『 アフターコロナの経営戦略』~売上が激減しても成長し続ける企業づくり~(広島安佐支部例会・3月12日)
報告者 ㈱向井製作所 代表取締役社長
向井 雅文 氏
社長になって課題に向き合う
事業内容は、一言で言うと機械や工具を使って、金属を削ったり、磨いたりしています。1956年に祖父が創業しました。現在は会長である父が二代目、私は2016年に社長に就任した三代目です。
私は東京の大学に入学し、卒業後も東京で就職しました。数年経った頃、急に体調が悪くなり、医者の診断の結果、ある難病であることが分かりました。親からは「作業しなくていいから帰ってこい」と言われ、2004年に入社しました。同友会への入会はその翌年。社長である父がすでに会員で、青年部会に入会したのが同友会と関わるスタートでした。
社長就任は2016年で、社長になって初めて自社の課題にようやく向き合いました。「このままだとヤバイ」と危機感も芽生え、「ホームページの作り替え」「技術ニュース配信」「同友会の共同求人活動への参加」、「経営指針発表会」「設備投資」、など十のことに取り組みました。経営指針については、3回目の発表以降幹部社員が一緒に方針や計画を一緒に考えてくれるようになり、少しずつ社内の反応も変わってきました。
大誤算に次ぐ大誤算
2019年、よしやるぞと思っていた矢先、大誤算がありました。外的要因としては消費増税で、投資意欲の冷え込みが起こりました。また、CASEの進展・電気自動車化による内燃機関の需要が縮小。当然、内燃機関量産向け設備もキャンセルになったのです。
内的要因としては、人員の退職です。諸事情で幹部が退職し、連鎖的に数名も退社してしまいます。予定外の退職だったので、引継ぎも多能工育成計画も崩壊してしまいます。
さらなる大誤算は、昨年2月からの「コロナ禍」です。デフレ下、さらに移動制限によるお客様の外需向け受注の停滞、営業活動の停滞、延期。移動制限による工事受注の延期キャンセル。内的要因としてはさらなる退職、1年で計8名の退職と負の連鎖が続きます。仕事がない、方針が浸透しない、従来得意先へのこだわりでチャレンジができない、不具合の頻発、疑心暗鬼。社内の雰囲気は最悪でした。
無駄を省き、将来への投資
この危機下に永続のため必要なものとは何か。まず取り組んだのは資金手当てでした。コロナ対策で月間売上の4ヶ月分の融資借入。雇用調整助成金やインターバル助成金、IT補助金・広島市中山間地補助金など、あらゆる情報を収集・申請し、受給することができました。もちろんコスト削減にも取り組みました。関東営業所の閉鎖や社内改善など、徹底して無駄を絞り込みました。
将来への投資として取り組んでいるのが、既存顧客の深堀とDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。元々DXには投資していましたが、社内グループウェア導入によるペーパーレス化、クラウド化による利便性とコスト削減、ECサイトの立ち上げ、WEBマーケティング・CRMの強化に取り組んでいます。さらに、社員にはBCPやIoT等のセミナーに参加してもらっています。
支部の経営労働委員長というお役を昨年から頂き、立場上、経営基礎講座の運営のお手伝いをしていました。受講生の皆さんの真摯な学ぶ姿勢を見ながら、改めて経営理念を磨き直そうと思い立ました。さらに10年ビジョンも明確にしました。「2028年 日本の鋳物加工でのものづくり分野において、向井製作所は日本で確実になくてはならない会社である」。一歩一歩できることを、1人でも多くの社員と共に歩んでいきたいと思っています。
「会社の風土を変えるには10年かかる」と言われています。まだ、社長になって5年。指針発表をして3年。そんなに簡単に変わったら誰も苦労しません。この広島の中山間地の場所で、それでも信じてくれる社員を雇用し、会社と私の中身を変え続けながら生き残ります。