広島西支部オープン例会 逆境経営 山奥の地酒 獺祭を世界に届ける逆転発想法
報告者:旭酒造㈱ 会長 桜井 博志 氏
去る2月14日、広島サンプラザにて広島西支部オープン例会を92名(内、会員70名、オブザーバーその他22名)で開催しました。報告者は旭酒造㈱の桜井博志会長でした。
酒蔵の3代目として生まれた桜井氏は大学卒業後、1973年に大手酒造メーカーに就職し、東京で3年半修行します。76年、父が社長を務める旭酒造に入社しますが、経営方針をめぐって父と対立し退社。その後、地元で石材卸業を営みます。
84年に父から「後を継がないか」と持ちかけられます。直後にガンが見つかり、3カ月足らずで亡くなり、氏は家業を継ぐことになりました。
当時は、紙パック酒や値引き販売の低価格路線で生き残りをかけていましたが、失敗。そこで品質重視路線に転換し、酒米である山田錦を求め各地の米農家・農業関係者にお願いに行き、大吟醸「獺祭」の開発に取り組みます。手間がかかり、大量生産に不向きな大吟醸酒であれば、小さな酒蔵であっても勝負することができました。新市場を求め東京での営業に力を入れます。
99年に地ビールレストランを出店しますが失敗。当時の年商に匹敵する2億円の損失を抱え、倒産を覚悟したそうです。杜氏が愛想を尽かして、他の酒蔵へ移りました。杜氏不在のまま社員5人で酒造りを始めました。
まずは酒造りのマニュアルを手に取り作りました。素人なので手を抜きません。試行錯誤の結果、「社員が作る酒」は製造工程で様々なデータを取って、管理する工場のような仕組となりました。勘や経験によらず、素人でも酒造りができ、年中生産が可能。安定的に製造できる仕組みを整え売上を伸ばし、危機を脱することができました。
氏は「伝統を守るためにお酒がある訳ではない。酒蔵も企業。伝統の手法に固執することは弱点にもなる。日本はヨーロッパと比べてフラットな社会だから、日本酒もより良く変わっていく」と語られました。
現在、獺祭は日本国内だけでなく、NY、ロンドン、パリを中心に世界の市場をめざしています。「世界のなかで日本の文化的なポジションを造る」を掲げ、日本酒を世界にどう理解させるかを考えています。また、氏は近年では日本酒のおいしさを広めるため、海外への講演も積極的に行っているそうです。
獺祭の試飲後のグループ討論では「あなたにとって越えなければならない常識とは?その先へ」をテーマに自社の今後について熱く討論しました。
氏の報告は、既存の概念にとらわれず、これだと思ったものを突き詰める力が必要と訴えかけるものでした。
以下、参加者の感想です。
感想
㈱アールテック・リジョウ
石本英和
33年間で売上金額が110倍に伸びたのは「合理的な理由が有る」と言うことで、数々の失敗や周囲との軋轢といった逆境に屈することなく、どのように「獺祭」の売上を伸ばしていったのかの話に引き込まれました。また原料米「山田錦」の安定確保に大変苦労された話など具体的なエピソードを交えてお話を頂きました。トップの「その気」がいかに大事であるかに気づかされた良い報告でした。
㈱山崎精研 山崎茂則
「逆転の発想」は、氏が社長就任前に経験した酒造業界のあり方に対する疑問から生まれていると思います。
杜氏制度の廃止、通年行う仕込み、生産量の拡大等、今までの常識を覆す取り組みは「すべての努力は、このお酒を飲んでいただけるお客様の為に」の文言のとおりに妥協せず酒造りを極めていった結果だと思います。
自社の仕事の現状を経営理念と照らし合わせてみたとき、まだ突き詰め方が不十分なところがあるとしたら、そこが「逆境の逆転発想」の糸口になりうると感じました。