活動レポート
  • ホーム
  • >活動
  • >中小企業をめぐる経営環境の変化 ~中期的・短期的な視点から考える~第6回県理事会
2019.01.23

中小企業をめぐる経営環境の変化 ~中期的・短期的な視点から考える~第6回県理事会

講師:慶応義塾大学 経済学部 教授  植田 浩史 氏

●将来を考え今を考える

 10年ビジョンという言葉を最近よく耳にしますが、10年後の変化を当てることは難しいです。皆さんが使っているスマホは10年前には存在しませんでした。当てることが難しいから考えなくてもよい、というわけではありません。予測することが重要です。10年後を予測することは、現在何をしなければいけないか考えるために必要なプロセスです。今回は、科学性、社会性、人間性の3つの視点から、10年後の業界、地域、わが社、自分について考え、今考えなければならないことにつなげていきます。  

●技術の変化と産業の変化

 今我々は色々な変化に直面しています。特に注目すべきなのが技術の変化です。よくきくものだと、IoTやAIなどがあります。技術の変化が産業の変化を生み出す場合があります。現在では製造業よりも情報産業の方が強くなってきています。  

●世界を支配する企業

 現在、世界を支配している企業はGAFA(ガーファ)と呼ばれています。ガーファとは、グーグル、アマゾンドットコム、フェイスブック、アップルの総称です。技術の変化を背景に、情報化をベースにして産業のプラットフォームを支配する企業が世界で最も影響力のある企業になってきています。  

●「アレクサ」に潜むしかけ

 アレクサのCMでは、お父さんと息子がお母さんの誕生日のケーキの準備をしています。このCMには重要なポイントが3つ隠されています。
 まず1つ目は、アレクサの電源が常にオンになっています。つまり、アマゾンのAIに常に我が家の状況がつながっているということです。
 2つ目は、アレクサに「電気を消して」と言うと消してくれます。つまり、家の電気製品がアレクサとつながっているということです。例えば、冷蔵庫とつながっていると冷蔵庫の中身までわかります。
 3つ目は、お父さんがアレクサに「キッチンペーパーを注文して」と言います。アレクサはアマゾンにキッチンペーパーを注文します。この時に注文するキッチンペーパーはアマゾンのプライベートブランドかもしれません。
 客が何も言わなくても、気持ちを察して足りなくなりそうなものを自動的に注文してくれる時代が来るのかもしれません。  

●タクシー料金が無料に?

 自動車産業から見たこれからの変化として、タクシーの料金が無料になる可能性があります。
 現在、タクシーの料金を支払うのは乗客です。しかし、AIによる自動運転が進むと、タクシーは客を店に連れてくる道具になるかもしれません。つまり、店がタクシーを使って客を自分の店に誘導する手段になりえるということです。そうなると、タクシーの料金を支払うのは店側ということになります。  

●環境変化を生き抜くには

 現代では様々な変化が起きる可能性があるため、中小企業としての強みの内容は一様ではありません。「常識」の中で高い競争力を持つことも大事ですが、今後は脱「常識」という常識を超えたものが求められる時代になるかもしれません。いずれにしても、顧客や地域にとって不可欠な企業である限り、「不況産業」はありません。何が不可欠なのかという部分も時代や環境変化によって変わってくる可能性があります。
 自社の強みを創造し、強化していくためには社員の力が不可欠になります。その中で企業のビジネスモデルの変革が必要です。その際に、経営指針の明確化と、指針をベースにしたビジネスモデル、戦略の検討が重要になります。指針が明確化されないと激しい環境変化に振り回されるだけになる可能性があります。  

●10年後を見据えた経営

 IT、IoT、AI等々の技術の変化がビジネスモデルの変化を加速させるという問題意識を持ち、中小企業、または自社として何が問題か常に考えることが重要です。
 その他の変化として労働力不足の問題や最低賃金の上昇があります。
 労働力不足の問題として、男性の20~60歳の労働力率はほぼ限界に達しています。労働力として新たに供給できるのは女性と高齢者です。
 最低賃金の上昇に関しては、先進国である欧米に対して日本の最低賃金はまだまだ低いため上がる余地があります。将来的には上がることを意識しなければなりません。  

●社員教育の重要性が高まる

 DOR(同友会景況調査報告)から見た「社員教育」の位置づけの変化として、「社員教育」が課題であると答えた企業の割合が2000年代初期は30%前後。2000年代半ばで30%台後半~40%。2015年以降になると45%前後と多くなってきています。
 同じくDORのデータより「経営上の力点」として「社員教育」を選択した企業は、「人材確保」を選択した企業に次いで業績が良く、「社員教育」「人材確保」と経営業績の好循環が結果として出ています。
 社員の教育・研修の重要性は高まっており、機会も増えています。しかし、成果、計画的な実施や指針・計画での位置づけ、社員一人ひとりの教育の課題の明確化については課題が残されているという状況です。  

●社員教育計画が重要

 経営指針・経営計画を作成し、会社の将来、そのために必要な人材を強調し、人材の確保と育成の計画を立てることが重要です。その上で、指針・計画をベースとした人材確保・採用活動や社員教育・研修を進めていかなくてはなりません。
 さらに、理念の共有・経営計画の共有を意識的に追求することにより、計画の実現、利益の実現や企業としての成長発展、強い会社づくりにつながります。そのためには人を生かす経営や働きやすい労働環境と仕組みを作り上げていくことが求められています。  

●同友会を自社に生かそう

 高度成長期以来最大の労働力不足や「第四次産業革命」、IoT、AIなどの変化に耐えられるようにするためには社員の採用と教育(共同求人活動)に取り組み、企業業績の向上と好循環を実現し、結果として地域社会に貢献することにより地域になくてはならない企業になる必要があります。そのためには社員教育を軸とした好循環の追求、社内の仕組みの構築、社員の現状と会社の現状・未来に必要な課題を検討し、先進的企業から学ぶことが求められます。小規模企業における社員教育・研修のあり方を学ぶために社員教育を重要視してきた同友会を有効に活用しましょう。