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2018.05.13

役員研修大学 第九講 人間尊重の経営の実践 ㈱八木澤商店 代表取締役  河野 通洋 氏(岩手同友会理事)


■ブレないために学び続ける
 私は同友会入会後、人間尊重の経営を実践しようとしてきました。しかし、人間尊重の経営をしていても、いつの間にか利益ばかり追求している自分がいました。人間尊重の経営の実践のためには、経営者は学び続けなければならない。今日はそんな実践と失敗についてお話しします。
 
■社員の共育
 同友会で経営指針を作り、社員との信頼関係を作ろうとしても、それまで真逆のことを言っていたものですから社員の信用がありません。社内で勉強会を開いても、給料や私への不満ばかり。そこで宮城同友会の若松事務局長に来てもらいました。「河野専務のような経営者を叩き直すのが同友会。同友会は皆さんの味方です」という話を聞いてから、社員も私と例会に参加して勉強するようになりました。
 会社を変えるために新卒採用をしたいと考えました。社員は人材育成の余裕などないと猛反対。しかし無理矢理2人採用します。すると、反対していた社員が新人に関わるようになりました。新卒が入ることで先輩社員も学ぶことがある。これこそ求人社員教育なのです。
 そこで、子供を対象に味噌作り教室などの食育活動を始めました。段取りから子供に教えるところまで社員がすべて考えます。子供は社員に「なんでこの会社で働いているの?」と質問してくれます。社員は1人の大人として、自分が働く意義や生きがいについて語ってくれるのです。
 
■地域の中で1社も潰すな
 地元の陸前高田市には同友会がありませんでした。同友会を作りたいと先輩会員に相談し、例会の開催などの活動を通して支部立ち上げに至りました。
 陸前高田市の経営者が集まり、市が衰退している原因は価値あるサービスや商品、仕事を作らなかった自分たちにあるという認識のもと、「この地域の中で一社も潰すな」というスローガンを掲げました。増強に力を入れ、会員の会社の問題に首を突っ込み、新卒の採れるような会社になろうと努めました。88名ほどの会勢になり、100名になったら何をしようと考えていた時に、2011年3月11日をむかえます。
 
■復旧ではなく復興へ
 津波は市の八割を壊滅させ、八木澤商店の工場も全壊。債務超過に陥りました。社員に震災のあったその日のうちに「会社は絶対再建する」と宣言しました。再建はスピードと体力勝負なので、これを機に専務から社長になりました。
 震災直後は以前と同じく一社も潰さないために動きました。陸前高田市は市内事務所の84.6%が全壊流出。同友会のメンバーや従業員が亡くなり、廃業した企業もありました。それでも私たちは企業の再建を目指しました。金融機関なども地域の企業を守るために金融取引の一時停止に踏み切りました。
 震災により発生したのが雇用の問題です。社会的なつながりで、家族の次に長い時間を共にしているのは仕事仲間です。津波によりそのつながりを失えば、人は絶望に押し潰されてしまいます。そうさせないために、雇用維持に力を入れました。
 同友会では震災以前から学校の先生とも交流がありました。進路指導の時期である六月に、先生たちに話をしてほしいと依頼されました。「地元に何もなくなったから外に出ろというのは教育の放棄だ。秋には求人票を出すから頑張ってくれ」と伝えました。学生にも、「いつまでも被災者面せず、10年後、この町は俺たちが復興させたんだと言える仕事を地域に残してほしい」と訴えました。同友会でも新卒採用に取り組みました。
 そのおかげか、翌年の春の新卒内定率は上がり、現在までに有効求人倍率や若年人口、起業家も増え、出生率も上がりました。

■人の命を尊重する経営
 その結果、自社では社員が産休に入ります。しかも二九人中三人も。それでも大丈夫なように経営を合理化していくのです。人間尊重の経営とは、人間の新しい命を尊重できるかどうかです。
 中小企業は大企業と違い人をふるいにかけません。障害があろうが何があろうが、一人の人間として、働く仲間として、共に生きていくのです。