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2020.12.24

経営フォーラム2020 第1分科会 「『しくじり先生』コロナで変わる働き方 ~これからのオンライン化と コミュニケーションを考える~」

しくじり① 「自由と放任を取り違えて社員が辞めた」 瀬良 博美 氏

 私は呉市と広島市で一級建築士事務所をしています。建築設計・店舗設計・内装デザイン・家具デザインなどを手掛けています。ほかにちょっとレントスペースとシェアオフィスを運営しています。  

■初めての採用

 我社は私が1人で運営していました。仕事が増えるのに合わせて、建築事務所への勤務経験のある友人を初めて採用し、広島事務所を任せることにしました。ところがうまくいきません。細かな指示をしている仕事はちゃんとできるのですが、最初からやり方を任せると、途端に仕事が滞るのです。
 そこで、同業他社からの下請けの仕事を担当してもらうことにしました。それなりにうまく仕事をこなしていたのですが、その会社の専属になるために我社を辞めたいと言ってきました。「もっと指示をきちんと出したり、仕事のマニュアル化をしてほしかった」。それが彼女の置き土産の言葉でした。  

■雇用について考える

 そんなこともあり、初めて雇用について考え始めました。今の時代に雇用という形態にこだわる必要があるのか。プロジェクト毎にチームを組むという形態もあるのではないか、と思ったのです。  こうした中で、コロナ禍を迎えることになります。  

■自己完結型から協働型へ

 その頃、大型商業施設や海外出店などの案件を抱えていたのですが、コロナで動きにくくなりました。特に東京などへ打ち合わせに行くことができなくなったのです。  そこで、クライアントとの打ち合わせはすべてリモートで行う事にしました。資料にはすべてQRコードを付けて、できるだけ実感がわくようにしました。協力会社さんとは画像を共有することで、齟齬が起きないようにしました。こうした安価な仕組みを利用することで、ONE TEAMの体制作りを進めています。  リモートやITを活用することで、地方にいる「距離」というデメリットを解消できて商圏を広げることができました。また、移動も含めて様々な面で経費を削減できました。  コミュニケーションのカギは、相互理解だと思います。そのために、活用できる仕組みを十分に生かすことが、今後は大事になるのではないでしょうか。これをキーワードに、田中さんにバトンタッチします。

しくじり② 「自社らしさを見失いかけた」 田中 雅也 氏

 わが社はスマートフォンのアプリケーションソフトを作っています。社員は20名です。主なものでは、ユニ・チャームさんの各種アプリ、勤怠管理システム、同友会の名簿アプリなどがあります。  

■テレワークの導入

 2月までは通常の勤務を行っていましたが、3月に入ってコロナ感染が広がり、開発者四名からテレワークを導入しました。しかし、テレワークのルール、PCの貸与、データのセキュリティ、出社している社員との待遇差の問題など、課題は山積みです。試行錯誤で進めることになります。4月に緊急事態宣言が出ると、8割の社員をテレワークに移行。出社する社員は、幹部がローテーションで自動車での送り迎えをするなどの対応を行いました。
 テレワークを行うにあたっては、Office365やメールはもちろん、VPN、Docbase、Zoom、slack、050+、Skypeなどのアプリを大いに活用しました。  

■テレワークのメリット

 テレワークのメリットには、対外的な信用低下リスクを下げる、通勤の負担減、情報共有・コミュニケーション方法の深化、デジタルの一層の推進、自然災害等への迅速な対応、アウトプットファースト、会社対応への社員の不安解消、社員採用時のアピール、などがあげられると思います。しかし、手放しで喜べる事ばかりではありませんでした。  

■自社らしさを失う

 最大の問題は、我社らしさ、が感じにくくなったことです。
 例えば、ベンチャー気質(スピード感、チャレンジ精神や積極性)が低下し、笑顔や思いやりが減りました。プログラムが3度のメシより好きなスタッフが、勤続疲労や会話の欠如を訴えるようになります。
 つまり、テレワークのデメリットとして、相互理解不足や、業務による不公平感、会社への帰属意識の低下、ON/OFFの切り替えの難しさ、管理業務の比重が上がる、などが指摘できると思います。

■試行錯誤の中で

 今は、試行錯誤の途中ですが、積極的にコミュニケーションを図り、社員との信頼関係(心理的安全性)を確保するように努めています。また、テレワークに入らせる前に、個々の社員の適性を考えることも必要だと思います。生産性が上がることも理解してもらう必要があります。
 そのために、新たにスマホで勤怠管理(自社開発アプリ)やシフト管理を行い、業務の可視化を進めているところです。大事なのはデジタルとアナログ、それぞれの良い所を組み合わせて利用することではないでしょうか。

しくじり③ 「パートさんが全員辞めた」 塩梅 泰弘 氏

 わが社は中古コピー機の販売・レンタルおよび保守メンテナンスを行っています。社員は現在5名です。

■パートさんが全員辞めた

 基本的には、基幹業務である営業と保守は社員が担当、その他の事務系の仕事はパートさんにお願いしていました。ところがそのパートさんが全員辞めてしまったのです。
 パートさんが辞める理由は様々ですが、この報告の準備中には「あなたが原因では?」とさんざん言われました。でも実際に辞められると、仕事の引継ぎが大変ですし、採用も含めて経費がかさみます。辞められるたびに心が痛みますし、そもそも仕事を引き継ぐ人がいません。
 そんな状況の中で、コロナ禍を迎えました。新たに人を迎えるべきか、ずいぶん悩みました。

■業務を徹底的に見直す

 そこで、今までパートさんに依拠していた仕事を徹底的に見直しました。そうすると、例えば請求書1通を出すのに520円もかかっているなど、無駄がたくさん見つかりました。
 この業務改善のために、システム化、オンライン化、ネットワーク化、クラウド化、アウトソーシングをテーマに取り組むことにしました。

■改善と新たな仕事

 会計ソフトは、クラウド会計に変更、ペーパレスになり、作業時間は圧倒的に短縮できました。請求業務はシステム化し、基本的にメールで行うようになりました。経理業務や電話応対は代行業者にアウトソーシングしました。既存のお客様には、LINE公式アカウントを利用しています。名刺管理や勤怠管理、経費精算はクラウド化。拠点間の連絡は仮想VPNネットワーク化を行い、移動をなくしました。
 その結果、社員は直行直帰が行いやすくなりました。
 結果、パートさんがいなくても仕事を回せる状況ができ、売上はさほど上がっていないのに、黒字になりました。
 また、新たな事業として、企業のオンライン化の支援事業を始めました。

■テレワークの課題

 とはいえ、中小企業のテレワークには課題が山積みだと思います。労務管理、セキュリティ、ルール作り、モチベーションの維持、コミュニケーションなどです。
 そこで、会の中にテレワークの研究会を有志で作ることができれば、と考えています。
 ともあれ、田中さんが指摘された通り、デジタルとアナログの両方がコミュニケーションには必要です。今は、社員さんとの飲みにケーションを大切にしています。

まとめ 神田晋一郎氏

 3人の方の「しくじり」の率直なお話とその後の取組みから、新しい時代の在り方のようなものがおぼろげに見えてきたと思います。
 まず、コロナであろうがなかろうが、急激に進むIT化の波にはあらがえないという事です。仕事のあり方そのものも変わっていく可能性があります。
 だからこそ、仕事を担う社員さんや協力者とのコミュニケーションや信頼関係が必要になっているという事です。それは、同友会の言う「人を生かす経営」の根幹です。
 ぜひこのことを胸に、新たな取り組みを進めていきましょう。