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2018.01.27

県理事会勉強会 中小企業を取り巻く情勢と経営課題 問題提起


  次年度の県同友会総会議案書作成にあたり、県理事会にて大林先生に講義をお願いしました。講義要旨の抜粋を掲載いたします。
 
●中小企業経営の基本課題
 本日は、「中小企業を取り巻く情勢と経営課題」と題し、広島同友会が実施してきた「経営環境アンケート調査」の回答を整理分析し、改めて今後の経営課題を提起したいと思います。
 広島同友会の「経営環境アンケート調査」は09年10月に第1回調査が実施されました。景況調査は通常年4回実施され、年1回ないし2回の調査では景気動向を敏感に反映しないという立場もあります。しかし、むしろ中小企業経営にとっては景気の動向に左右されない経営体質を構築することが大事であるし、景気変動を貫く経営課題への挑戦こそが基本的課題であると考えます、
 
●経営環境アンケート調査の特徴
1.現在の経営状況
 最初に企業の「現在の経営状況」をみると、過去7年余りの間、回答企業の経営状況は全体的に良化しています。そして同期間の「1年後の経営状況の見通し」の回答結果を踏まえて考えてみます。
 すると、現在良い企業は1年後を慎重に、現在思わしくない企業はなお希望を見つけて経営に臨んでいる様子が窺えます。
 これは、世評伝えられる短期的判断を重視するとされる一般中小企業の経営とは異なる、評価すべき冷静な経営態度であると思われます。
 また、この間の「現在の経常利益の状況」に対する回答を見ると、黒字企業が4割強から5割半ばに増加しています。このような回答企業の利益状況は、一般中小企業の全体に占める黒字企業が2割ないし3割であることと比較すると大変良好な状況と言えます。
2.経営上の問題点と経営の力点、「人」が最重点課題
 このような経営状況の中で、回答企業の「経営上の問題点の変化を見てみます。
 継続して上位を占めてきた回答は「同業者間の価格競争の激化」(平均順位1位)、「民間需要の停滞」(同3位)です。
 この間、大きく変化した項目のうち下位順位から上位順位に移行した項目は「下請業者の確保難」(20位→11位)、「従業員の不足」(9位→1位)、「熟練技術者の確保難」(12位→4位)、「人件費の増大」(9位→3位)です。つまり、「人手不足」「人材不足」という雇用問題が深刻になっていることが分かってきます。
 同友会の会員企業は、一般の中小企業に比較して景況にあまりこだわらない、基本課題に継続的な経営努力を続けることに特徴があります。
 同友会の会員企業として経営の基本項目を忠実に守りながら、現時点では人材関連項目に力点を置く方向にあることが確認できます。

●日本経済と広島経済
1.日本経済の地域的構造 東京一極集中は後退
 戦後という長い期間を前提にすれば、日本経済は高い成長率によって、巨大な経済力(「国民総生産」基準)を築き上げました。
 しかし近年は、国民にとっては日本経済が高い経済力を持つものの成長率は低くなっているという事をしっかり把握しておくことが重要です。
 また、日本経済の「東京一極集中」による地域的格差の拡大が強調されます。この地域的な経済格差について、いわば都道府県単位の「国内総生産(GDP)」である「県内総生産」を総合的な経済力を示す指標とみなして、都道府県間の格差動向を取り上げ、検討してみます。
 都道府県間の経済的格差は、確かに2000年代前半に拡大をしたが、その後は総じて縮小しつつあります。方向性としては都道府県の間の格差が一方的に拡大しているとは言えない事は確かです。
 また「東京一極集中」の指標として東京都の「都内総生産」の全国の県内総生産の合計に占める割合を計算すると、01年から04年まで18%台。05年まではほぼ上昇、その後はほぼ低下しており、東京都の経済力の位置が後退していると言えます。
2.広島経済は県内格差が拡大傾向
 広島県を同様に「県内総生産」を実額の動向をみると07年まではほぼ増加、08年・09年の両年が減少、その後はほぼ増加傾向です。ただし、14年の水準は、リーマンショック前の07年の水準には戻っていません。
 同じく、広島県の「県内総生産」は、都道府県別順位で12位、割合は2%台で07年まで上昇、その後は低下気味の横ばいです。
 このような広島県経済の動向の土台として「経済活動別県内総生産」を検討してみますと、広島県の産業全体に占める製造業の割合が他県のそれに比較して大きくかつ増加してきたことが特徴的です。(製造業割合は全国合計で20%前後、広島県は20%→30%に上昇)
 また、「卸・小売業」の同割合が01年18%から14%に低下している事が気になります。広島県民の購買力そのものが低下しているか、ネット企業からの購買額の増大など購買方法の変化があることが推測されます。
 また県内格差を検討してみると、01年度から14年度まで、広島経済の全国に占める相対的な位置は大きな変化は見られませんが、広島県内の地域的な総合経済力の格差は拡大していると言えます。
※下図は広島県市町民経済計算結果(平成26年度 広島県統計情報より。広島市・福山市・呉市・東広島市・尾道市が上位。5市合計で75%を占める)

●経営環境変化の3つの可能性と「中小企業の経営課題」
1.地域間の連携がカギ
 日本経済及び広島経済の基本的な経営環境の変化から今後どのような可能性が考えられるのでしょうか。
 第1点は、会員企業の経営状況の良化は、日本経済の低いがなおプラスの成長率と都道府県間の総合的な経済力の格差の縮小もしくは非拡大を背景にしているという事です。
 ところが広島県内の総合的な経済力の格差は拡大しています。このことは、全国における大都市と小都市、地域における都市部と非都市部との格差であり、今後も拡大の可能性があると考えられます。
 地域の中小企業としてはいかに企業経営の発展と地域貢献とを結合できるかという課題があります。
 都市部と非都市部が相互に自らの経営資源を役立てる方法を地域や社会が率先して推進することができないかということが課題になります。
2.「人」の問題は、地域的な教育力が課題
 第2点は、日本経済が低い成長率にも関わらず、「人手不足」「人材不足」が進行しており、これは全国共通の課題です。
 いわゆる団塊世代の定年退職、女性の非労働力人口割合の継続であり、雇用・就業構造の問題を基礎にしていますので簡単には解決しないと考えています。
 とはいえ、短期的には20年のオリンピック・パラリンピック後、あるいは現在の超緩和金融政策終結時に一気に解消の可能性もあります。
 中長期的には、AI(人工知能)・ロボットなどの開発・発展によって労働力の過剰、多くの分野での専門家過剰の可能性が強く主張されています。
 また「人手不足」「人材不足」に対する個別企業としての対応は種々論じられてきていますが、現在の年代別・世代別の生活・所得状況、勤労観、人生観が大きく異なっています。それぞれに相応しい「生きがい」や「働きがい」の提案が必要です。
 地域における雇用者・就業者全体の家庭・学校・社会教育を通じた問題が根本的課題となります。
 それは地域中小企業を始め地域諸機関の共同の責務としてあると思います。
3.地域の金融機関と企業との連携
 第3点は、各地域経済で進行している中小企業数の減少が、地域金融機関の経営危機を誘発する懸念を日本銀行が提起しています。
※日本銀行「金融システムリポート」(17年10月号)によると、「本邦金融機関の従業員や店舗数は、受容対比で過剰(オーバーキャパシティー)になっている可能性がある。」と指摘されている。
 地域活性化の課題は創業あるいは新規事業です。この課題に対する広島同友会の会員の意欲や意識の高さに私は従来から注目していますが、今後ますます推進しなくてはなりません。
 創業の種(シーズ)の圧倒的多くは、各家庭の中、各企業経営の中、日常的な営みに潜在しています。課題は、それらのシーズをいかに事業体としてスタートさせるかです。
 さまざまな経営学的手助けの問題とともに、前項の「地域の教育の課題」にも繋がっていきます。
 
●おわりに「広島モデル」の確立をめざして
 広島経済は首都圏との格差よりも、県内格差が課題になっている典型例です。
 各地域レベルで世代を超えて教育水準を上げ、各地域の特徴を生かし、都市部と中山間地域、都市部と島しょ部、等が相互の経営資源を役立てる「広島モデル」ともいうべきものが出来る可能性あるのではと考えています。