広島西支部20周年記念講演 未来は地域にしかない!
講師:大学院大学至善館 教授 枝廣 淳子 氏
地域に根差した中小企業や行政が地域づくりをしていく上で、①地域内の力をどう高めるか。②どのように外に情報を発信していくか、という両輪が大切です。私が関わっている地域づくりの事例を交えてその二点についてお話しします。
■しなやかに立ち直る地域を
地域づくりのお手伝いをしていると、毎回新しいことをしている元気な地域と、諦めムードな元気のない地域に二極化していると感じます。日本全体では後者が多く、どこも力を失っています。
地域の危機は国の危機です。人口3万人以下の市町村の人口全てを集めても日本全体の8%。しかしその土地面積は48%。8%の人が48%の国土を守っている現状です。他にも温暖化やエネルギー問題、金融危機、人口減少など不安定な時代です。そんな時代を生き抜くために必須の能力がレジリエンス(外圧に対して、折れずにしなやかに立ち直る力)です。
■ビジョンを持つ
レジリエンスのある地域を作るために必要なのは、①ビジョン(どんな地域にしたいか)を持つこと、②外部に頼らない仕組みを地域内で作ることの2つです。
そして、3つのステップを踏んで地域づくりをします。
ホップ:バックキャスティング。現状や制約条件に縛られずに未来の望ましい地域の姿を描く。
ステップ:システム思考により町の構造を知り、何が課題か把握する。図のように矢印が集まる箇所が重要な点。
ジャンプ:課題解決のプロジェクトを立ち上げる。
島根県の海士町は本土からフェリーで3時間ほど離れた島にあります。人口はかつての3分の1まで減少していました。そこで、行政と町の事業者でビジョンを作り、それを元に色々な取り組みを続け、UIターンが増え人口がV字回復しました。現在は次世代の地域活性化を担う人を育成する取り組みも進めています。
■地域でお金を循環させる
ビジョンを作る時、いかに外部に頼らない地域経済の仕組みを作るかがポイントです。
地域経済をバケツに例えた考え方(漏れバケツ理論)があります。地域にお金を貯めても、入ったお金が外に漏れていたらお金は残りません。大切なのはお金を引っ張ってくるだけでなく、一度入ったお金をいかに地域内で滞留させるか。
その効果は、例えば、1万円が地域に入った時、A町は地域経済のことを考えず、入ったお金の2割しか地域に残りません。一方地域を意識しているB町では、8割が地域に残ります。これを積み重ねると大きな差が生じます。
■漏れバケツの穴を塞ぐ
地域にはたくさん穴があります。穴を見つける方法には、①産業連関表(産業間の取引額を表にしたもの)の作成、②企業が地域内に回している金額の調査、③一般市民の買い物調査が挙げられます。
北海道の下川町では1年かけて産業連関表を作ることで、木材の製材や農業が黒字を生み、冬場の暖房で年間13億円が外に漏れていることがわかりました。この穴を塞ぐために、林業の町であることを活かし、暖房を灯油からバイオマスに移行しました。
灯油を買わなくなることで不利益を被る灯油屋さんには組合を作ってもらい、共同でのバイオマスチップの販売により生計を立てられるようにしました。誰かを切り捨てるようなやり方では町の経済を創りなおすのは難しくなります。変えることによって不利益を被る人とも共生の道を模索しましょう。
ほかにも買い物調査で地域内の需要を知り、その供給を外に頼っているのなら、新たに地域内で起業をすることで穴を塞ぐ方法もあります。
■地域をこの手に取り戻す
しなやかな地域を作るために行政や事業者などの街づくりに取り組む人にとって大事な力がいくつかあります。それは、①将来を見据える力、②考え抜く力、③議論する力、④実際に変えていく力、⑤伝える力です。 これらの力をつけ、再び自分たちで手綱を握れる地域をつくっていきましょう。