活動レポート
  • ホーム
  • >活動
  • >「踊る町工場 チャレンジの軌跡! ~伝統産業を引き継ぐ魂の報告~」広島西支部新春講演会
2022.03.16

「踊る町工場 チャレンジの軌跡! ~伝統産業を引き継ぐ魂の報告~」広島西支部新春講演会

講師 ㈱能作 代表取締役社長  能作 克治 氏(富山同友会)

 1月13日、広島西支部新春講演会が、㈱能作 代表取締役社長 能作克治氏(富山同友会)を講師に開催されました。以下にその要旨をご紹介します。  

■伝統産業の中の能作

 ㈱能作は富山県高岡市にある伝統産業の鋳造の会社です。鋳造とは鋳型に溶かした金属を流し入れる作り方です。
 真鍮製の鋳物に加え、錫製品も製造しています。
 いずれも、デザインは非常に重要です。昔からある花器のそろりは黒く着色したものが多いですが、これをリ・デザインし、着色せずに販売したところ、非常に評判がよく、海外の有名ブランドにも納入させていただいています。
 このほか、錫の抗菌特性を活かしてヘバーデンリングなど医療機器も製造しています。

■技術に磨きをかけて

 そもそも伝統産業は分業制でうちは生地屋です。問屋さんの注文に応じて、素材の色のまま形にして問屋さんに納品する100%下請でした。
 もともと僕は福井県出身で、恋に落ちた相手が能作の一人娘で、婿養子に入りました。
 うちは問屋さんから仕事をいただいているので、とにかく技術を磨かなくてはならない。高岡で一番の鋳物屋をめざし、職人として18年間現場に入りました。
 10年位すると問屋さんから「すごく鋳物がきれいになったな」と言われるようになりました。
 実は、高岡は封建的なところで「お前、旅の人(他県の人)だろ。鋳物のことを知らんだろ」と言われ、「はい、知りません」と言ってはマル秘の技を教えてもらい、自分で立証して技術を伸ばしていきました。
 つまり、うちの技術は高岡の職人さんに教えていただいた技術です。だからこそ地域に恩返ししたいのです。
 問屋さんの評価もあがり、中国の台頭を予想し多品種少量生産を始めたことで、右肩下がりの伝統産業の中で、ほんの少しずつですが成長をすることができました。

■消費者の声を聞く製品開発

 当時作っていたのは半製品。それでも一般の消費者に評価してもらいたい、自社製品の開発をして販路開拓をしたいと思うようになりました。
 チャンスが巡ってきたのが2001年。東京から来たコーディネーターが製品を見て、「めちゃくちゃきれいだから東京で展覧会をやらないか」と声をかけてくださり、展覧会をさせていただきました。
 鋳物には自信があったので、あえて色をつけませんでした。しかし、うちで作っているものは、お茶道具、花器、仏具しかありません。唯一、真鍮は音がいいからという理由でベルを作りました。
 そのベルを見たセレクトショップの方が、「扱わせて」と言ってきたのです。もう有頂天でした。僕が初めてデザインして、作って着色をお願いし、説明書を入れて箱まで作ったこのベルが、ユーザーの目の前に並ぶのです。これで製品開発ができると思いました。
 ところが、店頭に3カ月並べて、売れたのは30個。これは難しいなと思いました。
 そうしたら、店員さんが「音がいいから風鈴にしたら?」と言ってくれました。自分からすると、4千円以上もする風鈴を買う人なんているのかな、と思いました。ただ、洋物から和物を発想したのはユニークだなと思い、すぐに風鈴にして持ち込んだところ、今度は3カ月で3千個売れました。何とベルの百倍!びっくりして、何で売れるのか聞いたところ、「値段がわからないから結婚式の引き出物にする」「この音を聞いて私たちを思い出してくださいと言って渡している」との話。そうか、こういう売り方があるのか、とわかりました。それからは、店員さんの話を聞きデザインに取り入れて製品開発をすることにしました。

■錫の可能性

 錫は2003年から始めました。やはり店員さんから「もっと身近なものがないですか?」と言われ、世界で誰もやっていない100%錫製の食器を作ろうと考えました。
 やわらかく加工が難しく、高価ですが、うちの鋳造技術で成形し、生地の質感をそのまま生かしています。
 錫の器で飲むと「お酒の味がまろやかになる」と言われました。アルコールだけでなく、オレンジジュースや牛乳なども変わります。若いワインの味もまろやかになるので、今は若い赤ワイン用のマドラーを製作してコンビニ等で販売できるよう準備を進めています。
 さらに、錫の特徴として抗菌性をうたえないかを調べました。結果は、大腸菌や虫歯菌に効果があることがわかりました。錫は医療機器や介護用品にも使える可能性があります。
 現在、高岡では十数社が錫製品の製造を行っています。「高岡錫器」というブランドができて地域が活性化できればいいな、と思っています。

■地域に愛される伝統産業に

 産業観光には34年前から取り組んでいます。職人として一生懸命鋳造に明け暮れていたある日、工場見学をしたいと地域のお母さんから電話がありました。地元の伝統や技術を知ってもらう機会だと思い、その親子を案内しました。現場を案内していた時、母親が子供に衝撃的なことを言ったのです。「ちゃんと勉強しないと、あのおじさんみたいになるわよ」と。私は悔しくてたまりませんでした。
 伝統産業・地場産業はその地があってこそできた産業です。自慢こそされても、足蹴にされることはない。これを変えるには、子供たちを中心に地域の方に見てもらうしかないと考えました。
 見学を受け入れるようになって30年以上が経ちますが、その子供たちが成長して就職したいとやってくるようになりました。30年かかりましたが、富山県民が高岡銅器という伝統に対しての見方・考え方は変わりました。
 地域の人に愛される仕事になることは大事です。愛されていると、地域の方が営業マンになってくれます。富山県民の方が、県外に持って行って「高岡の能作って会社の製品だよ」と知り合いに渡してもらえる。こんな大きな営業はありません。最終的にはこれが理想だと思います。
 能作には産業観光課があり、お客様に富山県のこと、職人の気持ち、うちのデザインなどを伝えるのが役目です。
 そこでは県内観光のハブ的な要素も実践したいと思っています。能作に来れば、自社製品は買えますが、それ以外のものは売っていません。
 他のところにも行っていただきたいので、お客様が次に行きたいところが見つかるように、富山県内の観光案内のブースを作り、社員が取材して作成した観光カードを約二五〇枚置いて情報提供しています。
 産業観光のいちばん大事なことは、「独り占めしない」こと。仕事も一緒です。
 それと、無料だからと手抜きしないこと。当然土日もやるべきで、今年は正月2日から営業しました。当日は1300名もの来場がありました。

■続けること、あきらめないこと、楽しむこと

 この35年、変わらないことは、自分のポリシーです。
 まずは、絶対続けること、あきらめないこと。こうしようと思って五年やってあきらめる人はいっぱいいますが、続ければ年々成功率は上がると数学者も言っていました。時期は神様しかわかりませんが、続けることは大事です。
 僕が選択するときは、直感で決めます。選ばなかったら正解はありません。選んだ方はやるぞいう気持ちも入ります。そうするとどんどん成長すると思います。
 もうひとつは、ネガティブ思考にならないこと。僕はポジティブ人間もいいところで、すべていい方に考えています。だから新しいことにチャレンジできるんだと思います。過ぎ去ったことは考えない。これがポジティブにもつながります。成功も失敗も悪いことではなくて、一番悪いのは何もしないこと。何もしないと失敗したことを思い出すからです。過ぎ去ったことを忘れれば、どんどん未来が開けてくると思います。
 それと当たり前のことですが、「仕事は楽しむこと」。楽しくなかったら楽しくする方法を考えてください。
 最後になりますが、地域社会には労を惜しまず貢献すること。地域の企業は地域に愛されることが一番の条件です。法人税や住民税を払うのは当たり前。それ以外のことでも貢献するのが企業としてのあり方だと思っています。 

【会社概要】
所在地:富山県高岡市オフィスパーク8-1
創業:1916年 設立:1967年 従業員数:160名
事業内容:錫(すず)製テーブルウェア、インテリア用品、仏具、茶道具、その他鋳物の製造販売
企業理念: より能(よ)い鋳物を、より能(よ)く作る
https://www.nousaku.co.jp/