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2016.12.27

第8分科会 「中小企業のできるエネルギーシフトとは」 ~地域と地球環境問題から、企業の取り組みを考える~

2016-12 (30)報告者:永本建設㈱ 代表取締役  永本 清三 氏(広島西支部)

■設計士から大工、工務店経営へ

 私は高校卒業後、設計事務所に勤めていましたが、詳細な施工図を書くために現場に行くことが多くなり、それで大工に転身しました。縁あって速谷神社改修工事で宮大工の方の手伝いをさせていただき、一生を貫く影響をいただきました。そのまま京都の宮大工に入る道もあったのですが、すでに社員を抱えていたため、工務店経営へと進みました。現在、社員数は二〇名です。

■一酸化炭素中毒と燻蒸剤

 私の趣味は山登りですが、若いころは魚釣りが大好きでした。ところがある夜、休憩中に自動車の排気ガスを吸って一酸化炭素中毒で死にかけました。それがきっかけで、化学物質に非常に敏感な体質になりました。
 また、ある時にログハウスの材料の受け取りに行った時のことです。海外からの輸入材でしたが、コンテナを空けた途端に害虫駆除のための燻蒸剤がモクモクと一面を覆いました。それでも施工中にキクイムシが出てきたりしました。
 こうしたことが、自然素材や国産材に目を向けるきっかけになったと思います。

■荒れ放題の山林が災害を呼ぶ

 広島県は日本で最も輸入材の量が多く、県産材の単位面積当たり出荷量は全国のワースト三位です。木材店に行って国産材をお願いすると、大変高い価格を言われる状況でした。
 戦中・戦後と、日本の山林はエネルギー・資源対策のため、切りつくされました。そのため昭和二九年に、拡大造林の政策が打ち出され、日本国中で針葉樹の植林が行われました。最初は平らなところでしたが、次第に急峻な斜面にも植林が行われたのです。他方、昭和三九年には貿易摩擦解消のため、木材輸入が全面解禁されました。安い外材に押され、せっかく植えた木も、手入れをされないままに放置されることが多くなりました。
 そのツケが、例えば二〇〇五年の台風で草津港が流木で埋まった事件、一昨年の広島の土砂災害です。元の広葉樹が繁る山林であったら、と思わずにいられません。山林を手入れするのは、大事な災害対策の一つなのです。
 二〇〇一年、太田川流域の木で、太田川流域に家を建てよう、という運動が始まり、さっそく参加することになりました。
 地域産材を使うと、例えば地元の製材所が元気になります。最初は「もう廃業しようと思っていたのに」と渋っていた業者さんも、今では行くたびにニコニコとコーヒーを出してくださいます。こんな風に、地元のものを使うということは、地域の雇用を守ることにもつながると思います。

2016-12 (28)

■安い材料の方がエネルギーを使っている

 外材は確かに安いのです。木材の量と運んだ距離をかけたものを、ウッドマイレージと言いますが、日本は桁違いの世界最大です。集成材などは、海外から輸入した木材を成型し、張り合わせ、圧縮して作ります。でもそれが一番安い。外材に限らず国産材も、今では高温で乾燥させます。つまりものすごい量のエネルギーを使っているものが安いのです。
 我社は半径五〇㎞から取り寄せた材木を自然乾燥させたものを使っており、一番エネルギーを使っていないのですが、それでも高い。でも家一軒当たりの差は二~三〇万円程度に過ぎません。ぜひ、考慮に入れていただきたいと思います。
 もう一つ、外国産材は日本のシロアリに対して、非常に弱いのです。国産材、特に地域材は、その地域の風土やシロアリに対抗して育ちますから、被害にあいにくいのです。

■地域を巻き込む漁民の森

 一〇年前から「広島西部ロハスの会」を立ち上げ、「漁民の森」運動を始めました。元は栗園だった荒れた果てた森を切り拓き、植林(針葉樹と広葉樹の混合林)や下草の手入れなどをしています。「森・川・海は一つ」を合言葉に、林業家や漁協の方、地域の子どもたち、大学生などと一緒に、野外コンサートや伐採の体験など、楽しい一日を過ごしています。先日はツリーハウスをつくる企画をしましたら、たくさんの方が参加してくれました。やはり楽しくなくては、賛同を得られないのだと思いました。この活動が評価され、昨年「緑化功労賞」をいただきました。

■ボランティアを支える理念

 漁民の森はボランティア活動で、一銭の得にもなりません。こんな活動が続けられるのは、経営理念の中に環境貢献を謳っているからです。わかりやすく、「利益を山の木に還元しよう」と書いています。社員の入社時にはこのことを良く説明していますから、活動にも協力的です。
 一方で、ツリーハウスの画像をHPに掲載していましたら、それがきっかけでマリーナホップの展望台の仕事が決まりました。大きな柱を四本、貫でつないだものですが、それを見た方から、鳥居を作ってくれと注文が来る。ボランティアでやっていることが仕事に繋がっている一例です。

マリーナホップの展望台

■こだわりが仕事と人材を呼ぶ

 こんな仕事を受けられるのは、そうした技能を持った社員大工さんがいるからです。プレカットは全体の二割くらいで、大半は手刻みで加工を行っています。モデルハウスを建てるために、大黒柱を梁でつなぐ。その手刻みの画像をアップしていると、「こんな仕事ができるところなら」とお声をかけていただける。こだわりは仕事を呼ぶのです。しかもここには競争などないのです。
 また、我社には四〇代から二〇代まで六人の社員大工がいます。皆、「こんな仕事ができるなら」と入社してきました。こだわりは人材をも招きます。

■端材処理から始まった薪ストーブ

 仕事をしていると、大量の端材が出ます。これを廃棄物として処理すると、大きな経費になります。経費カットとエネルギー活用の両面から、薪ストーブの販売を始めました。大工さんがいるときに、現場まで来ていただけたら、ただで差し上げています。来られるのは若い方が目立ちます。環境意識が高まっているのを感じます。
 また、薪ストーブを設置するには、床や壁面の耐火化、煙突の設置などが必要で、建築会社の出番になります。ストーブの置かれるリビングの隣にはダイニング、その向こうには水回り…とリフォーム受注のきっかけにもなっています。
 もちろん、薪作りは山間部にわずかながらでも仕事を作り出すことにつながっています。

アクロス福岡

■エネルギーシフトは身近なところから

 エネルギーシフトは、とてつもない大がかりなものに感じられますが、取り組みの基本は「省エネ」、「廃棄エネルギー活用」、「自然エネルギー活用」であり、それらを通じて地域経済の循環を図ることです。現在はいくら稼いでも、化石燃料代として海外にお金が出て行っています。私がやっているのは小さな取り組みですが、これが広がれば、さらに新しい取り組みが見えてくるのではないかと思います。
 例えば、街中の緑化。福岡市天神のアクロスは、日本最大級の屋上緑化の建物です。植栽をすることで、街中に巨大な山ができた。鳥が種を運んできて、樹種は二倍に、本数は三割も増えています。自然の力をうまく使うことは、街中でもできるのです。
 そろそろ、「早く・安く・大量に」という効率主義から抜け出して、地域に目を向けて、新しい仕事づくりを考えて見ませんか?