく知れるため、リラックスして入社してくれます。
■共育は社員のリスクヘッジ
共育は社員のリスクヘッジです。弊社では共育の定義について「共に育ち合いながら学習し続けること。自らのリスクヘッジは、学習以外にない」としています。会社が絶対に潰れないとは言い切れません。だからどこに行っても困らない人材になる必要があります。労使見解の「社員は大切なパートナー」という考えが根底にあればこそです。
そして社員の成長のためにはチャレンジできる環境を作る必要があります。社員の学習意欲に応じた教育制度を作り、委員会活動などの管理職じゃなくてもマネジメント能力が身につく仕組みを用意します。 評価制度は自己評価と他者評価を取り入れ社員が納得できるものにし、フィードバックにも力を入れています。また、社長面談で社員一人一人と向き合います。上司も同席することで、意思統一も図ります。
■ダイバーシティへの取組
弊社には長期疾病に関するガイドラインがあります。昨年入社した社員が精神疾患を患っていましたが、辞めてもらうという選択肢は一切なく、ガイドラインに沿って治療しながら月1回のオンライン面談などを続けてもらいました。その結果一年経たずに復活し、今では元気に頑張ってくれています。
社員は社長がどんな対応をするのか、一挙手一投足を見ています。その時は大変でも、社員に寄り添っているといずれ良くなると実感しています。
■人を生かす経営の実践
企業変革支援プログラムカテゴリー三「人を生かす経営の実践」で問われているような組織能力を高めるためには何をすべきなのか?それはシステム・制度、仕事のやり方、人と人との関係をバランスよく整える必要があります。
労使見解にあるように社員を最高のパートナーと捉え、公平なシステム・制度を作ります。システム・制度を整えるためには、社員が自立して付加価値生産性を高める仕事ができるようにします。
最後に人と人との関係です。弊社は分業で仕事を効率化していますが、そこに部署間の不和があると途端に組織はうまく回りません。だからデジタルを活用したお互いの仕事が分かる仕組みや部署をまたいだ社員同士の交流などの仕組みを作ります。
バランスよく取り組むことで利益が上がり、社員に還元し、また社内へ投資するという循環が生まれるのです。
【会社概要】
設 立:2005年
資 本 金:1,600万円
年 商:7億7,000万円
社 員 数:63名
事業内容:建設業向けパッケージソフトウェアやクラウドサービスの企画・開発・販売・サポート等
URL:https://www.genbasupport.com/
※福留氏の実践内容は同友会書籍「共に育つ4」(定価五〇〇円)に詳しく掲載されています。お求めは同友会事務局まで。