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2019.12.25

第8分科会 見学分科会 「私が社長になって取り組んだ10のこと ~新事業の種は強みの徹底追究にあり~」

報告者 ㈱向井製作所 代表取締役社長  向井 雅文 氏 (広島安佐支部)

■同友会は「金の無駄」?

 事業内容は、工作機械・産業機械部品の加工・組立、工作機械修理、そして後ほどお話しする「セルフ研磨」です。
 一言で言うと機械や工具を使って、金属を削ったり、磨いたりしています。1956年に祖父が創業しました。現在は会長である父が2代目、私は2016年に社長に就任した3代目です。
 私は高校卒業後、東京の大学に入学しました。親の思いの実現としがらみを捨てて東京で独立したいという思いからでした。卒業後も東京で就職しました。数年経った頃、急に体調が悪くなり、医者の診断の結果、ある難病であることが分かりました。親からは「作業しなくていいから帰ってこい」と言われ、2004年に入社しました。当時は漠然と「父の後を継いで社長になる」と考えていました。営業担当でしたが、現場と葛藤しながら、納期の調整や見積りを作る毎日でした。
 同友会への入会はその翌年。正確に言えば、社長である父がすでに会員で、青年部会に入会したのが同友会と関わるスタートでした。しかし、当時勤務していた役員でもある親族からは、「金の無駄だ」とよく言われていました。

■腹を括ってやるしかない

 大きな転機はリーマンショックでした。仕事がほとんど減り、売上が前年の3分の1にまで落ち込んだのです。雇用調整助成金をもらいながら、週2日勤務体制でなんとかしのいでいきました。ショックだったのは、今後の勤務体制の社員へ向けての説明会の時に、役員であるはずの親族が、社員側の席に座って説明を聞いていたことでした。この時に「自分が頑張るしかない」と腹を括ることができました。
 何より、仕事がない以上は新しい仕事の柱をつくるしかありません。機械が売れないなら修理のニーズはあるのではないかという仮説を立てました。19933年より先代が特殊出張修理ということをやっていました。製造現場にとって、NC工作機の主軸精度の狂いは悩みの種なのです。こういう場合、狂いの出た機械を止めてヘッドを分解し、スピンドルをメーカーに送り、修正して送り返してもらっていました。しかし、それでは機械を長時間止めなければならず、費用負担も高額になります。そこで、うちでは、自分達で修理しようと、セルフ研磨機を製作し、社内での修理に使っていました。セルフ研磨機は、工作機械に載せて、ヘッドを分解せずに半日程度で主軸テーパー角度に合わせて砥石を使ってテーパー部分を研磨する機械です。

■見込み客を探す方法

 さて、お客様をどう探すか。ここで活用したのが、同友会の全国会員データベースでした。ホームページから誰でもみることができ、業種分類も細かく検索できるのです。ここから機械商社をピックアップし、近畿圏に約30件、愛知県に約30件、該当する会員企業があり、アンケートを送ってみました。3分の1返信があったのですが、出張修理のニーズがあることは分かりました。さらに該当企業に電話をかけて、話を聞いてくれそうなら実際に営業に行き、数社から仕事も頂けました。
 次に取り組んだのは、このセルフ研磨をいかに知ってもらうかでした。まずは専用ホームページの作成、さらに実際の作業の様子も動画として紹介できるようにしました。セルフ研磨の写真を載せた折り畳み名刺を作成し、自分の名刺と一緒に渡し、地道にPRもしました。分かりやすく伝えるためにも、カタログやチラシを作成したり、セルフ研磨「SERUKEN」という商標登録も行いました。さらに、セルフ研磨ロゴを社用車にも貼り付け、あらゆる場面をPRの場にできるよう考え、実行していきました。  

■「このままじゃヤバイ!」

 始めた当時は約550万円の売上しかありませんでしたが、昨年は約4500円。10年で約8倍に、売上の15%を占めるほどに成長しました。このことは私の大きな自信になりました。そして、2016年、社長就任と同時に青年部会長も引き受けることにしました。
 しかし、社長に就任して感じたのは、いかに自分が本業から目を逸らしていたかということでした。そもそもの機械設備自体も古く、組織体制も家業のままであることに気がつきました。自社の課題にようやく気づき、「行動しないとこのままだとヤバイ」と危機感を感じたのです。

■取り組んだ一〇のこと

 まず取り組んだのは、①「ホームページの作り替え」でした。何をやっている会社かを分かりやすく伝わるように意識して作りました。
 続いて②「『機械部品VA/VEハンドブック』の作成」。技術提案書であり、営業用に使うためですが、何より社員教育に活かそうと考えました。
③「技術ニュース配信」、メールによるニュースレターのようなもので、自社の情報発信を意識しました。
④「同友会の共同求人活動への参加」、将来の会社像を見据え、組織づくりや経営理念づくりに取り組む一環として、自分と一緒に働いてくれる人を求め求人活動を始めました。
⑤「新事務所建設」、現在皆さんがいるこの社屋がそうです。一昨年に完成したのですが、社員全員が集まれる場所が欲しい、社員が働きやすい環境を作りたいという思いからでした。
⑥「経営指針発表会」、同友会で学び成文化してはいたのですが、社内発表会したのはこの時が初めてでした。どの会社でもそうらしいですが、社員は「シーン」としていました。今年2回目の発表会でしたが、それ以降幹部社員が一緒に方針や計画を一緒に考えてくれるようになり、少しずつ社内の反応も変わってきています。
⑦「社員例会への社員の参加」、同友会ならではですが、同じ製造業の会員企業へ社員と訪問し、見学会も行っています。社員にとって他社を見る体験が学び、刺激になってくれているようです。
⑧「委員会活動」、これも同友会で学んだ委員会活動を自社で活用するため、まず二つの委員会を立ち上げました。レクリエーション委員会、新製品開発委員会です。社員による立候補で委員を構成し、ルール化し、裁量権を与えての活動です。最初は希望者による定時外の活動でしたが。定時内で全員で行うよう内容含め変更しました。さらに安全委員会、行事委員会、不良撲滅委員会、生産向上委員会、採用プロジェクトチームも立ち上げ、委員長を受けてくれた社員には手当も出しています。
⑨「数字に強くなる訓練」、経営戦略を学ぶある会への参加や「戦略MG」というゲーム形式で経営を学ぶものを社員研修で活用しています。
⑩「設備投資」、ものづくり補助金を活用して行いました。具体的には三次元測定機を新たに購入したり、先の「セルフ研磨」用の道具も一新したりしました。ちなみに、助成金活用のアドバイスや相談は同友会会員の専門家にお願いしました。  最後に、おまけではありませんが、同友会を他にも活用しています。例えば、いろいろな経営判断を迫られることもありますが、いろんな会員の事例を聞いてきたので、すぐに対応できます。新しい事業の「ネタ」も仕入れることができます。また、社内トラブルが合った時には、会員弁護士に相談したり、活用させてもらっています。

■あとは「パクって」やるのみ

 青年部の最大の特色は、卒業があることです。私も卒業までもう一年もありません。改めて考えてみると、限られた時間に出逢った人をフル活用して、自分自身が経営者として成長する場だと思います。役を受けてみて思うのは、できるチャンスがあるのなら、なりたい自社のビジョンと相談して、可能な負荷の範囲でやるべきだと思います。組織運営を学べるチャンスであり、チャンスを主体的に生かせない社長の下で社員が主体的になるはずがありません。他人を変えることはできません。それよりも自分が成長して器を広げたほうが早いと私自身は思っています。
 最後に、同友会での活動を通じて感じていること。自分と異質な人、意見の合わない人、目上の人と、一度は一緒に真剣に向き合って活動することが大事ではないでしょうか。同友会で失敗しても、会社でその反省を生かせばよいのです。社員あっての事業であり、私自身は三代目経営者として、受け継いできた本業の強みをこれからも磨き続けていきたいと思っています。その上で、隣接異業種のビジネスの種を蒔き、育てることが私の仕事だと思っています。
 同友会で「TTP」という言葉があります。「徹底的にパクる」という意味です。私もたくさんのことを「パクリ」ました。そして、実践してきました。実践してみて、少しずつですが、会社が良くなっていると実感しています。