福山支部新春講演会&新年互礼会 「どうなる?2019日本経済、どうする!?中小企業経営~同友会型企業で未来を切り開く!~」
講師:駒沢大学経済学部 教授 吉田敬一 氏(中同協企業環境研究センター座長)
はじめに
2013年に福山支部に来た時の福山支部のテーマがGCH(社内総幸福)でした。
私はこのGCHという言葉が大好きで他同友会でもよく使わせてもらっています。GCHは社員や会社とかかわりあいのある人がより幸せになれるような会社を目ざすという意味で、GCHの「C」には「Custmer」、「Cmmunity」も含まれているということですね。様々な人の幸せを考えたとき、多様性のある企業経営が必要となります。多様性とはある意味成長志向ではありません。成長志向は量で語れますが、幸せは量では語れません。
また近頃、QOL(Quolity of Life)という言葉が使われますが、お客様の生活の質の向上を考えたとき、やはり量では語れません。お客様にはそれぞれ違い(=個性)があります。様々な個性がある、この前提がないと、豊かで幸せな社会は作れません。
グローバリゼーションが進むほどグローカリゼーション、ローカルに徹するということがポイントになってきます。
国際的経済環境の攪乱要因
今年ほど訳のわからない年はないと思います。
色々と懸念事項はあると思いますが、米中貿易戦争の行方は予測不能です。専門家の評価もバラバラです。中小企業は地域社会に足場を置いているので、地域経済の持続可能性を担保するような枠組みを作りつつ、個性を徹底的に磨いていくことが重要です。 日米貿易交渉においては、アメリカがASEAN+3で巨大な貿易圏を結ぼうとしていることに関してどのように出てくるかわからないといったことがあります。
一方、EUの屋台骨を背負っていた独・仏・伊で政治的混乱が起こっていることも懸念事項です。特にドイツではメルケル首相が首相を降りること、またドイツ国内で東西格差が出ていることなどが問題となっています。 以上のような政治的な動き(危険因子)が残っていることへの注意が必要です。
人づくりがポイント!
帝国データバンクの景気動向見通しと福山支部の経営見通しがあります。帝国データバンクの2019年見通しでは「回復局面」との回答が激減している一方で、福山支部のアンケートは、まるっきり逆で、横ばいまたは上向きとの回答が多くなっています。これは回答企業がある程度経営基盤を確立しているとみるか、もしくは単に楽観的なのかわかりませんが(笑)、どちらにしろ、ここまでがんばろうという意思が全面に出てきている回答も珍しい。これをどう現実にしていくかが課題となってきます。
「人づくり・人育て」が一つのポイントとなってきます。少子高齢化の中で新卒採用もままならない中、既存社員のレベルアップが中心となり、あるいはそれを補完する形での女性の労働力も大切でしょう。
社員を消耗品として使うのではないという労使見解の観点がどこまで社内で共有できるかが大切になってきます。
新入社員に聞いてみると会社を辞めるポイントも辞めないポイントもどちらも会社の「雰囲気」とのことです。これは人と人との関係のことを指しており、企業文化の基本です。社員を一人前の人間として扱い、育てあげてくれるのかを社員は見ています。
人を育てるということはその人間の成長段階に応じた適切な指示を与えていかなければなりません。10人入社したとき皆同じ指導ではダメです。人を見極めて適切な関係で指示を与えていくという企業文化が必要です。これが同友会のいう「共育ち」の基本です。労使見解の基本を完徹して初めて経営指針の議論ができるのではないでしょうか。
大企業の黒字の仕組み
米の金融緩和の是正で利上げがストップし、円高に振れてくる可能性が出てきました。そうなると日本はどうなるかというと、現在の大企業の高決算が消えてしまいます。
ここで見ていただきたいのが、2010年を水準とすると現在日本の輸出量は数量ベースでみるとまだ2010年の水準に戻っていません。また、円安になっても自動車八社合計の輸出台数は減っています。ここで注目すべきは国内自動車の国内生産は増えていないが海外生産は増えているということです。
ではなぜ、大企業は猛烈に黒字が増えているのでしょうか。黒田総裁は『教科書には為替が下がると輸出が増えると書いてある。しかし日本では円安でも輸出は大幅に増えなかった』(17年5月6日アジア開発銀行イベント「日経」17年6月7日)と嘆いたそうです。20世紀までは確かにそうだったのです(円安で日本の輸出は伸びる)。
2012年終わりに安倍政権が登場し、異次元の緩和をしたとき、1ドルは100円の円安になりました。このときグローバル展開している大企業は製品の値段を下げずに特別利潤を出しました。なぜならこのような企業は海外で製品を生産しているため、円安の恩恵を受けず、製品の値段を下げられなかったからです。
しかし輸出価格(ドル決済が基本)を据え置いた場合(例えば3万ドル)、1ドルが80円から100円に円安になると、円に交換すると60万円の利益が増える。この特別利潤は実際は工場を稼働させて出た利益ではないので、下請けで賃金を上げたりはできません。会社の内部留保や配当に回ります。このように実態経済は動いていかないのです。
この効果は円高になると消えます。ただし、円高でもグローバル展開している企業は利益は減っても海外メーカーで作った方が儲かる仕組みができています。これが「技術指導料」と呼ばれるものです。これは海外の工場出荷額の5~10%を本国(日本)へ送金するものです。海外の工場では「カイゼン」の提案などは出てこないので、これが出てくる日本の経営システム(現場労働でQCサークルなどをやっている)ならではのものです。このようにグローバルに現地生産現地販売をしている企業は円高でも円安でも儲かる仕組みができているのですが、円安のほうが特別利潤で儲かるので、経団連などはこちらを支持しています。
では、生産はどんどん海外へ移転して日本の中小企業はなくなるのでしょうか。それは否です。技術指導料をとるためには「技術指導」の元ネタになる、国内母工場が必要です。そこでは新製品の開発に一緒になって取り組む一定数の優秀な中小企業の存在が必須です。単純な量産などは海外に移したり、マニュアル化されたものを逆輸入したりできますが、技術の開発に一緒に悩んでくれ、「カイゼン」の提案をしてくれることは簡単に海外には期待できません。
地域再生を支える地域密着型中小企業
地域経済振興に特効薬はありません。自分のやっている商売の本質的機能は何かを押さえておいて日々頭を使うしかありません。戦略としてはあったら便利な機能をつけていく(車でいえば、カーナビなど)や、あって当たり前の機能をなくしてしまう(QBハウスの10分カットなど)という手もありますが、いずれにせよ、きっちりと顧客ニーズに対応する「ないと困る会社」になることが大事です。基本はやはり本質的機能を深化させることです。老舗のブランドは全てこれをやっています。
地産地消は当たり前。目ざすは地産「外商」!!
日本はこれまで成長志向(拡大志向)できましたが、そろそろ、地域生活文化に乗っかった製品(=ブランド)をつくる時期ではないかと思います。
地域でつくったものを地域で消費するだけならどこでもやっています。商業資本は価値を実現していくものですが、地域は今、地産ばかりしていて「地消」の部分は外部資本が入っており、儲けは東京にいってしまっていることが多いのが実態です。流通資本を地域内に浸透させていかなければ地域は潤いません。
また、地産地消で魅力が磨き上げられた特産品を域外で地域商業が販売し、域内に「外貨」を運んでくるところまでめざしてほしいと思います。
専門店から専門「家」店へ
地域経済をリードする「なくなったらお客様が困る会社づくりにおけるポイントのひとつに財・サービスを扱う担当者の人間的魅力があります。最終的にお客さんと接するのは「人」です。QOLを追求すると客は皆と同じ財・サービスではいやだということになります。そうしたとき、お客の生活や好みに対応した提案をできると、「この人がいるからここで買おう」となります。行き過ぎず、行き届いたサービスができれば、単に商品知識に詳しい「専門店」から専門「家」店となり、なくてはならないお店となるでしょう。
同友会型企業
同友会の会員企業は3つの目的・労使見解・経営指針づくりをセットで行っています。これらがうまく回りだしたときに、「よい会社」「よい経営者」が自分の言葉で語れるようになっているはずです。
例会・役員会に出て何か気づきを得てアンテナを立てておけば、必ずつかむものがあると思います。そしてさらなる一歩を踏み出していただきたいと思います。