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2016.03.07

【同友ひろしま2月号】1.アイデンティティ喪失の現代(いま)こそ中小企業が真価を現わす時!(丸山博氏)

開催日時:
2016/01/13(水)
会場:
福山ニューキャッスルホテル
人数:
145名
報告者:
講師:㈲第一コンサルティングオブビジネス 代表取締役  丸山 博 氏
文責者:
事務局 本田

福山支部新春講演会
アイデンティティ喪失の現代(いま)こそ中小企業が真価を現わす時!
~これからの経済動向と中小企業の経営戦略~

講師:㈲第一コンサルティングオブビジネス 代表取締役  丸山 博 氏

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丸山 博 氏

いま、世界は不確実と不透明の時代です。二〇一六年は、その傾向がより一層深まると言われています。この不確実・不透明さが如実に表れているのが、I・S(Islamic State)、「イスラム国」の台頭です。I・Sが生まれた背景の一つが、貧困と格差の拡大です。格差と貧困に怒りを感じた人々のエネルギーが、I・Sの原理主義と結び付いたのです。
なぜ若者は、I・Sに惹きつけられているのでしょうか。彼らの多くは、欧米にいる移民の二世三世であり、イスラム教徒でした。人々は平和で、ある程度の豊かさが享受できる環境であれば、宗教や人種、文化が違っていても共存共栄できるのですが、経済的な不安が大きくなると、少数派に対して、ヤツ当たりのような差別をしてしまうのです。近年、その矛先がイスラム教徒に向かいました。
一生懸命やっているのに、少数派として差別され続けると、「私はなぜ、ここにいるのか」「私はなぜ、生きているのか」と思うようになります。私は、これをアイデンティティ(存在意義)の喪失感と呼んでいます。絶望感の中で生きる意味を失った彼らに、原理主義者が「神のために生きよ」と、生きる意味を教えたのです。

●広がる経済格差
一八世紀は安い原料と人件費を使って、モノをたくさん売る産業資本主義の時代でした。大量生産・大量消費の時代です。このおかけで、先進国は経済成長まっしぐらでした。
ところが二一世紀になると、このシナリオが通用しなくなります。その理由は先進国の人口減少です。厚労省が発表した日本の合計特殊出生率(女性が産む子どもの平均数)は、二〇一四年で一・四二でした。この数字は、日本の人口が自然に減っていくことを意味します。
人口減少のはっきりとした理由は不明ですが、共働き世帯や二世帯同居の家庭は、出生率が高く、都市部になればなるほど低い傾向があります。つまり、都市部では子育てがしづらいのです。現在、世界中の先進国で都市化が進んでおり、これが人口減少の一因だと考えられます。この人口減少による経済成長の行き詰まりから、マネー資本主義が台頭してきました。この行きすぎから、リーマン・ショックが起こりました。
経済学者のトマ・ピケティ氏は、富裕層の資金投資によって生まれる利益が、富裕層以外の人が労働で得た利益を上回った結果、経済格差が広まったと指摘しました。つまり、まじめに働いて給料が増えるのを待つよりも、投資した方が常に高い利益率を得られるようになったのです。現在の格差の原因は、富裕層への富の集中です。たとえ経済成長をしている国でも、そこに格差があると、人々の間に不幸せ感が募ります。そして、その思いがアイデンティティの喪失感へつながるのです。
日本も例外ではありません。非正規雇用の増加などから、日本の若者の貧困が深刻化しています。統計を見ると、中間層が減り、富裕層と貧困層に二極化しています。年収二〇〇万円未満の若年層が、全体の四五%以上になりつつあるのです。今年は世界中で、格差の拡大とアイデンティティの喪失が一層広まるかもしれません。

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●何のために働くのか
日本国内では人手不足が深刻化しています。この背景には団塊の世代が大きく影響しています。二〇一六年、彼らは労働の現場から続々と離れていきます。いまの人手不足の原因は、景気ではなく人口の構造なのです。既に多くの中小企業にとって採用難の時代が来ています。そんな中であっても、採用できる企業にならないと生き残っていけません。
そんな企業になるためには何が必要なのでしょうか。あなたは、お客様にとって魅力のある企業と、働く人にとって魅力ある企業のどちらか大切だと思いますか。いま必要なのは後者です。自社で働く人がお客様にとって魅力ある企業を生むことはあっても、その逆はほとんどないからです。
私は全国各地の同友会の新入社員研修で話す機会がありますが、いまの若者は、働く理由がわからない、アイデンティティを喪失した人がたくさんいます。彼らに働く理由を聞くと、「そこそこの生活のために働く」と返ってきます。私は、社員と距離の近い中小企業家の私たちこそ、「何のために働くのか」「どう生きていくか」を伝えていく使命があるのだと思うのです。
中小企業家しんぶんの一月五日号に、駒澤大学の吉田敬一先生、宮﨑由至中同協副会長、広浜泰久中同協幹事長の新春対談が載っています。その中で、経営指針の成文化と総合実践の必要性が書いてあります。どうして経営指針が必要だと思いますか?それは、経営指針が会社のアイデンティティだからです。
みなさんは、社員に「なんのために働くのか」を伝えられますか?「我社は何のために存在しているのか」「どんなお役立ちをしているのか」の問いに、どう答えますか?すぐに答えられなかった人は、経営理念を成文化していない人かもしれません。いまは、アイデンティティ喪失の時代です。理念や指針を作っていない企業は、会社のアイデンティティを喪失したままだと言えるのです。

●高収益企業のヒント
これからの中小企業は、高収益企業になることが求められます。そのための戦略を考えてみます。
まず一つ目が、極めることです。小さなことでもいいので、日本一・世界一をめざしましょう。既に大量生産の時代は終わりました。これからは高付加価値の商品やサービスを、いかに求める人に提供するかが鍵です。これを徹底的に追っていくのです。これができれば、どんな時代でも勝ち残るチャンスがあります。
二つ目が「高く売る」戦略です。そのためにも下請けではなく、横請けの関係になり、自社が元請け企業にとって、なくてはならない企業になるのです。安売りに巻き込まれていると、いつまでも社員は幸せになれません。
では、高く売るためには、どうしたらいいか。それが、三つ目の「変化に適応して『次元』を変える」です。同業他社と同じものを提供していても、「コレなら負けない!」という何かを作るのです。
もし、技術で勝てなければ、スピードや挨拶、笑顔、電話応対など別の何かで勝負すればいいのです。これが、次元を変えるという考えです。中小企業は、つい、お金や時間がないと言いがちで、その何かを極める努力や徹底がまだ甘いと感じます。今年は絶対にこれを極める!というものを見つけて、徹底してください。それがお客様に褒められ、社員の喜びにつながります。
中小企業に入社する社員は、成功体験を得てきた人たちばかりとは限りません。挫折や失敗した経験を持つ人もたくさんいます。そこで、仕事を通して社員に「勝ちグセ」をつけ、アイデンティティを回復するのです。これは経営者が本気になれば、明日から実行できます。そんな会社を作っていきましょう。

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●見えている未来に対応する
先ほど紹介した中小企業家しんぶんでは、経営指針を作りっぱなしで終わっている経営者が多いと指摘していました。指針は作ることよりも、総合実践の方が大切です。経営指針と聞くと、分厚いものをイメージするかもしれませんが、理念、戦略、計画、組織図がそれぞれ一ページでもかまいません。簡潔に作って、本気で実践してみてはどうでしょうか。
「先のことなんかわからない」と言われるかもしれませんが、わからないからこそ計画がいるのです。なるようにならないから、計画が必要なのです。もし、なるようにならなかったら、どうしてだめだったかを考えるのです。これがPDCAです。会社はPDCAの習慣を身につけなければなりません。これが経営指針の総合実践です。
そして、これからは見えている未来に対応した戦略を立てていきましょう。その一つが高齢化です。高齢化と言えば、介護が思い浮かびがちですが、元気な高齢者に向けたビジネスも戦略の一つです。東京には、高齢社という六五歳以上専門の人材派遣会社もあります。人口減や高齢化を売上減の言い訳にするのではなく、追い風にするのです。
現代は大変不透明な時代です。だからこそ、私たち中小企業家がアイデンティティの喪失とたたかい、我社で働いてよかったと思える仕事を提供していく時代を迎えているのです。
(文責 事務局 本田)