④第3分科会 「中小企業憲章にそった税制への転換をいまこそ求める~中小企業の立場から考える外形標準課税・消費税・法人税等の問題点」
報告者 税理士法人アルファ合同会計 社員税理士 菅 隆徳 氏(会外専門家)
本日は「歪みを正し、公正な税制をめざす」、を大きなテーマとし、①日本の税金の現実と応能負担原則、②大企業優遇税制の実態と適正課税の課題という二つのポイントからお話しします。
所得増で負担率は下がる?
所得税は累進課税であることは、皆さんもご承知の通りです。しかし、よく調べてみると、1億円を超えると負担率が低くなることをご存じでしょうか。所得1億円で、国税負担率26.5%を天として、所得が増えるにつれて国税負担率が下がっていきます。この高所得者層の所得は、ほとんどが株の売却益によるものです。理由は証券優遇税制のためで、上場株の売却益や配当に対する課税が極端に少なくなる制度です。さすがにおかしいという批判が国会でもあがり、昨年から20%に上がりました。ただヨーロッパの3~40%に比べるとまだまだ低いのではないでしょうか。
法人税を見てみます。資本金1億円から5億円の会社の負担率27%を天として、資本金が増えるにつれて負担率が下がっていきます。連結法人では負担率13.3%と負担率がかなり下がります。
これは、連結納税といい、経済実態上は一体とみなしうる企業グループ(例:親会社と国内の百%子会社)を課税上も一体の組織とみなして、親会社の黒字を子会社の赤字と相殺する制度です。ほとんどが、皆さんもよくご存じのトヨタ、ソニー、資生堂などの大企業です。
消費税負担の実態
消費税の実質負担を見ても差があります。一般消費者は買い物のたびに消費税8%を必ず払います。中小企業は消費税を預かるという建前になっていますが、市場の力関係の中で、販売価格に転嫁できる保証はなく、自腹を切って消費税分を納付する実態があります。一方の大企業は価格に転嫁できないということは考えにくく、売り上げて預かった消費税から、仕入の際に払った消費税を差し引いて税務署に納付しています。大企業は実質1円も負担していません。さらに輸出企業の中には、輸出免税制度による「戻し税」で潤っているケースがあります。事業者が輸出を行った場合、売上には消費税がかからないので、仕入段階で支払った消費税を還付する制度です。2010年のトヨタへの戻し税の還付は2246億円でした。輸出大企業にとっては、消費税は払うものでなく、もらうものという不公平な実態があります。
「応能負担原則」とは
これまで見てきた所得税、法人税、消費税の現実。不公平がまかり通っています。では、税金の公平性はどう考えればよいのでしょうか。憲法第14条は「すべて国民は法の下に平等であって」とあり、実質的な平等を意味しています。また、第25条は「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあり、最低限度の生活費に課税してはならないという意味です。
こうした考え方はフランス革命のときの人権宣言(1789年)以来の世界の常識です。フランス人権宣言第13条は「共同の租税は全ての市民の間で、その能力に応じて平等に負担されなければならない」とうたっています。また、ドイツのワイマール憲法(1919年)は第134条で「すべての国民は、法律に従い、等しく、その資力に応じて公の負担を担う」としました。こうした考え方が日本国憲法に継承され、税は能力に応じて平等に負担されるべきという「応能負担原則」の考え方が確立されています。
日本の法人実効税率は高い?
安倍政権は、消費税率を8%に引き上げ、2017年4月から10%に増税する一方、今年度から大企業を中心に法人税を引き下げようとしています。法人実効税率(東京都の場合、現行35.64%)を中国などアジア諸国並みの25%まで引き下げるのがねらいです。これには年間五兆円の財源が必要だと言われています。
例えばドイツは29.55%で、日本は比較的高いようにみえます。ところが、日本の多くの大企業は、この通りに税を負担しているわけではありません。法人税の計算には、交際費などの経費に認められない加算項目、受取配当益金不算入など所得を圧縮する減算項目、試験研究費の税額控除などの税額を減少させる税額控除があり、大企業の場合、実際に計算すると莫大な金額の減税が日常的に行われているのです。故に、日本の法人実効税率は、表面的には高いですが、大企業の納税額は少なく、実質負担率は著しく低いのです。
経済評論家の垣内亮氏は、大企業上位500社(持株会社除き410社)の2013年度有価証券報告書から、実際の法人実効税率(住民税・事業税含む)を計算しています。これによれば、大企業の実質法人実効税率は24%となっています。現在の法人実効税率は約35%です。政府は「実効税率を20%台にする」と言っていますが、大企業優遇税制によって、とっくに20%台になっています。
政府は、財界の際限ない要望を受け入れ、「日本の法人税はまだ高い」と言いますが、大企業の実態は、すでに十分低く、これ以上法人税を下げる必要はありません。大企業優遇の租税特別措置は廃止し、大企業は利益に応じた応分の税負担をすべきです。
消費増税なしでも財源はある!
消費税増税は必要なく、財源はある、というのが私の考えです。例えば、大企業優遇税制の是正で年間10兆円の財源は確保することができるのです。
大企業優遇税制の内容には、租税特別措置法による減税と法人税法による租税特別措置があります。
租税特別措置法による減税項目には、試験研究費の税額控除、投資法人に係る課税の特例、使用済燃料再処理準備金など全85項目。これらを合わせると約8145億円。
法人税法による減税は、受取配当益金不算入で1兆5694億円、外国子会社配当益金不算入で1兆1337億円、連結納税で5879億円などがあります。こうした大企業の減税額を合わせると5兆3782億円になります。
さらに消費税導入以来ずっと引き下げられてきた法人税と所得税の減税額は合計で2兆8346億円に上ります。これを合わせると8兆円の財源。株の売却益や配当に対する特別に低い税率など、大資産家優遇税の是正も加えれば10兆円を超える財源があると考えられます。
アベノミクスの税制改革
2014年6月27日に「政府税調・法人税改革の提言」が出されました。そこでは第一に法人税率を引き下げる、第二に法人税の負担構造を改革するといっています。今の法人税の負担のあり方は黒字企業に負担が偏っているから薄く広く負担してもらおうという議論です。しかも従来は法人税減税を行う場合、同じ法人税の中で増税するという税収中立(増減税同額)という考え方が常識だったのに、これからは法人税の枠組みを超えて他の税目を見直すべきということを言っています。そこから赤字法人にも負担を強いる外形標準課税の拡大や欠損金の繰越控除の見直し、中小法人の軽減税率の見直しなどが打ち出されています。
2015年の税制改正(2014年12月30日)では2017年4月からの消費税10%増税は「景気判断条項」なしで実施すること、税負担の構造改革として法人事業税の外形標準課税の拡大、赤字法人課税の拡大を言っています。
ただし、中小企業家などの反対運動により、資本金1億円以下の中小法人への外形標準課税の拡大は「慎重に検討」となり、中小法人課税の強化も同様に見送りとなりました。これは皆さん方の運動の成果です。
今求められているのは
お話してきたように大企業の法人税減税のために、中小企業と庶民に増税するのには反対です。応能負担原則を貫いた税制の改革が必要です。不公正な税制を正して大企業、大資産家には適正な課税をするということです。このことは社会保障の充実、国民の所得を増やして家計を温め、消費と需要を活発にして経済を立て直すことにつながります。また、政府が閣議決定した中小企業憲章から照らしても、不公平な税制を正すことが求められます。