中小企業をめぐる情勢と経営課題 問題提起:中同協 専務幹事 松井 清充 氏
12月19日、県理事会での情勢勉強会の内容を要約してご紹介します。
《2017年の情勢》
世界経済は、3.3%の穏やかな経済成長の予測だが、政治情勢の不安定さと経済の不透明感がますます増加。不確実な年になりそうです。経済混乱の拡大と貿易量の減少が予想されます。
政治では、自国第一主義の台頭に注意が必要です。
日本経済は、1.1%の低成長が続き、2017年も消費低迷が続くので、BtoCの企業や規模が小さい企業ほど苦戦が続くと予想されます。各業界では毎年1%減る計画で、その分新しいものに取り組むなどの工夫が必要です。
《世界経済》
1月20日のトランプ次期アメリカ大統領の就任演説は何を言うか注目です。
2017年は、アメリカ大統領が変わるだけでなく、フランスとドイツでも選挙が行われ、その動向にも注目しておく必要があります。
中国経済は減税など公共投資でもたせている状況で、アジアは中国の影響をことさら受けています。今後の経済成長を見るには人口ボーナス終了年を見て対応するのが確実です。参考までに、日本は1990年、韓国と中国は2015年で、それ以降は経済が失速しています。
原油価格は大幅下落しましたが、長期では必ず上がります。安い石油はなくなると思っておく方がいいでしょう。
また、中東地域の混乱とテロ問題については、原因である格差や貧困などの構造的な問題は解決していません。
TPPはアメリカ国内で難しい状況になり当面様子見です。しかし、地域防衛のために、神奈川県の「いのち貢献度指名競争入札」のような制度づくりに取り組んでおく必要があります。
《日本経済と地域経済》
日本では人口増加率と経済成長率は比例しています。人口が減っているということは、付加価値を上げない限り、経済が縮小するということです。
少子高齢化時代は、生産性を上げる目標ではなく、付加価値を上げることが求められます。
海外生産と非正規雇用の拡大で、円安になっても輸出数量は伸びず、海外投資が増加し空洞化が進展、逆輸入が増え、内部留保が増えても賃金が上がらない。結果、大企業でも内需型は苦戦し、さらに海外生産と現地調達が増え、非正規雇用も増えて賃金が低下。他方で、上場大企業は株主配当を積み増し。これらの影響で、地域での格差、大企業と中小企業の格差が拡大し、地域と国民が苦しくなる原因を作りだしています。
超富裕層が増加したアメリカと違い、日本では国民下位90%層の平均所得が1980年に比べて20%も落ち込み格差が拡大しています。貧困層が教育に再投資できないことは経済成長を阻害しているとOECDも結論づけています。つまり、「教育に投資すること(人づくり)が経済成長に貢献する」と言えます。
また、団塊の世代が70歳となる2017年問題と、2019年まで延期された消費税10%への対応は十分準備しておく必要があります。
ある調査では後継者がいないと答えた中小企業は六五%にも達し、その多くの廃業が見込まれます。
消費マインド低下への備え、資金繰り対応、得意先の廃業への備えをしておきましょう。同友会で言えば、後継者づくりがやるべき最大の課題になっています。
国内では、物の量から質が問われる時代に変化しています。「心の豊かさ」を求める時代に変わっています。しかも困ったことに「心の豊かさ」は求めているものが本人にもわからない。皆さんが幸せの青い鳥を創りだすことが重要になってきます。
少子化は地域の危機ですが、高齢化はチャンスです。あなたの会社で六五歳以上の人を対象にした商品を取り扱っていますか?シニアは今後も消費の主役です。60歳を超えると「近くで日常の買い物をしたい」との回答が八割にも達します。
また、人をコストにしている「儲け主義」の企業に未来はありません。典型が大企業のブラック企業。一方で中小企業ほど人に優しい。例えば女性・高齢者・障害者を雇用する割合は小規模ほど多いのです。人と地域を豊かにする時代は「人を大事にする中小企業の時代」です。
《地域を担う なくてはならない企業へ》
今後、企業がなすべきことのひとつは、理念に基づく経営を創ることです。「地域貢献」と経営理念に入っている企業は多いですが、実際に何をするか明確にすべきです。
ふたつめは、広島県経済が県外から買っている「農林水産業」「鉱業」「電気・ガス・水道」「金融保険業」「サービス業」の商品・サービスを自分達で作りだし、さらに付加価値をつけて県外に売るようにすることです。
そして、「地産地消」をみんなで進め、地域でお金を循環させることです。 地域に新しい仕事と雇用を創り出す役割を担うのは、自立的に動く社員を持つ地域の中小企業です。自分の企業を良くして、雇用を生み出すことが、地域を良くすることにつながります。
まずは財務体質の改善を図り、黒字体質企業・自立型企業にする。さらに自社の業種の枠組みを超えて、お困りごと・必要とされることから新しい仕事づくりに取り組むことで、今、将来の「原因」を作ることが必要です。
自社だけで潰れない企業づくりに取り組むには限界があります。周りを良くすることが潰れない企業づくりの条件になっているのです。
地域からも、社員さんからも、お客さんからも感謝される、地域になくてはならない企業づくりに取り組みましょう。