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2024.02.21

備北支部 新春講演会「これからの中小企業経営と金融 ~地域金融機関と良い関係を作るには~」

講師:日下企業経営相談所 代表  日下 智晴 氏(元金融庁地域金融企画室長)

私は、広島銀行に31年、金融庁に6年勤めた後定年退職し、祖父が開設した経営相談所を再興しました。

私は同友会が、金融・行政が大変混乱していた時に経営者の声を届ける金融アセスメント運動をされていたことに、感銘を受けました。同友会運動が全国に広がるということは、間違いなく世の中を良くすることだと思い、今日はその一助となればと思ってお話します。

■金融行政の歴史

金融行政の歴史を振り返ると、金融庁が制定した金融検査マニュアルがもたらした混迷の時代を経て、2015年に変革が始まりました。金融検査マニュアルにより金融機関は、企業を財務内容と担保の有無で債権を区分させられていました。企業は日々事業が存続して成り立っています。従って、財務内容だけで企業の良し悪しを判断するということは本来あってはならないのです。そんなあってはならないことが起きていた時代でした。

その後、2000年辺りから無借金企業の割合が加速していきます。それは、金融機関が経営者にとって面倒な存在となり、お金を返す動きが加速したためです。これは日本の成長を鈍化させました。無借金ということは、誰からの干渉も受けませんが、一方で、成長のための投資などがしにくくなります。

■金融行政の転換

そんな混迷の時代から、ついに2015年に改革が始まりました。それまでの金融庁は、金融機関を監督することが目的でした。しかし、もっと高い目標があるはずだと、「国民の厚生増大」「企業・経済の持続的成長、安定的な資産形成」を再定義しました。では、具体的に何を行うか。それを2つメッセージにしました。

1つは事業性評価ということを言い始めました。事業性評価とは、「金融機関は事業者の事業内容をしっかり見て、理解します」というものです。これは金融検査マニュアルで、財務内容だけで判断していたことへのアンチテーゼです。正反対の考えです。

もう1つは、金融機関と企業の間の「共通価値を創造する」ことが正しい金融の姿ではないかということです。この2つが金融仲介機能の発揮に向けた重要なメッセージになっていきます。

現在金融庁は、「金融育成庁」として、「顧客との共通価値の創造に根ざしたビジネスモデルの確立」をめざし、様々な施策を行っています。

■これからの担保保証のあり方

現在金融庁の働きかけもあり、様々な銀行で経営者保証を無くそうと変わりつつあります。金融庁は規制緩和を行い、経営者保証の代わりに経営者株式を担保にとれるようにしました。金融機関は株式を担保にすると、その会社を潰さまいと、経営者と同じ船に乗り。企業支援に専念するようになります。

さらに、国が新たな担保として、事業全体を担保に取ることができる「事業成長担保権」というものを作ろうとしています。企業が事業として行われる全てのキャッシュフローを担保にできる全く新しい担保法制を作り、それに対し金融機関が担保を設定し、事業性融資をする時代が来るのです。

■企業と金融機関の新たな関係

これまで経営者の皆さんは知的資産経営を行い、結果が毎期のPLとして表れ、それが連続したものが現在のBSだと思います。これからは、将来計画が企業経営の最も重要なものになります。知的資産経営を進化させ、それらを含んだ将来の計画を作って示すことが必要です。

さらに、事業成長担保権は事業に対する担保権なので、メインバンクしかとれません。ですので、企業は「どの金融機関と信頼関係を構築し、共通価値を創造するのか」ということをイメージしなければ、何もできない時代になっていきます。

企業はもう、経営者保証に苦しめられることはありません。ただしそれは、一方的に楽になるわけではありません。自分たちの将来の計画をしっかりと作っていくことが必要です。これからは、皆さまが作っておられる、経営指針・経営計画が法制的にも実を結ぶ時代になってくると思います。

(記:事務局 中野)