第46回定時総会第3分科会 企業づくり 付加価値を高める ~当たり前のことを当たり前に~
報告者:㈲浪漫珈琲 代表取締役会長 神原 栄 氏(尾道)
●「心」通わない経営
創業は平成6年。39歳のときでした。現在7店舗。従業員数は約150名。売上は約5億200万円です。
同友会で学んでこうなったと思いますが、まずは独立・創業以前のことをお話しします。
私は、大手コーヒーチェーンの子会社に一六年務めました。30歳で40店舗をまとめる責任者になりました。時代はバブル期。出店計画は経営陣がつくっていましたが、出店と撤退をくりかえしていました。人が大事にされていないと感じていました。
転機は定期採用がひと段落したころです。40代・50代の先輩の中には「今日の寝床」を求めて入社した方もいました。そういう人がふるいにかけられました。そのやり方に反対した私は、責任をとり辞表を出しました。35歳のときでした。
●退職と独立
すぐには辞められず39歳になっていました。当時の仕事は尾道の店舗の撤退準備でした。その店には直営店だと価値はないが、個人経営なら価値があると感じていました。
そのことを本部に伝え売り先を探すも見つからず、私が買い取る形で退職が認められました。
経営者になり、お客様を増やすことだけ考えていましたが、増えません。これまでの経験や手法は通用せず、打つ手は一過性で終わっていました。
●当たり前のこと
1年後、最悪の状況下で、大手時代の同僚が入社しました。現社長です。2人でありたい姿を描き、「質にこだわる」試みを始めました。自家焙煎もその一つです。そしてモーニングには大手にはないストーリーを描きました。夏ごろで来店も多く、単価の高いアイスコーヒーとセットで売れました。いくら販促してもだめだったのに「おいしいからまた来る」というリピーターのお客様が増えていきました。
10年程前からですが、自信を持って商品を出せるようになりました。その頃から、2年に一度値上げをしています。「商品と価格」「商品と従業員」「商品と店舗」がつり合うことを大事にしています。お客様から見た「風格」づくりに取り組んでいます。
付加価値とは結果です。だから基本がしっかりしていないと生まれないと思います。どんな業界にも「数値」があります。わが社では、商品づくりも、店舗づくりも、常にブレが無いようにしています。ストライクゾーンを狭めていくことを「当たり前のことを当たり前にすることだ」と言っています。
●広く深く根を張ろう
経営指針は2001年につくりました。尾道支部の経営労働委員長だったときです。創業以来「地域に根差した老舗型専門店」が指針でした。これを「経営理念・行動指針・店舗指針」の大柱に分けて細部の計画をつくりました。
この頃は出店の度に店長で入りました。尾道のみんなのことは全て知っているのに、広島に行くとお互いにそうじゃありませんでした。
これではまずいと思い、「浪漫塾」を始めました。創業の思いから、経営理念、私の経験、知識、考え方全て話します。大手はだめなら人も店舗も切ります。けど中小企業は心が通っていなければ、前に進めないと思っているからです。
浪漫塾の最後は「地面の下に、広く深く根を張ろう。そうしたら美味しい実がなり、倒れない木になるだろう。販促しない分、お客様に見えない所に時間とお金をかけよう。一人一人が根付く会社にしていこう」と話します。
従業員は私の背中を見ています。だから私は「言っていることとやっていること」は常に同じでありたいです。私の経営の軸は人を生かす経営です。