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2021.09.27

「児童養護施設などで暮らしている子どもたちに寄り添う地域づくり」県障害者問題委員会勉強会

報告者 ジュンブライダル 代表取締役  前川 順 氏(京都同友会)

 私は大学卒業後に婚礼衣裳の会社に就職し、1991年に慶事の貸衣裳や写真スタジオを行うジュンブライダルを設立しました。同友会に入会したのは会社設立から3カ月後です。当時は障害者問題委員会にも興味はなく、「社会的養護」の意味すら知りませんでした。
 社会的養護とは、親の病気や死別・離別、虐待や育児放棄、服役等のために、家庭で暮らすことが困難と認められた子どもたちを国と自治体が代わって育てることです。児童養護施設や里親制度など、全国で4万7千人の子どもたちが社会的養護の下で暮らしています。  

■七五三どこやない!  

 私が児童養護施設等で暮らす子どもたちと関わるようになったのは、16年前、自社と同じビルに入っていた大手学習塾で小学生が命を落とした事件がきっかけです。自社の廃業も考えましたが、多くのお客様の支えもあり、1年後には業績が回復。私は何か地域に恩返しがしたい、と思うようになりました。
 そんな時にテレビで児童養護施設の存在を知りました。私は早速、府立桃山学園を訪問し、七五三の写真撮影させて欲しいと相談しました。施設長は私の提案を快諾してくれました。職員に話を聞くと、児童養護施設で暮らした子どもたちは、早期に離職してしまう傾向があることがわかりました。働いていない保護者も多く、子どもたちの職業観が乏しいことや愛着障害による自己肯定感の低さ、夢の諦めなどもその理由でした。
 「七五三どころやない!」。そう思った私は奨学金の創設を同友会に提案しました。しかし、「お金の問題ではない」と却下。そこで、京都同友会で社会問題研究会を設立することにしました。  

■適職と「適人」

 ある日、熱心な施設職員から高校生のアルバイトの相談を受けました。私たちはアルバイトをしても数日で辞めてしまってはお互いによくないと思い、雇用の前に就労体験実習をすることにしました。実習は1社につき1人、実習後は必ず成果発表会をすることが条件です。実習先は本人の希望を考慮しますが、希望に添えない場合もあります。そんな場合は職種よりも経営者の人柄を優先しています。皆の前で発表した子どもたちは、拍手をもらうことで自信がつき、成長につながりました。
 実習のエピソードを紹介します。ある男子中学生は集合住宅のパイプスペース(水道やガスの配管スペース)に入れられていました。その後、養護施設で暮らすようになり、工務店での実習が決まりました。彼は身体も声も小さく、発表の声も聴き取れないほどでした。次の実習先を心配していると、本人は同じ工務店に希望を出しました。そこの経営者に会いたい、ということが理由でした。
 やがて進路を考える時期になり、彼は工業高校を志望しました。しかし成績が振るわず模試の結果はD判定。会員が学び方を教え続け、無事志望校に合格できました。彼が一番に結果を伝えたかったのが、工務店の社長でした。その後、高校でもその社長との関係は続きました。現在、彼は京都でも有名な木工店で働き、活躍を続けています。
 上手くいかなかった事例もあります。あるパティシエ志望の子は、洋菓子店に就職が決まりました。しかし、仲の良かったパートさんが辞めるとお店で一人ぼっちになってしまい、1年半で離職してしまいました。適職ではありましたが、「適人」ではなかったと私たちが反省しました。
 また、中には実習には参加せず、施設内に引きこもっている子どももいます。その子たちの関わりもこれからの課題です。

■自立のカウントダウン

 児童養護施設は原則、18歳で退所しなければいけません。幼くして親と離れる苦しみに加え、自立のカウントダウンが始まります。しかし、彼らとは共に地域の将来を担う仲間として接し、上から目線で教える・指導するという立場に立たないよう気を付けています。
 ある青年は、「同友会は無理だと言わず、夢に近づく方法を一緒に考えてくれる。自分の存在を認めてくれる」「君ならできそうやな、と生まれて初めて言ってくれた」と話していました。当時17歳の彼は家族が起こした事件の影響で、不登校や高校退学、施設の措置変更など様々な事情を抱えていました。
 その彼が18歳で定時制高校に通い始めました。当時の定時制高校は卒業までにリタイアする生徒も多く、私は彼に成績トップか皆勤賞のどちらかを獲るように言いました。入試の成績は最下位に近く、アルバイトも理由をつけて休んでいました。そんな彼を私は励まし続けました。そして卒業の年、彼はその両方を獲りました。それだけでなく卒業式では様々な表彰を受けました。卒業後、彼は北海道の大手企業で機械メンテの仕事に就き、頑張っています。

■本当の応援とは…

 京都同友会では児童養護施設を月に1度訪問しています。また卒園生を囲む会や成人を祝う会など、卒園後もつながりを持つようにしています。
 私は子どもたちが社会に出てからが本当の応援だと思っています。この活動の「肝」は、困った時にSOSを発信・受信できる関係づくりです。ある施設職員は、子どもが自分から私に助けを求められるようになったことをとても喜んでいました。
 同友会は国民や地域と共に歩む中小企業をめざしています。最も弱い立場であり、声を上げられない子どもたちの応援をお願いしたいと思います。