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2020.12.24

経営フォーラム2020 第6分科会「 縮小する業界の中で生き残るブランディングとは ~新しい一歩を踏み出す勇気~」

報告者 ㈱有斐園 代表取締役  福島慶一 氏(三原支部)

■縮小する造園業界

 造園業は主に緑を扱う仕事で、大きく分けて公共工事と民間工事があります。内容は新設工事(公園や植樹帯の新設)と維持管理業務(すでにある緑地の定期的な剪定など)の2種類です。
 高度経済成長期から環境問題が注目され、Co2削減のために緑地を増やす流れが続いていました。自社は公共の新設造園工事が主力で、私が入社した2000年には5億円の売上があり、社員も30人以上いました。しかし利益は赤字黒字を繰り返していました。というのも、仕事の内容の良し悪しで収入が変わっていたためです。ほかにも、入札制度の度重なる変化も原因として挙げられます。
 また、公共投資額(国の造園工事などへの投資額)は私の入社時から右肩下がりを続けて、社長に就任した2010年には半分まで減少しました。造園業の経費の大半は人件費です。予算減少で公共工事が減少して、事業所が倒産、個人事業主が増え、各々が仕事を得るため価格競争になり、価格破壊が起きました。

■会社で空回りの日々

 入社した当時の有斐園は、公共事業を広範囲でカバーするために三原・広島・竹原の3拠点を設置。営業はより多くの仕事を取るために毎日忙しなく動いており、現場は広範囲に渡るため実際の現場作業だけでなく移動時間も長くなり残業続き。社内の雰囲気はギクシャクしていました。そんな中で私は、誰よりも現場ができるようになって認められたい、社員に気に入られたいと誰に対しても良い顔をしていました。会社の雰囲気を良くしたいと1人で様々な親睦会を企画します。しかし社員は乗り気ではなく、私が1人で空回り。ある時には自分だけが誘われていない慰労会が開かれていたことが発覚し、ショックでした。

■社員がついてこないのは当然?!

 「自分は一生懸命頑張っているのに、なんで伝わらないんだ?」と社長就任前後の私は悶々としていました。そんな時に出合ったのが同友会です。先輩経営者に誘われた時は、怪しい団体だと疑念の目を向けていました。しかしその先輩経営者の会社の社員の和気藹々とした様子を偶然目にすることがあり、「うちもあんな会社になりたい!」と思い例会に参加しました。躊躇いもありましたが、最後には自分の意思で入会を決めました。
 入会間もなく、島根であった青年経営者全国交流会に参加しました。未だに変わらない会社のこと、社員との溝など抱えていた悩みをグループ討論の場で打ち明けました。するとグループの全員から「社員はあなたではなく先代について来たのだから当然のこと。あなた自身が理念を示していないのに、社員がついてくるわけがない」と言われました。言われて初めて、自分は頑張っているつもりだったが、会社を変えていくことからどこか逃げていたと気づきました。この言葉が、自社を本気で見つめ直そう、分析してみようと考える一歩を踏み出すきっかけです。  

■有斐園を分析する

 まず自社を分析し、弱みと強みを明確にすることから始めました。当時の自社の弱みは「売上と利益が比例していない」「固定費が高い」「社員との溝」。逆に強みは?と売上の事業内容ごとの割合を調べてみると「民間の維持管理業務が多い」ことがわかりました。これは業界で見ても珍しいことでした。
 分析して見えてきたことを解決するために、社員1人ひとりと面談をして、これからの有斐園の方針を伝えました。その結果去っていった社員もいましたが、古参社員から「好きにやったらいいよ。最後までついていくから」と言ってもらったことは嬉しかったです。
 弱みの高い固定費は営業所の1本化など無駄を削ることで解消し、「売上と利益が比例していない」不安定な仕事は、有斐園が気づかず持っていた強みである「民間の維持管理業務の多さ」を伸ばす民間維持管理業務特化の会社にすることで、利益率が高く、固定客との取引のため年間計画も立てやすい経営へと変わりました。
 先に述べたように造園業界は斜陽産業です。そんな業界で自社の立ち位置をより盤石にすべく、自分や自社のブランド力向上のために「困ったときは有斐園」と言ってもらえるような造園業界・顧客・世間から信頼される福島慶一・有斐園をめざしました。

 これまで敬遠していた業界の集まりに積極的に参加し、自ら広告塔となることで名前を売り込みました。集まりに参加することで顔も広くなり、今年、国内最大級の花と緑の祭典「ひろしまはなのわ2020」のメイン役員を任されるまでになりました。
 仕事においては、民間から仕事を受注するにあたり、顧客のニーズや要望のみならず、企業の業績から取り扱っている商品、担当者の特徴など徹底的に調べ上げ、顧客のことを熟知した上で仕事をすることで有斐園が主導で提案する仕事ができるようになりました。もちろん信頼を得るまでには何年もかかるのですが、それだけ自社に関わるお客様を大切にしています。新規の仕事も、顧客の紹介などつながりから生まれています。
 こうして有斐園のブランディングを進めることで、フロー型からストック型の売上比率に変わってきて、経営に余裕が生まれました。また、自社の強みも「提案型植栽管理」「自社施工率90%」「施工期間の短さ」「業界ネットワーク」「フットワークの軽さ」「社員の平均年齢の若さ」など増えています。

■社員と一緒に有斐園を考える

 会社経営も独りよがりで進めるのではなく、社員をどんどん巻き込んでいきました。ブランディングの一環として自社のキャッチコピーを考える際は、社内コンペを行いました。社員の家族まで全員が参加した発表会で、「今さら聞けないみどりの常識、教えます」というキャッチコピーが誕生。経営理念も社員の意見を聞きながら一緒に考えて、今年やっとできました。
 私が社長に就任した前後から今までに、変化はたくさんあります。今は新社屋の建設も計画しています。変わっていく中で、私も社員も楽しく仕事ができるようになりました。これからもそうあるために、社員を巻き込みながら新しいことのできる有斐園をめざします。

■有斐園のブランディング

 有斐園は周りから信頼されるために、自社も顧客も徹底的に分析することでブランディングしてきました。  私の座右の銘は「七転び八起き」です。幼い頃は何度転んでも諦めないという根性論だと思っていましたが、最近は「転んでもすぐ起き上がれるよう、大怪我しないために先を予測する」という意味だと感じています。何があっても対応できるように自社を徹底的に分析して誰よりも理解する。その魅力を相手に効果的に、熱意を持って伝える。社長が熱意を持っているからこそ、社員もついてきてくれます。有斐園が全社一丸となって生まれた付加価値を、これからも見つめ直して、磨き上げていきます。

【会社概要】
設立:1981年
資本金:1,000万円
年商:1億3,000万円
社員数:11名
事業内容:造園業