第8分科会 「漁民の森」から地域コラボ、国産材木製ドアの誕生とこれから ~同友会で学んだ地域の実践例~
報告者:ユダ木工㈱ 代表取締役 湯田 卓 氏
報告者:永本建設㈱ 代表取締役 永本清三 氏
〈永本氏の報告〉
■地域というバケツ
漏れバケツ理論というものがあります。自分たちがいくら地域というバケツにお金を入れたとしても、穴の開いたバケツだと、まったくバケツにお金が残りません。地元に入ったお金で海外や、県外から材料を買うというモノづくりをしていたら、地元に何一つ残らないのです。
バケツの穴を塞ぐには、地域が連携して地元の中でお金をまわし、経済力を高めていくことが大切です。
■地元の木材を使う
話は変わりますが、私は「漁民の森づくり」という植林活動をしています。湯田さんには活動が始まった当初から参加してもらっています。
日本の山は放置林によって荒れ放題です。荒れたまま放置すれば、土砂災害にもつながります。そこで山の木を管理して、木材として活用します。山を管理する人や丸太に加工する製材所など、地域で連携する必要があります。
そのために「漁民の森づくり」活動を通じて環境意識を持ってもらいたいのです。
外材ばかり使えば、先に述べたように地元の山は荒れ、その上利益は海外に出ていきます。これでは日本の経済は良くなりません。そこで永本建設では、広島の木を使った家づくりに、ユダ木工は国産材を使った玄関ドアづくりに取り組んでいます。外材から国産材に切り替えることで、外国に出ていくお金を地域に残すことができます。 また、ユダ木工の玄関ドアは高名な建築家の伊礼智さんのモデルハウスに採用されました。国産材を使ったドアにブランド力がついたのです。
湯田さんには、外材の輸入というバケツの穴を塞ぎ、新たな付加価値を生み出したユダ木工の取り組みについて話していただきます。
【永本建設㈱ 会社概要】
■設立:1989年
■資本金:1200万円
■年 商:6億5000万円
■社員数:18名
■住宅設計施工、高断熱・高気密・バリアフリーなど対応
<湯田氏の報告〉
■ユダ木工を取り巻く環境
廿日市市はもともと中国山地の木材を集積する場所でした。高度経済成長時代に木材がたくさん必要になり、大量の外材が入るようになりました。木材を取り巻く環境は年々厳しくなっていく。そこへどうやって対応していくかが課題でした。
ユダ木工は1924年に祖父が建具屋として創業しました。バブルのときは売上が8億にも上りましたが、2000年には4億にまで下がりました。大変な時代でしたが、永本さんと出会い、自社は変わっていきました。
■試行錯誤の連続
もちろん永本さんに出会うまでにも様々な取り組みをしてきました。ヨーロピアンドアづくりから始まり、ツーバイフォー工法やラスティック玄関ドアの販売などです。
2005年に販売を始めたラスティック玄関ドアの「ラスティック」とは、田舎びた、古びたという意味です。その当時はドイツのガスケット(ドアの構造に気密性を持たせるために用いるシール材)を使用しており、それが「ラスティカルブラウン」という色だったことから、「ラスティック」という言葉を知りました。
日本では京都などでも古びた趣を大切にします。それを玄関ドアに活かせないかと考えました。大手のように耐久性を重視するのではなく、経年美を売りにしました。
■売上の3分の1を手放す
翌年の2006年には二つの大きな出来事がありました。一つは事業の一柱であったマンション受注の中止です。2000年以降のマンションが乱立してた時期。マンションの建具をいくら作っても安く買いたたかれるため、やめる決断をしました。当然経営は厳しくなり、そのときに藁をもすがる思いで同友会で経営指針を作りました。
■国産材を使った取り組み
もう一つの出来事が、永本さんとの出会いです。「漁民の森づくり」の活動に参加して、初めて日本の山の現状を知りました。「山を守るために外材だけでなく国産材を使用した商品も作らなければ!」と取り組みだしました。これまで知らなかった国産材の市場について勉強し、構想を練りました。そして5年後の2011年。「MIYAMA桧玄関ドア」を商品化しました。中国地方の市場から丸太を買い、製材し、加工して出た端材も燃料にすることで丸太を余すことなく活用しています。また、断熱や防火など国産材を使用した新しい商品の開発にも取り組んでいます。
■10年後の会社を生かす
「漁民の森づくり」の活動に参加してから、今年で12年が経ちました。私の思いから始まり構想を膨らませて5年、実際に行動を起こし、試行錯誤しながら商品を完成へと近づけていくのに5年以上。
10年前に考えていたことによってユダ木工は生かされていると私は感じています。それは、永本さんと出会うよりも前に取り組んでいたヨーロピアンドアやラスティック玄関ドアにも当てはまることです。つまり、今考えていることによって、10年先の私たちは生かされるのです。
■チャレンジ1000
自社では今、チャレンジ1000を目標に掲げています。これは年間で1000本の玄関ドアを販売しようというものです。2012年の年間販売本数が約300本。現在は約800本になりました。また、玄関ドア総本数に占める檜の割合は5年前の18%から85%になっており、木材使用量に占める国産材の割合は5.7%から58%になっています。このように、量と質がともに変化しているのです。
■エコからトンガリへ
エコとは特別にお金を出して取り組むものだと思われるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。
私は永本さんと知り合い、「漁民の森づくり」に関わることで、地元の山の現状を知り、国産材を使いたいと思うようになりました。ですがそれが負担になっているわけではありません。国産材は外材に比べて価格が高いわけでも、質が劣るわけでもありません。
それでいて国産材を買えば、山の木が放置され荒れることもなく、木を加工するために地元の製材所を利用すれば地元の市場にお金がまわり、結果として山の荒廃を防ぐことにもつながります。地域内循環が起こります。自社にとっても、そして地域にとってもプラスになるのです。
大量生産の大企業は石油をはじめ外国の資源を大量に消費します。しかし自社ではできるだけ石油は使わず、端材を利用したボイラーを使うなどエコな仕事をしています。これが他社に真似できない強みになるのです。
■キラリと光る中小企業へ
これからもユダ木工は、①経営理念に基づき本物の木にこだわり、②常に求められるオンリーワンのドアをつくり、③社員がいきいきと働き、技術が継承される会社をつくり、④地域でキラリと光る存在を目指していきます。
【ユダ木工㈱ 会社概要】
■設立:1969年
■資本金:4500万円
■年商:3億円
■社員数:41名(パート14名)
■高級木製ドアの製造販売、インテリアパーツの製造販売