政策委員会学習会 「ポストコロナの時代を中小企業はどう生き抜くか」
講師:吉田敬一 氏(駒澤大学名誉教授)
去る12月4日、吉田敬一先生をお迎えして政策委員会学習会が開催されました。大変興味深いご講演の一部をご紹介します。
◆基本を押さえて議論を
首相が変わり、中小企業の生産性が話題になっています。「中小企業は生産性が低い」とのことですが、「生産性」が二つあるのをご存知ですか?
付加価値生産性と労働生産性です。こういう基本的なことを押さえずに議論をするとおかしくなります。
同じように「中小企業が多すぎる」との話があります。どこと比較して多いのでしょうか。日本とは産業構造の違うアメリカと比較して多いことが問題でしょうか?こういう時は同じような産業構造の国と比較する必要があります。
日本は、労働生産性は圧倒的に高い。しかし下請企業が多く、親企業との関係で単価を下げられているため、付加価値生産性が低くなってしまう。これは政府と大企業が作ってきた構造です。構造的問題を個別中小企業に責任転嫁されても困ります。
◆グローバル化か持続可能か
この先、新型コロナの影響が収まるのに2、3年かかるとして、米中の貿易摩擦問題の影響は後を引くでしょう。
日本の実質GDPの落ち込みは戦後最悪です。世界経済は同時不況でけん引役不在。 そして春先以降、店頭からマスクがなくなったり、部品が中国から届かないため工事が止まるなどしました。過度な経済グローバル化によりサプライチェーンが混乱したことによります。
日本やアメリカでは過度に経済グローバル化が進行。
これに対し、ドイツなどヨーロッパの国々では、人間が生きていくために大事な衣食住、文化の部分はローカル循環で回しています。この部分を日本やアメリカはグローバル化してきました。グローバル化すると、生活文化のない基準化が進み、ライフスタイルがすべてコモディティ化してしまいます。
本来地域経済は、成長は少ないかもしれないが成熟するもの。多様性のある地域経済が持続可能性を高めます。地域経済を支える地域密着型の企業をどう育成するのか。コロナ禍は、日本にどちらの道に行くかをつきつけています。
◆景気回復の格差
日銀短観を見ると、規模、業種を問わず、4月が底で回復しつつある回答でした。ところが、大企業と中小企業、製造業と非製造業で見てみると、大企業より中小企業の回復が鈍く、非製造業より製造業の落ち込みが激しくかつ回復の度合いが低いのです。
トヨタは最先端の母工場機能は日本に残し、海外に生産工場を展開しています。トヨタ型の展開をすれば、最先端の母工場に関わる仕事をする企業は一定の能力が求められ、中小企業も技術も残ります。
◆持続可能な経済社会づくり
日本は、グローバル化・成長志向で進んできました。
しかし、これからも持続可能な経済社会を作るには、多様性を活かした経済構造と企業づくりが求められます。自動車やテレビなどを安く規格化されたものを場所を選ばず生産する文明型産業に対し、地域固有の文化を支える多様性のある文化型産業は、地域に根差しています。今、本当の意味での文化型産業づくりが求められています。本物であれば、グローバル展開しても評価されます。パリの店にある樺細工の茶筒や、南部鉄器がそうです。
コロナ危機に新たな活路を切り開く中小企業の戦略は、基本は徹本業です。製造業で言えば、固有技術の先鋭化。本業にこだわらず、しかし本業を離れず、です。
キーワードは「地域深耕」。岩手県住田町の取組が参考になるのでご紹介します。
この町は気仙大工の町でした。東日本大震災で津波被害にあり、復興にあたり、責任もって七千人の住民が食べていける町づくりに取り組みました。木を使って家を建てる川下の気仙大工から遡り、プレカット事業協同組合などの加工、製材、木質バイオマス、森林資源のブランド化など住田町と周辺地域共同で地域内経済循環を作っていきました。町営住宅はもちろん、町役場の新庁舎も木造です。気仙大工の文化も生かし継承しつつ、地域の人が食べていける経済循環のしくみを作り上げたのです。皆さんの地域でもできませんか?
文化型産業は文明型産業のように急激な成長は望めないかもしれません。しかし、資本が地域で循環し、地域密着型の中小企業が担い、地域で熟成する産業を育てることで地域経済が持続可能になるのです。
最後に、次の言葉を皆さんに贈ります。Think Globally,Act Locally!