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2018.07.31

中小企業憲章閣議決定8周年記念行事(6/27) エコノミックガーデニングから学ぶ ~地域経済の活性化

講師:拓殖大学政経学部 教授 経済学科長  山本 尚史 氏

■地域経済の未来のために

 日本の10年後は地域経済の危機かもしれません。団塊の世代の後期高齢化、消費の減少や社会保障支出の増大、中小企業経営者の引退など、問題は山積みです。
 地域経済にとって望ましい未来は、人口10~20万人くらいの地方都市で、30代の人が年収5~5百万円の仕事に10年間就けるような仕事を地元企業が創出することで地域経済が自立することです。
 そのために地方が目指すべきは「誠実経済」モデルです。そこに至るには五つのステップがあり、まず地元に対する意識である地域土地柄認識。そして地域の特色(人のネットワークやインフラなど)である地域経済生態系があり、この生態系にあった実践的戦略を立て、経営変革がうまくいけば地域の人や企業に対して感謝の言葉があふれ、地域土地柄認識が肯定的になる。この循環により誠実経済に至ります。
 誠実経済とは、利益の追求だけでなく道徳も併せ持ち、地域の自然も大切にする。そして逆境に柔軟に対応するような経済のことを言います。
 誠実経済実現のためにはその地域の特色と一貫する戦略が必要となります。その戦略がエコノミックガーデニング(以下、EG)なのです。

■地域にあった戦略

 EGでは地域経済を「庭」、地元の中小企業を「植物」に例えています。地域という土壌を生かして地元企業を大切に育てることにより地域経済を活性化させる政策です。
 アメリカのコロラド州リトルトン市では、企業誘致に頼らない地域づくりとしてEGに取り組みました。具体的には地元経営者ネットワーク構築、戦略的な情報支援ツールの市役所での提供。インターネットマーケティングの助言などの支援を行いました。そのおかげで就業者、市の税収がともに増加したのです。しかし、リトルトン市の真似をすればどこでもうまくいくわけではありません。赤土と黒土だとガーデニング方法が違うように、地域によって取り組みも変えなければいけません。
 千葉県山武市のように市役所と商工会青年部が共同で取り組んでおり、産学公民金が連携して支援している実例もあります。

■中小企業振興条例の活用

 望ましい未来のためには、経営変革支援だけでなく、中小企業振興条例も必要になります。ただし、条例の内容は理念と地域内連携が中心ですから、戦略であるEGを経由して、経営変革のための支援に取り組む。これらが一致すると大きな効果が得られます。山武市でも、EGの活動を定着させるために条例が作られました。
 条例は仕組みを確立するもの。戦略は優先順位や時期を示すもの。経営変革支援は具体的に企業の業績向上の支援をするものです。これらを三位一体で作ることで地域経済が豊かになります。
 企業支援策として、情報の提供(ビッグデータの分析や図書館を利用したビジネス支援など)が重要になってきます。これは新しい公共の役割だと思っています。また、戦略的経営判断への支援としてのコーチングやリーサス(地域経済分析システム)の活用など、様々な支援方法があります。

■変化に対応する取り組み

 EG実践のためには、活動を主導するチームを編成し、EGと地域がマッチするか検討を重ね、地域経済生態系や中小企業の実態の詳細な調査をした上で支援を始めるといった工夫も大切になります。
 EGは行政主導の場合、担当者の人事異動のせいで活動が中断してしまうこともあります。そのために中小企業団体のような民間のパートナーと共に活動を進めていくことが望ましいです。
 EGは効果が出るまで四~六年かかります。その間、仕組みをつくって終わりではなく、変化し続ける地域に対応して支援を進化させ続けなければなりません。地域経済が望ましい未来へ歩んでいくために、自主・自立・自治・連帯の精神で行動し続けましょう。