激変する国際情勢と海図なき航海を進む日本経済
講師 駒沢大学 教授 吉田 敬一 氏
11月18日に開催された県理事会では、来期方針準備のため吉田先生をお迎えして情勢の勉強をしました。興味深いお話に、その後のグループ討論も白熱。ここでは当日のご講演の概要をご紹介します。
◆二一世紀の日本経済の特徴
今、大企業は輸出も内需も増えなくても儲かる仕組みができています。
以前と同じであれば、アベノミクスによる円安で、自動車産業の輸出が増え、国内へのトリクルダウンも起きるはずでした。
しかし、海外へ生産拠点を移している大企業に円安の恩恵が特別利益として内部留保と配当にまわっただけで、国内の仕事は増えませんでした。これまでの常識が通用しない局面に入っているのです。
2010年以降の統計を見ると企業の倒産数は減少から横ばいで推移しています。しかし、廃業件数は右肩上がり。廃業の内訳は小規模企業が圧倒的に多く、特に商業で廃業による減少が多い。身近なところでも小さな商店の廃業が思い当たりませんか?通販があるとはいえ、地域にお店がないと困る人はいますね。
貿易では、日本企業の輸出先の多くは、中国、韓国、台湾などアジアです。日本は国としてもアジアの中での経済政治戦略を持って行動する必要があります。しかし、国と国との関係は不透明です。
ですので、地域では、例えば広島は何があっても持続可能な経済を作っていくことが大切です。ドイツやイタリアは都市国家で、国家がどちらの方向を向いていようが生活圏である地域での生活に変化はありません。生活文化産業、成長志向一本でないスタンスを持つ必要があります。
◆三種類の経済循環
経済循環は、資金を調達し、労働力や原材料を調達、生産・加工をして、卸売・小売、売上代金の還流、再投資という流れです。この循環には、ローカル循環、ナショナル循環、グローバル循環の三つのタイプがあります。
一つめのローカル循環は、地場産業に代表される地域単位での企業間生産分業構造=地域経済循環が成り立つもの。これには地産地消型の生産と市場が地域的に限定されたものと、地産外消型の生産はローカル循環を基本とし流通を含めて考えるとナショナル循環を構成するタイプがあります。日本の地域産業の多くは、卸小売機能を大企業にゆだねています。「地商」が弱い。ここをもっと強化しないと地域内で還流しません。
二つめがナショナル循環。国民経済レベルでの企業内地域分業構造です。
三つめは、グローバル循環。トヨタに代表される世界的規模での企業内国際分業です。
◆日本と、ドイツ・イタリアとの違い
これらの経済循環の土台は、価値を生み出す産業(製造業)と実現する産業(卸小売業)です。日本各地で地産地消に取り組んで、価値を生み出す産業を育んできました。ところが、価値を実現する段階になると東京の大企業・地域外資本に委ねてしまい、地産「地商」がとても弱い。本社機能の集中する東京に価値も集中してしまっています。日本は生活のすべてを市場経済に囚われているのです。
ドイツやイタリアは違います。もともと都市国家だった歴史の影響もあるでしょう。小さな村では、暖房は地元の森で出る薪を使い、地域で循環する暮らしがあるのです。そこに都市部の人が泊まりにきて、都市では味わえない暮らしを楽しむ。その土地独特の文化の価値が認められた本物の地域文化体験なのです。
日本でも各地域で価値のあるものがあるはずです。さらに磨きをかけてシンボル的な製品を作れないでしょうか。
日本にもドイツ並みにグローバル循環、ナショナル循環で戦える企業はあります。
これからはさらにローカル循環を活発にしていく必要があります。昨今のように、いざ国際的な問題が起こり「さて困った」ではなく、地域で「こうしよう」という理念を持って進むことができるよう取り組んでおく必要があるのです。
◆文化型産業と文明型産業
産業には文化型産業と文明型産業があります。
文明型の典型は、テレビや自動車など近代的機械工業で、利便性・快適性・普遍性を持っています。言い換えると、民族性がなく、規格化され、どこでも作れ、皆が欲しがり、成長性が高い。
文化型産業は、衣食住に代表される生活必需品で、民族文化にあふれています。ここで記憶を重ねるまちづくりをすると、地域特性が出て、わかる人はそこに行かざるを得なく価値が生まれる。成長性は高くはないが地域で資本が回る熟成型産業です。成長性が高くないので切られてしまいがちでもあります。この二つの産業の違いをはっきり認識しておくことは大事です。
◆地域を支える中小企業
2010年に閣議決定された中小企業憲章の理念には、雇用とその地域に必要な財・サービスを提供すること、加えて「伝統技能や文化の継承に重要な機能を果たす」とあります。京都の祭り文化が良い例です。地域の町衆・旦那衆が支えています。
その地域を支える中小企業には四つのタイプがあります。
まず地域に大きな影響力を持ち、固有の技術や社風などがある「シンボル企業」。
次にそれぞれの業界業種の中で何か考えて未開の地を開きがんばっている「フロンティア企業」。
さらに、地域で大きな影響力のある産業で、その会社がなくなると困る仲間がいて取引先の親会社にも認められ、下請会社もいる「リーディング企業」。
最後が、リーディング企業のネットワークに入ってがんばっている「ベーシック企業」です。
地域の中小企業として、自社が現在どのタイプで、これからどこを目指すのか考えることも必要です。
中小企業もコミュニティキャピタル、その地域独自の資産です。地域経済づくりを考えると、地域の中小企業経営者の役割は大きく、同友会の会員増強の意義もおわかりいただけると思います。
もう五年も経つと日銀の異次元緩和は崩壊するでしょう。国が中心の経済は大変なことになります。
国民が泣かないためにも、地域中心の経済を確立することが重要です。その見本を中小企業が身近なところでやっていかないといけません。
加えて、同友会会員は働く人が楽しく働くホワイト企業でなくてはなりません。同友会の「人を生かす経営」の実践です。
◆優秀なユニット受注型からの脱却~フロンティア型へ
日本では、企画開発と試作に特化した大企業とそれを技術で支える中小企業という関係ができています。中小企業はいわば運命共同体で、モノづくりの基盤能力はあるが、企画開発力がない。「何を作ればいいのか」がわかるまとめ役のネットワーク型中小企業がいないのです。
時代の変わり目の今こそ、優秀なユニット受注型企業から、フロンティア企業へ変化するチャンスでもあります。
フロンティア企業の経営者に必要なことは、異人種間交流です。まさに同友会です。
今までとは違う環境で、どういう発想で地域の力になるか。人口減少と技術革新をうまく活用していくことです。
人口減少の下げ止まり地点を明確にして、地域内で資本を循環させる経済にしていく必要があります。これは地域の多くの中小企業を巻き込まなければできません。これが同友会で学ぶ仲間を増やしていく理由のひとつです。
◆何のため、誰のために仕事をするのか
「大阪のくいだおれ」はよく聞かれる言葉だと思います。
皆さんちょっと勘違いされているのですが、漢字で書くと「杭倒れ」です。昔の大阪は幕府直轄地で、橋を架ける人がいませんでした。そこで地元の商人をはじめとした地域の人がお金を集めて杭を立てて橋をかけたのです。昔の人は集めたお金を地域に還元していたのです。
今まで日本の物づくりを支えてきたのは中小企業です。これまで商品企画を考えてきた頭脳部分を担った大企業は海外へ出ていきました。
このような状況だからこそ、何のために、誰のために仕事をするのかを考える地域のリーダー、中小企業が必要とされています。