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2019.12.26

記念講演 未来を拓く!「人を生かす経営 ~伝統産業を生き抜く、情勢認識と経営戦略~」

報告者 ㈱宮﨑本店 代表取締役会長  宮﨑 由至 氏 (三重同友会相談役)

時代の現状を正しく理解する

 日本の人件費は相当安く、優秀な技術者は海外へ。事実、沖縄の製造業が台湾の下請け仕事をするほどチープレーバーマーケット化しているのです。原因は技能実習者制度にあります。この制度がある限り日本の若い人の給料は上がりません。
 最近では、老後資金に2000万円必要と話題にもなりました。こういったニュースに大多数の人は「けしからん」と思うでしょう。しかし経営者はそこで終わってはいけません。問題の解決が経営者の使命です。同友会も社会的問題について議論できる団体であってほしいです。
 AIの発展は目覚ましい勢いです。会議の議事録も、人が行えば一週間かかるものがAIなら会議が終わるとすぐ完成です。膨大な記録を収集するAIに人は記憶で敵いません。しかし、0から1を生み出すのは人間です。AIは前例踏襲の塊です。今後我々には、新しいことを考える能力が必要とされます。
 現状を把握し、自社なら何ができるのか、どう生かせるかを考えていくのです。

中小企業だからできること

 大手の経営者が最も大切にするのは株価です。株価を上げるために人件費を下げ、設備投資を控え、いかに期間利益を上げるかを考えます。
 対して中小企業経営者は株価を気にする必要がありません。では何を見るのか?それは社員です。良い仕事、良い生活をしているかを気にかけます。設備投資や新人の採用など、未来に投資するのが中小企業経営者です。
 未来投資型経営のもと、会社の歴史・理念を受け継ぎ、仕事のフットワークも軽く、社員を大切にすることができるのは、中小企業だからこそです。

理念・歴史・組織・資金を承継する

 社員は年を取ります。だからこそ後継者の代の社員を育てる必要があります。そのために、同友会は共同求人をしています。人を定期的に採用していかないと、人事の承継はできません。人が辞めたから採用をするなんて人事施策をしていたら、事業承継や経営理念の浸透などできるはずもありません。
 親子喧嘩も要注意です。仲が悪ければ、会社の理念・歴史の継承ができません。

数字に強くなろう!

 資金の承継を考えるなら、数字に強くなりましょう。私が会社を継いだ時、自己資本比率は17%でした。無借金経営(自己資本比率50%)をめざし、ついには70%にまで至りました。ところが赤字になれば自己資本比率が一気に下がります。同友会は労使見解の中で「維持発展」を謳っています。赤字を出すなということです。だからこそ、数字の勉強が必要になります。
 人件費を下げて設備投資を控えれば、期間利益は上がります。しかしそれは、見た目だけの黒字です。会社の本当の実力は、利益+償却+どれだけ人件費を上げられたか。それを決算書から読み取ることが大事です。

ブランドはどう作る?

 「宮﨑本店ってブランドしっかりしてるよね」と言われる理由のひとつ、キンミヤ焼酎は、売り方を変えて大きくなりました。焼酎には乙類、甲類の2種類があります。キンミヤ焼酎は甲類で、要は混ぜる焼酎です。
 甲類焼酎の容器は4リットルなどの大きなものが主力です。薄利多売で大手のようにいくはずもなく、「緩やかな自殺」をしているようなものでした。そこで、売り上げの7割を占める4Lサイズを止めました。まず経営者として1番にすべきことは経営計画を立て、金融機関に資金援助してもらうことでした。それから新しく小型容器の商品など、代替商品をひたすら作りました。
 今までの大型容器は重いため、お店でも机の下などに隠れています。だから飲む人はブランドを知りません。ブランディングから最も遠い商品だったのです。まず知ってもらうというブランドの基本を知りました。
 ブランディングを考える際に、社員に「あなたが考えるブランド」についてアンケートしました。すると、月桂冠やキリンビールなどの名前が上がりました。てっきりシャネルやグッチなどの名前が出ると思っていた私は困惑です。その時ブランドにもナショナルブランド(全国どこでも入手できるブランド)とラグジュアリーブランド(狭い顧客層を狙い高級嗜好品を売るブランド)の2種類があると知りました。前者は製造能力のある大手しかできません。宮﨑本店は後者のブランドをめざしました。
 大手市場ではなく、個人店にのみ販売。キンミヤ焼酎の良さは、お客さんが自ら発信してくれました。私たちはどうやって割ったらより美味しく飲めるかなどの情報を発信して差別化を図りました。

経営は戦略と戦術

 もとは4Lを辞めるという決断、そして安売りしない戦略でした。そして戦術として、新しい商品をたくさん出しました。決断するのはトップです。トップが考えるのは戦略で、現場の社員は戦術を考えます。分かりやすいのは、経営指針、経営理念です。
 自社には経営指針がありませんでした。そこで社員とともに作ったのが「当社は酒類・食品の製造販売を通じて社会に貢献できる企業を目指します」という経営理念。  経営品質賞に応募しようという話になり、分厚い資料を用意しました。1ページ目に経営理念を書くと、審査員に「この理念をお客様にどう発信していますか?」と思ってもいなかったことを聞かれました。そこでどう発信するか社員と考え、出たアイデアが商品ラベルへの印刷でした。年間で1升瓶400万本を製造していますから、400万人に理念が届きます。「社会に貢献できる企業をめざす」と明記してから、社員の意識も変わりました。
 経営理念は作って終わりではありません。経営理念とは戦略です。浸透するかは、戦略である経営理念を具体的に戦術まで落とし込む必要があります。作った経営理念を生かして会社が良くなっていかないと意味がないのです。

老舗は革新の連続

 自社は創業173年、私は6代目になります。私は経済学部でマーケティングについて学んでいたのですが、後継者として酒造組合に参加して、その会議に経済用語が一切出てこないことに気づきました。みんな知らないのです。これは自分の強みだと思いました。
 自社は歴史があるだけあって建物も古い。これを放っておくと汚くなります。古いと汚いは紙一重で、それはマインドも同じです。100年企業だから安泰と胡坐をかくと、会社は汚くなります。常に手を入れないと保たないのです。経営品質賞を狙ったのも、週休2日制の導入も。今までと同じだと汚くなるから取り組みました。実は古い老舗ほど革新の連続なのではないかと思います。 

地域を代表する経営者へ

 親しい経営者に岐阜同友会の元代表理事、未来工業㈱の山田昭男氏がいます。当時、未来工業の一週間の労働時間は37.2時間でした。自社の労働時間を何とか週40時間にしたいと相談したことがあります。「簡単よ。社長が『やる』と言ったら明日からできる。以上」。私は頭にきて、会社に帰ると社員に「明日からやる!」と言い放ちました。さすがに翌日からはできませんでしたが、シフト制の導入など試行錯誤の末、一年後にできました。業界では初のことでした。
 山田氏に夢は何か尋ねたことがあります。「メインバンクに利益で勝つこと」と答えました。それは無理でしょうと言っていたらリーマンショックでメインバンクが赤字になり夢が現実になりました。
 地域を代表する経営者とは、大手で期間利益だけ上げているような経営者では必ずしもありません。自分の思っている事をきっちり言いながら、人の憎まれ口をたたきながらも、後輩を育ててくれる。会長になった今でも、私はそんな経営者をめざしていきたいと思っています。