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2018.01.05

第1分科会 選ばれる企業にするために 自社の存在意義に照らして ~時代を味方につける経営を!

■脱サラ開業
 27年前、41歳のときに脱サラして眼鏡屋を創業しました。バブル崩壊直後で市場にはまだ影響がなく、銀行から自宅を担保に開業に必要な4,500万円のうち2,000万円を借りて何とか1店舗目を出店しました。
 デパートで売っている商品を路面店で手頃な価格で提供する業態は当時、業界初の試みでした。1ヶ月の売上目標を650万円に設定して、5名の雇用で始めたところ、目標の3倍近い1,800万円を売り上げました。思いもよらない成功で、1年半後には2店舗目を出店。これも順調でしたが、3年目に大きな壁にぶち当たりました。
 
■急成長の中で
 これまでに大きな壁は3つありました。その最初がお金です。店舗展開は投資が先です。自転車操業状態で回収が追い付かず、運転資金の問題に直面しました。短期借入や経費削減で何とか切り抜けましたが、次にぶつかった壁は人の問題でした。
 4店舗目を出店したとき、店長の300万円の使い込みが発覚しました。自分自身もプレイヤーで、お金の管理、お客様の管理、そして人の管理(人育て)ができる店長を育てていなかった結果でした。
 そのような経営体質をつくった経営者の責任を痛感しました。経営者として能力不足を感じ、経営を学べる場を探していたところで同友会にたどり着きました。
 同友会では、まず初めに経営革新に取り組みました。会社のあるべき姿が見えてきたところで、経営指針づくりに取り組みました。それまでは経営理念すらありませんでした。一生の中でこれほど勉強したことはありません。このときの学びが今につながっています。
 
■新卒採用を始めて
 同友会で「人育ては新卒採用から」と言われて、共同求人に参加しました。小売業は転職者の多い業界なので、大学の新卒者が採用できるわけがないと思っていました。しかし思いがけず1名の採用ができました。しかし、3ヶ月後には「社長、ちょっとお話が…」と。よくある話で退職の申し出でした。理由は「この会社に将来の希望が持てない」とはっきり言われました。
 中途採用者がすぐに仕事できるようにマニュアルを徹底的に作っていました。しかし新卒者の場合、それが終わると掃除か眼鏡を拭いているかしかありません。マニュアルで育てようとしていたことが間違いで、社員自らが考えて動く会社の体質をつくらなければならないと気づかされました。
 
■自主的に動く仕組み作り
 お客様から1日10回「ありがとう」をもらえるようにしようと言っています。雨の日に来店されたお客様に傘をさす、タオルを提供するなど、新入社員でもすぐにできる些細なことです。先輩の行動をみて、新入社員も動くようになりました。自ら気づいて動く仕組みです。
 日報には、ありがとうの回数、今日学んだこと、お客様に行ったサービスなど記入するようにしています。web上で全社員が情報を共有できるので、共育ちの仕組みになっています。
 
■低価格競争の激化
 17年目に、乗り越えられないのではないかという3つ目の大きな壁にぶち当たりました。低価格競争の激化です。それは経営を学び、組織としてやっていけるかなと思っていたときに起こりました。
 眼鏡業界の市場は8,000億でそれほど大きくありません。それが3千数百億円までに縮小しました。異業種から1万円以下の低価格の眼鏡を販売するチェーン展開をかけてきたのです。
 本来、眼鏡は半医半商で半分は医療の側面を持っています。知識が必要ですが、雑貨と言う捉え方でアルバイトによって販売され、今までの眼鏡の価格は何だったのかということになってきました。
 2年間で売り上げが20~30%にまで下がり、「隣が安い価格で売っているのに、売れるわけない、うちも安いものを売りましょう」と、弱気になる社員が増えてきました。
 
■自社の存在意義を問う
 そこで社員を集めて、価格で競って大手に勝てるのか、自社のお客様は低価格だけを望んでいるのかと問いました。2:6:2の割合で、上位2割が自社でなければというお客様です。近いなど何等かの理由で購入してくれるのが6割、残り2割はたまたま安いだけで買ってくれたお客様です。
 上位2割と中間3割の五割のお客様に向けて何ができるのか理念について話し合いました。お客様に寄り添うことにやりがいを感じている社員に価値を感じてくれるお客様に支持してもらえるように、理念や販売形態を変えました。
 理念は「お客様に最高のサービスと価値ある商品をお手頃価格で提供する」から、「豊かで明るい快適生活の提案と地域とともに歩み、喜びを共有する文化的企業を目指す」に見直しました。売上高は戻っていませんが、利益は最高額を出しました。
 

■隣接の異業種
 これからの中小企業は本業だけでは生き残れません。立教大学の山口先生から隣接の異業種という考え方を聞き、私たちの理念である快適な生活の提案の精神から隣接するものを考えました。目を耳に置き換え、耳の快適生活の提案としての補聴器を見出しました。
 一般的に普及している補聴器は、集音や拡張で聞こえるようにしています。本来の補聴器は個人の難聴度と聴波を測定してオーダーでつくるので医療性が高いものです。大変難しかったのですが、4年かかる資格を皆で取り、専門性のある高度な補聴器に挑戦しました。新規事業の売上目標が初年度5%、2年目10%、3年目は15%のところ3年目だけ12.1%になりました。
 補聴器はメンテナンスが大変なので、地元密着でなければできません。中小企業は地元密着です。地元密着であることでお客様に快適な生活を送っていただけるので、この事業は私たちの精神と合っています。
 
■新しい挑戦
 中小企業だからこそできる次の手として、高齢社会の対極にある、こどもの眼鏡専門店を出店しました。人口の14%、その中の4割が眼鏡を必要とするこどもです。対象がそれだけではビジネスにはなりません。
 今の時代、スマホなどの影響で、目の悪いこどもが増えています。こどもの時に適切に眼鏡をかけることで治療することができます。こども眼鏡館は全部がこども用の眼鏡で、選べて楽しめるがコンセプトです。
 保証体制が勝負になりますが、子どもは破損や度数の変更が頻繁です。自社では二年間、無料で交換できるようにしています。難しいと言われることも信念をもってすればできないことはないと思っています。
 
■企業の付加価値を高める
 採用が企業の付加価値を高めます。新卒採用には全精力を費やしています。共同求人を続けた17年間で、社員の半数が新卒者になりました。
 いまの若者は給与が高いだけでは動きません。休日や残業、女性管理者がいるか、子育て支援ができているかなど働く環境を見ています。自社は埼玉県の「多様な働き方実践企業」の最上位のプラチナランクを受賞しました。職場環境を整えることで良い人材が採用できます。そして、その良い人材を育て、定着しなければ会社も伸びません。
 
■時代を味方に
 中小企業の存在意義を考なければ生き残れません。現在は、地域包括と中小企業の連携を考えています。子どもの支援でまちづくりをする自治体が増えています。この度、自治体の後押しで、こども眼鏡館の2店舗目を9月に出店することになりました。
 これは自分たちの力だけではできませんでした。時代を味方につけるアンテナをはり、自社が必要とされる選択肢をたくさんもつことで経営が磨かれると思います。時代が求めるものであれば伸びていきます。中小企業でこそできることだと思います。