『中小企業憲章に寄せて』
広島県中小企業家同友会 代表理事 粟屋 充博
18年前の7月、福岡で開催された中同協総会で、「我々同友会で中小企業憲章の制定に向けて運動を進めよう」との提起があった時、「何それ?そんなものを制定して何になるんだろう?」と思ったことを思い出しながらこの文章を書いています。多くの同友会会員が私と同じような疑問・理解出来ないもどかしさを持たれたからでしょうか、翌年2004年4月に中同協に「中小企業憲章学習運動推進本部」が設立され、2007年7月まで丸3年余、全国各地同友会で学習と議論が活発に行われました。私自身はこの間の学習と議論を通して、中小企業憲章は同友会理念(三つの目的の中の「よい経営環境をつくろう」・「自主・民主・連帯の精神」・「国民や地域と共に歩む中小企業」)を実現するためには不可欠のものである、ということを確信するに至りました。全国各地同友会でも理解が進み、全国同友会一致で2007年7月に「中小企業憲章制定本部」が設立され、3年後の2010年6月18日に中小企業憲章は閣議決定されました。
中小企業憲章が制定された後、この理念に基付いて全国の県・市・町で次々に中小企業振興基本条例が制定され、一昨年2019年6月には経済産業省により7月が「中小企業魅力発信月間」、7月20日は「中小企業の日」に制定されました。行政との距離が以前と比べてグッと近くなり、同友会を通して中小企業の「生の声」・「政策提言」などにも丁寧に耳を傾けて頂けるようになる一方で、あてにされることも多くなりました。中小企業憲章は、同友会理念(特に、「よい経営環境をつくろう」)の実現に向けての確かな礎になったことは疑念の余地はないと思いますが、そのことのみに留まらず、同友会の存在意義をも大きく高めたように思います。
「中小企業憲章制定」という大きな課題に向け、問題提起から制定まで7年、「全国各地全同友会の合意が得られるまで学習運動を推進し、議論を尽くす」という方法で制定運動を進められたことと併せて、未来を見据えた中同協提言の「先見性」と「普遍性」に敬意を表し、中小企業憲章に寄せる寄稿文とさせて頂きます。
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真っ当に努力する人が、それなりに評価され、まわりから認められる世の中に
副代表理事(憲章・条例推進プロジェクト長) 瀬島 高志
中小企業家同友会が2003年に「中小企業憲章・中小企業振興基本条例」の制定を提唱してから一八年、2010年6月の中小企業憲章「閣議決定」から11年が経過しました。
この間、政府・各政党に、①「中小企業憲章」を閣議決定にとどめず国民の総意とするため、国会決議をめざすこと。②首相直属の「中小企業支援会議」を設置し、省庁横断的機能を発揮して、中小企業を軸とした経済政策の戦略立案等を進めること。③中小企業担当大臣を設置すること。以上3点を要望してきました。また近年では、運動推進の中で求めてきたことの一つである「中小企業の日」の制定が、一昨年実現しました。憲章の理念を広く国民にも知らせていこうとした成果です。
一方で憲章制定以降、全国の同友会の入会者数は約7割になりました。「憲章・条例」って何?自社の経営に関係あるの?と思う会員さんがたくさんおられる現状があります。この機会に改めて、同友会運動における中小企業憲章・条例推進運動の“意義・成果・教訓・今後の方向”を、会員の皆さんと学習する必要性を強く感じています。
中小企業憲章では「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である」とうたわれています。また「中小企業の声を聴き、どんな問題も中小企業の立場で考え、政策を立案・評価する」とあります。コロナ禍の中、「憲章」の位置はどの辺りでしょうか?
過去のパンデミックは、新しい価値観の創造と社会の大きな変革をもたらしました。今回の新型コロナウイルスも、社会の抱える課題を浮き彫りにするとともに旧秩序に変革をせまり、人々の価値観や人生観、社会・経済構造の大きな展開をもたらしそうです。
これから世界中で、経済や社会のデジタル化が一気に加速します。地球温暖化による気候危機が増大します。持続可能な社会をめざした動きが活発化します。これらの課題に加えて日本では、首都圏・大都市圏への人口と社会的機能の集中による弱点と、相対する地域の課題が顕在化しました。分散化社会への転換が急がれます。地方分散化シナリオとして、「持続可能性の観点から、地方税収、地域内エネルギー自給率、地方雇用など、経済循環を高める政策を継続的に実行する」ことが考えられます。今こそ、憲章・条例を軸にした「国づくり・地域づくり」が具体的な施策として望まれると思うのですが、皆さんはどのように考えられますか。
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※2010年6月18日、「中小企業憲章」が閣議決定されました。「意欲ある中小企業が新たな展望を切り拓けるよう、中小企業政策の基本的考え方と方針を明らかにした」とされています。