第3分科会【地域づくり】 中小企業を取り巻く情勢と経営課題 ~社会の期待に応える企業づくり、会づくりに必要なことは何か
■経営に必要な二つの視点
昨年は、英国では国民投票でEUからの全面離脱の決定、アメリカ大統領選挙では自国1番主義のトランプ氏が当選するなど、これまでの共通の理念=連帯・融合の考え方から、分断・排除の方向へ向かうことを予見させる出来事が続きました。今年はますます不確実で不透明な一年になることが予想されます。私達の経営も世界の大きな流れの影響を受けます。グローバルな動きをしっかり見つつ地域でしっかり活動するという視点、不確実で不安定な今こそ中長期の視点、この二つを合わせもった経営の舵取りが必要ではないでしょうか。
■世界経済四つの「シナリオ」
12年12月に発行されたアメリカ国家情報会議のレポートによれば、アメリカは覇権国(絶対的ナンバーワン)からトップ集団の1位(相対的ナンバーワン)へと、影響力は下がると見込んでいます。世界をめぐる構造的な大きな変化としては、権力が分散し、さらに不安定になっていくと指摘。変化するたくさんの要素が絡みあいながら、4つのシナリオが想定されています。①「欧米没落型」(先進国・途上国を問わず世界全域で経済が低迷。食料価格の高騰も重荷に)、②「米中協調型」(先進国・新興国ともに経済が成長。世界経済は2030年までに約2倍に膨らむ)、③「格差支配型」(米国経済は回復し欧州の一部は国際競争力を高めるが南欧諸国は取り残されEUは事実上崩壊。中国は富の分配に失敗し、成長力が衰える)、④「非政府主導型」(世界的な協調ムードが経済成長を後押しする)。②が実現すれば世界経済が最も繁栄するという見立てですが、最近の動きは③を予見させます。
■個人消費が回復しない理由
日本経済ですが、政府は実質GDP成長見通しを引き上げるなど、ゆるやかな回復の見立てです。しかし、実際はどうでしょうか。3年間のGDPの伸び率は2.3%と消費税アップ分に届きません。また、失業率が下がっているのに、GDPが増えていないのは、労働者1人あたりの生産性が下がっているから、という指摘もあります。
総務省の家計調査では、2人以上所帯の消費支出が下がり続けています。さらに、厚生労働省の毎月勤労調査では、賃金水準は15年を底に16年は上昇しましたが、10年の水準には戻っていません。このことがGDPの6割を占める個人消費が回復しない理由となっています。
■人材確保難に立ち向かう
会員への景況調査アンケートを毎年実施しています。7年前と比較して大きな差があるものに注目してみます。経営上の力点で変化の差が大きいのは「人材確保」で、「付加価値の増大」は、変わらずに高い回答率です。特に人材確保難は社会構造上の問題であり、中長期の採用戦略が求められます。また、定着させるには、「この仕事は楽ではないがやりがいがある」など、経営理念の共有が大事であるということも指摘しておきたいと思います。女性や障害者、高齢者の活用など、多様な働きのできる企業づくりや、労働環境の改善として就業規則を見直しましょう。特に、「会社を守る就業規則」から「社員を守る就業規則」の観点が必要だという会員の指摘もあります。
■10年ビジョンは懸け橋
経営指針の手引き(改訂版)では、10年ビジョンを提唱しています。なぜ10年か。2~3年先のビジョンでは、現在の延長線上からでしか発想できず、場当たり的な経営なりやすいからです。見えにくい10年先だからこそ、幹部や社員と話し合う中で組織に命を吹き込み、人を魅了し力を与え、働く人に意義をもたらし、未来への懸け橋になるでしょう。変化のスピードは速く、環境は厳しさを増すばかりですが、変化はピンチにもチャンスにもなります。
イノベーションを行ない、付加価値を高める経営を進め、社会の期待に応える企業づくり、会づくりを進めましょう。