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2019.01.05

第3分科会 全社一丸の高付加価値企業をめざす ~働く環境づくりをとおして経営指針を実践~

報告者 香川県ケアマネジメントセンター㈱ 代表取締役  林 哲也 氏
(中同協 経営労働委員長、香川同友会 副代表理事)

 同友会には1996年に入会。香川県ケアマネジメントセンター㈱で登録していますが、合同経営グループとして、居宅介護支援事業、行政書士法人、社会保険労務士法人、税理士法人などを経営しています。

■労使紛争で自殺者も出た時代

 私の父はタクシー会社の経営者で、1972年、労働組合ができました。学校から帰ると家の前に組合の宣伝カーがとまり、春闘で賃上げ交渉が決裂して経営者である父を批判していました。父の個人的な行動を攻撃する内容もあって、中学生だった私はとても傷つきました。
 乱暴な時代でした。今は労働組合はそういうことはしません。当時は労働組合との対峙に疲れて、会社をたたんだり自殺した経営者もあったそうです。そういう時代に同友会は、労働組合とどう向き合うか、社員との関係を全国的に議論し、社員は最も信頼できるパートナーだと言い、経営指針の作成と実践を提起しています。すごいですね。

■付加価値は社内で使えるお金

 付加価値は、よく使う言葉なのに意外とわかっていませんでした。調べてみますと、
・中小企業庁方式の付加価値:売上高―外部購入価値
・日銀方式の付加価値:経常利益+人件費+貸借料+減価償却費+金融費用(利息)+租税公課
があり、これが世間一般で公式な付加価値の計算式ということになります。粗利とはちょっとちがいます。
 付加価値は、売上から外部へ支払ったものを引いたものです。付加価値が増えると、社内でまわすお金が増え、設備投資や給与の引き上げをする原資となります。

■損益計算書のどこに人件費を置くか

 普通の決算書では、人件費は一般管理費の中に入っています。すると利益を増やすには、売上を増やすか、人件費も含めた支払いを減らすかということになります。
 それに対して付加価値は、社内にお金(人件費も含めた)を残していく考え方です。「利益を上げよう」というのと「付加価値を増やそう」というのでは、意味が全然ちがいます。
 わが社では、付加価値という言葉は使っていませんが、経営指針書では、人件費を出すための事業だという意味で、損益計算書で人件費を1番下に置いています。
 中同協の経営労働委員会は試算表を作る時に人件費は別グループにしようと提起しています。

■経営指針で社員と共有する

 わが社の経営指針書は、第1部が会社全体のこと、第2部が部門や個人のシートになっています。10月下旬に全社で見直しと成文化をしていきます。
 年2回、本人と上司と私で、50分くらい個人面談を行い、その内容が個人シートに反映されます。話すことがなくなっても時間いっぱいやります。するとお互いに言わないでおこうと思ったことが出てきます。そうやってコンセンサスを作っています。

■経理の公開も大事

 経営指針書の中で数字も公開していますので、数字を見ながら人件費をどう確保するか、そのために一般管理費のコストカット、売上の増強など議論していきます。こういう論理構成ができるツールが付加価値という考え方ではないでしょうか。これを経営指針の中に表現し、社員と共有してこそ全社一丸につながると思います。

■付加価値を高める取り組み事例① ~介護職員処遇改善加算管理システム~

 介護事業所の職員は、昇給のための原資として、国から処遇改善加算が支払われます。それをちゃんと従業員に払ったかどうか報告する実務があります。
 わが社は約50事業所の処遇改善加算の集計業務を請け負い、2月と7月に非常に忙しく、6名のスタッフが、主婦なのに、毎晩10時12時まで残業していました。表計算ソフトなのでセルが一個間違っていたら合わなくなり、計算式をずっとチェックしていく泥沼のような作業になります。
 この過酷な状態をなんとかしようと、2年前に、同友会会員のシステム会社にお願いして、作業を表計算ソフトからデータベースソフトに乗り換えました。その結果、残業がピーク時で1時間程度になりました。
 去年、このソフトを全国販売してみたら北海道から宮古島までユーザーができました。請負の集計業務の売上は減りましたが、ソフトが売れたことで利益はカバーできました。

■付加価値を高める取り組み事例② ~介護情報誌~

 わが社のケアマネさんは涙が出るような、人間の尊厳に触れるような仕事をしています。施設等への入所者ではなく、在宅で死にたいと希望され、家族が承認した方のケアプランだけを、高松市内で約200件担当しています。
 子どもが遠隔地に住んでいる場合が多く、独居老人が増えていて大変です。お金があればいいのですが、そうでなかったら老人クラブや民生委員に協力をお願いしたり、あらゆる手を使ってその人に合ったプランを組んでいきます。
 要介護者の家族は、ふつう介護についてはわからないことだらけで、いろんなドラマを乗り越えて落ち着くべきところに着地していきます。うちのケアマネは、職人芸的な高度な知識と経験を持っているのですが、物語が目の前を流れて消えていっています。これは宝を捨てているようなものだと気づいて、事例をピックアップして「あるある事例集(仮題)」として本にまとめようと考えました。これから介護に入っていく家族の方に読んでもらい、トラブル事例を知ってもらうことで、対応のスキルが上がり、安心するのではないかと思います。
 ある大手コンビニが東京で暮らすサラリーマン向けに介護情報誌を作ろうとしていて、この「あるある事例集(仮題)」に引き合いが来ています。これが実現すれば、事務所のブランドが高まりますし、ケアマネの初期対応の負荷を軽くできると期待しています。

■できれば、ではなく計画に

 中同協の経営労働委員会は「働く環境づくりのガイドライン」を提起しています。労働環境についても経営指針に太い柱として盛り込みましょうということです。
 同友会会員の経営指針の多くが、経営理念や10年ビジョンや売上目標はあるが、労働環境について明確になっていません。できれば社員の給料も上げていきたいが、とりあえず売上を上げていこうという経営指針になっています。
 できれば、ではなくて、給料も確実に計画として上げていくという経営指針でなければ、社員との一体感は上がらないのではないでしょうか。

■働く環境づくりは労使の信頼関係の基盤

 かつての労使紛争が激しい時代には、給料を上げていく計画があって、これで一緒にがんばっていこうとやったものです。いま、「人間尊重の経営」を標榜する同友会の中でも、労働環境はあまり約束しないほうがいい、できれば後回しにしたいという雰囲気がプンプンします。同友会の歴史と伝統が崩れているのではないかと危惧します。
 経営指針に給料を上げていく計画がないと、付加価値を高めて何に使うのか、設備投資と役員報酬にまわすのはいいとして、社長の車が立派になるのか、ということになりかねません。
 働く環境づくりに真剣に取り組むことは、必然的に付加価値を高めることにつながり、経営指針で共有することによって社員との信頼関係が高まります。