第4分科会 会社の発展と社員の育成は不離一体
■会社概要
当社は1996年に父が脱サラで創業しました。日本に数少ない船舶を専門とした検査会社として非破壊検査事業をメインに船体構造部材の板厚計測や船舶の精密検査のエキスパートとして事業を営んでいます。
社員数は現在108名で国内外に営業所があります。
■私の入社のきっかけ
私は大学卒業後、家業を継げと言われていなかったので生命保険会社に就職。ある日、父から話があると言われ三原に帰ってきました。
父から「余命1年だ」と告げられ、親孝行と思い、2003年に当社に入社します。父は今でも元気にしています。帰って欲しかったので言ったようです。
当時は主たる業務は人材派遣業で非破壊検査業務が占める割合は売上の約30%程度でした。
■中途採用を試してみる
当社に入社後、社員の採用活動をはじました。なぜ採用をしたのかと言うと、当時の社員たちに物足りなさを感じたことと、これからの会社の将来を考えると人材採用に危機感を感じたためです。
前職の社員たちは先手を読んで自分の仕事をこなしていました。しかし、当時の当社の社員たちは、自分の仕事が終わったら3時くらいから喫煙室でタバコを吸いながら漫画を読み、髪も茶髪という感じでした。
社員の採用の方法はハローワークと新聞折込み広告による中途採用だけでした。
採用活動を行った結果、分かったことがあります。現状で在籍している社員より優れた人物にめぐり合うなんて不可能だということです。
当社に面接に来た方は、履歴書も持って来られない方や、サンダル履きや面接が成り立たない方などがいらっしゃいました。
今いる社員を育て上げる事が1番の近道であるとわかりました。そこで、今いる社員への教育に力を注ぐ事になります。
■当社の社員教育
検査業をベースとした技術スキルアップの教育が中心でした。有資格者増による売上増の期待を込めていました。
新規採用後、技術教育をして有資格者としての業務、そして売上増へ。また新規採用へつなげる流れです。
しかし、ほとんどの社員は単年度の給与が目的で、まだ当社は「稼ぐ為に働いている」企業風土でした。
その後、スキルアップを達成した社員が段々と増えてきました。同じ検査業務しか行っていないのに勤続年数が上がり、増え続ける給与体系。
この先、限界があるのではと思い、人材コンサルティング会社に勤めている前の会社の同期に相談しました。
■元同期からの教え
3人のレンガ積み職人の話を教えてもらいました。
昔、中世ヨーロッパに3人のレンガ積み職人がいました。
職人Aさんは「毎日つらいが仕事としてレンガを積んでいる」人です。
職人Bさんは「金を稼ぐため、生活の為」にレンガを積んでいます。
職人Cさんは「後世に残る偉大な大聖堂を作る為」にレンガを積んでいます。
そんな話を聞き、職人Cさんみたいな働き方、会社にしたいと私は思いました。皆さん、例えば、自宅を立てるのにこの3人では誰に仕事を依頼するでしょうか。多くの人がCさんに頼むと思います。
では、自社または自分、社員はどのタイプでしょうか。当社はBさんタイプでした。
Cさんのような人をつくるには企業文化をつくらなければできないと感じ、新卒採用に取り組みはじめます。
■新卒採用の抵抗勢力
企業の文化をつくるには新卒が1番であると気づき、さらに事業を飛躍させるため新卒採用を決意します。
しかし、社内の抵抗勢力に阻まれます。1番の反対者は創業者(父)でした。「うちの会社の仕事は大卒上がりに勤まらない。一度どこかの会社で社会の厳しさを味わった人間でないと直ぐやめてしまう。専務の発想は甘い!」と。
また、管理職からは「うちみたいな会社に新卒はこないでしょう(笑)」。若手中途社員「何を話せばいいかわかりません」という状態でした。
考え方をぶっこわしてやろう、やれば出来る事を見せ付けてやろうと決意します。
■新卒採用活動と定着
2011年から新卒採用活動を開始。1年目から採用できました。そこで2年目には東京の合説へ参加。「東京に事業所を作るから東京で採用だ」という理由です。
採用活動に昨年の新卒者を大抜擢し、「自分の後輩を自分で見つけるんだ」というスタンスでのぞみ、2名の学生が入社しました。うち1名は大手企業の内定を取りやめて当社に入社してくれました。
新卒者の定着についての取り組みとして、新卒者限定飲み会や社内レクレーションの実施、育成チーム(若手先輩社員が新卒の面倒をみる)体制を作っています。
これも三原にゆかりのない人の採用が多いので、仲間同士でフォローできるようにしています。
■新卒が増えると…
新卒効果を実感しました。新入社員は非常に素直です。今までの中途採用の方は入社動機がお金儲けで時間の切り売りが多かったのです。
そして皆さん頭が良い。資格試験もほぼ1回で合格です。仕事を覚えるのも早い。
すると、既存の社員が焦りだし、自ら動き出す人間になってきました。また、社員全体が新卒社員を大切にしようという一体感も生まれて来ました。
■社員の育成計画の変化
新卒を採用するまでの育成は検査資格試験、研修と直接、売上にかかわる現場任せのOJTが主流でした。
新卒採用が定着すると内容が変化します。
現場中心の教育から、中間管理職向けのマネジメント研修など管理者をめざした研修に軸が動いて来ました。
技術教育として社内技術講習会の実施や各現場での経験と総合教育行います。さらにビジネススキルアップ研修、マネジメント研修、ヒューマンスキルアップ研修など、将来設計ができる教育・育成体系の構築、そして運用へ進んでいます。
これも将来の発展のための施策になります。管理能力の高い社員さんの育成が自社をさらに強い会社にします。
■これからの社員教育
今までは、給与が高くなればきっと働いてくれるだろうという感じで仕事も作ってきました。しかし、付加価値の高い経営をしようとすると、部長には部長の役割、主任には主任の役割をしてもらわないと組織化できません。報酬とは「金銭」だけでなく「職場環境」、「教育」のことだと考えます。
評価制度の導入で真に頑張っている人に光をあてることも取り組み中です。
■未来へ向かって
創業型経営から組織型経営へステップアップを図っています。
社員が会社を定年退職する時に「自分の人生がすばらしいものであった」と感じられる会社にしたいと思います。また、社員が在職中に家族や周りの人に「良い会社で働いているね」と言われる会社にしたいです。
世の中から必要とされる会社のために「当社がないと日本の海事産業がまわらない」「当社がないと中四国の構造物調査業界がまわらない」という会社になりたいです。
現状の社員教育は上手くいってないところもあります。
新卒採用について、大手企業は「良い人」を採用しようと考えが多いですが、当社はどんな人も3年から5年かけて、どこにでも出せる人材に育てようと取り組んでいます。それが地域で光る中小企業の役目ではないでしょうか。
これからの展望として、中小企業の後継者不足を鑑み、当社の教育システムを「経営育成システム」にできないであろうかも考えています。会社としてM&Aや事業部制、社員は部門経営者や独立、社会として地域の雇用を守ることができると思います。「社員と会社の成長」が一致する会社づくりを進めてまいります。