第52回定時総会 基調講演『中小企業を取り巻く情勢と課題』
- 開催日時:
- 2024/05/30(木)
- 会場:
- リーガロイヤルホテル広島
- 人数:
- 355名
- 報告者:
- 講師:飯島 寛之 氏 (立教大学 経済学部 准教授、中同協 企業環境研究センター委員)
- 文責者:
- 事務局 保田
5月30日、リーガロイヤルホテル広島にて「第52回定時総会」を開催しました。当日は355名の参加がありました。基調講演では、中同協の企業環境研究センター委員 飯島寛之氏に「中小企業を取り巻く情勢と課題」について講演いただきました。講演の様子をご紹介します。
■回復はどこまで進んだか
日本の景気はどの程度回復しているのか、売上高回復の程度を見ると、少しずつ右肩上がりになっています。ですが、大企業や多国籍企業は売上高が伸びているのに対し、中小企業は売上高にあまり変化が見られません。原因は、海外進出企業が儲け分を次の海外生産に使用するため保有しているためです。大きな企業の儲けが国内に還元されず、雇用や仕事を増やすことに繋がりません。
物価高が続き、輸入価格は上がるも賃金はなかなか上がらず、国民の消費に対する意欲は冷え込んでいます。中国・四国・九州・沖縄の地域は、他の地域から見ても悪化がそれほど進んでおらず、回復の傾向が良いといえます。これが特殊であるか、そうでないかを常に考えなければ、全体の波に飲まれてしまう可能性もあります。
中小企業を中心とする日本経済の姿は、一部動きの弱い部分はありますが、緩やかには回復しているというのが政府の味方です。この環境下で取られる政策は、中小企業にとって成長を促すものではありません。ある程度の人数を超えれば、加速的な成長が見込めるとの期待から中堅企業という括りが登場する一方、景気回復という認識の下で中小零細企業への保護政策は転換し、その波に乗り遅れれば「淘汰やむなし」――こうした環境に移り変わろうとしています。
■地域経済の需要の変化
日本経済が長期の停滞から抜け出せていない理由として、設備投資が停滞し、生産性の低い企業が温存していることなどが指摘されています。
でははぜ設備投資は停滞したのか。
それは投資意欲がでないほど予想売上高や利益率が低いからであり、その背景には、日本経済の成熟化という事態があります。かつて日本経済をけん引してきたリーディング産業を中心に国内の平均的な水準の家庭にとって必要だと思われる商品は一巡している、つまり社会的ニーズの量的限界を迎えていると考えるべきでしょう。こうした事態の下では、半世紀続いた「いいものを安く、たくさんの人へ」から、「いいものを高く」へ考え方を転換すること、「違いがあることが価値である」ことを認識する必要があります。多様化するニーズに対して「小ささが」もつ強みを持っているのが中小企業ではないでしょうか。
新しい需要を掘り起こす商品・サービスの創造とならんで重要なのは、新市場の創出です。それはひとつには、海外市場かもしれません。しかし、意味するところは市場の開拓だけではありません。人口減少なども加わって縮小傾向にある地域という市場を再構築しなければ、中小企業やその従業の基盤そのものが失われかねない局面に入っています。「地域市場」の再構築のためには、その担い手である中小企業がネットワークを張り巡らしながら、共同事業の領域を広め、自覚的に地域内産業連関を形成していく必要があります。
広島県は、2023年度の人口流出数は日本でもっとも多い県ですから、市場の縮小にはみなさん敏感に反応されているかともいますが、地域の個性をいかした地域経済圏の形成に取り組まなければなりません。
■「円安」の歴史の始まり
眼下の難題に目を移せば、円安の進展があげられるでしょう。アメリカとの金利差が要因とはよく言われますが、日米の金利差が縮小すればかつてのようになるかというとそうではありません。 主要な経常収支項目の推移をみると、貿易収支はかつてのような黒字ではなく、経常収支黒字は海外投資から得られる収入や海外進出した企業の儲け(第一次所得収支)で支えられています。
しかし、これらの儲けの多くは、日本円に転換されず、そのまま海外で運用するため円高要因にはなりません。こうしたことを考えれば、現在の円安は、需給に基づく構造的なものと考える必要があります。ですから、すでに始まっている「円安時代」をどう味方につけるか。このことを考えたビジネスモデルを作っていく必要があります。
また「脱グローバル化」が叫ばれて国際展開の在り方を考えている方もいるかもしれませんが、脱グローバル化の崩壊、もしくは進展は必ずしも一方的に進んでいるわけではありません。それがどのような姿・速度で進んでいるのか、どう変わろうとしているのかの理解が長期的な計画を左右します。グローバル化を見間違ってはならないとも感じています。
■課題~コスト高と人材不足~
今、中小企業の抱える経営課題トップ3は、「仕入れ価格の上昇」、「従業員の不足」、「人件費の増大」です。 仕入価格問題はやや落ち着きましたが、まだわかりません。日本の場合、輸入物価指数の動きが、それぞれタイムラグをもって企業物価や消費者物価に与える影響が大きくなっています。一時低下基調にあった物価の上昇ですが、ここ数ヶ月で再び上昇傾向にあるため、まだ「落ち着いた」とは言い切れない状況です。
人件費の上昇に関しても、労働力の確保や従業員の生活保障という点に鑑みて、中小企業もこれに取り組まなければなりません。焦点はそのコストをどのようにカバーしていくかです。経済環境の変化を踏まえつつ、価格決定力のある商品やサービスの創出という自助努力はもとより、サプライチェーン全体で生み出された付加価値が適正配分される「公平公正な市場」を実現するための要請を続けていく必要もあります。
人口減のなかで難しさを増すなかでも人材を確保するためには、まず「地域社会で選ばれる企業」でなければなりません。知名度や売上高も重要ですが、人が本来持つ価値創造的な役割を提供できているかなど、今一度自社の理念・意義などを再確認してみてください。同時に、20代前半で出て行った世代も、Iターン、Uターンで帰ってきて定着できる魅力的な地域、そのための経済圏・市場をつくっていく必要があります。
■何のために、どこへ向かって経営をするのか
中小企業・同友会運動の取り組みとして、企業がそれぞれの得意分野を継続的に供給し、安定性を持たせることで、「地域にとっての必須企業」になっていくことを期待しています。
地域の課題を理解し解決することで、地域の中で求められる存在となりえると思いますし、そのことが地域市場の再構築という大きな課題の一端を担う共同作業の一環に違いありません。今こそ、地域に根付く中小企業の出番です。そんな会社を作るために「社会経済関係の変化を見る視点の提供」、「環境が変わってもぶれない軸を持つ」、「情報を仕入れ、学び続ける場を持つ」こと、経営者としてこの3つの点に取り組むことが責務といえるでしょう。