「未来志向の経営戦略~誰もが最期までごきげんな社会をめざして」県地域共生委員会
- 開催日時:
- 2024/10/26(土)
- 会場:
- 同友会本部事務所
- 人数:
- 29名
- 報告者:
- モルツウェル(株) 専務取締役 野津 昭子 氏(島根)
- 文責者:
- 事務局 本田
モルツウェル(株) 専務取締役 野津 昭子 氏(島根)
当社は島根県松江市で、介護施設向けの調理済食品の製造販売や在宅高齢者向けの弁当配食等を行っています。従業員は125名です。皆さんは「世界がもし100人の村だったら」という本をご存知でしょうか。モルツウェルがもし100人の村だったら、10人が障がい者で24人が60歳以上、2人が外国人であり、58人が女性、42人が男性の会社です。
私は社長と一緒にフランチャイズのお弁当店を開業しました。開業から1年後に私は出産し、子どもをおんぶしながら調理や販売、給与計算や総務の仕事もしました。朝7時から夜中2時までの営業時間でしたが店舗の立地も良く、売上日本一にもなりました。
しかしコンビニの台頭や急激な店舗拡大に組織経営が追い付かず、少しずつ経営が傾き始めました。そんな頃、ある会議で「目標は月商700万円です」と言った女性店長に、私は「無理でしょ」と即答しました。振り返ると当時の社長も私も、社員を叱咤するばかりでした。しばらくしてその女性店長は、一通の手紙を残して退社してしまいました。「モルツウェルが大好きだけど体が限界です。モルツウェルが思いやりを持った立派な会社になることを期待しています」。そんな内容の手紙でした。そこから私は強くて誰も犠牲にならない会社を作りたい、と決意しました。
2003年に新規事業として在宅高齢者向けの配食事業を始めました。早朝の仕事に人手が足りないと思っていると、偶然にも養護学校の実習の話が来ました。受け入れてみると難なく仕事もでき、その子を採用しました。そこから養護学校の採用に加え、高齢者や留学生の採用も始めました。多様な人材による全員野球の基礎がこの頃から出来上がってきました。
社内で障がい者雇用の理解を深めるために勉強会や交流会、社長のメッセージを発信しています。話すことが苦手な社員には、ツールやマニュアルを駆使してコミュニケーションをとっています。松江市内で厨房受託をさせていただいている高齢者施設で働く知的障がいを持つ社員がいます。厨房の仕事でも煮炊きなどの調理はなく、盛付や配膳が主な仕事です。マニュアルや仕組みのおかげもあり、彼は何の支障もなく一人で仕事が出来ています。
経営者仲間から「雇用して失敗をするのが怖い」とよく聞きます。私からすると、それって失敗?と思うようなことも多々あります。入社18年目の社員は雇用を始めて社内が優しくなった、と言ってくれています。障がい者も健常者も日々、成長しています。大切なのは経験をどう生かすかだと思います。
人材不足はこれからが本番です。島根の高齢化率は35%です。これは2040年の全国の予測数値とほぼ同じです。労働者人口が激減する中、あらゆる人材が働きやすい環境を作り、地域・社会づくりに参画してもらう仕組みが必要です。そして、中小企業が大手に採用で負けないためには、人を生かす経営、本質のダイバーシティ経営を行う採用戦略を作っていくのです。
日本の障がい者数は人口の9.2%と言われています。一方で法定雇用率未達成の企業の約9割が雇用数0です。これは企業と社会的な構造、どちらの問題でしょうか。私はこの問題を一社一社が我が事と考えられるかどうかが、更なる問題だと思います。
当社のビジョンは「誰もが最期までごきげんな社会をめざす」です。経営者も社員もみんな幸せになりたいと願っています。その願いをかなえられる環境を作るのは私たちの使命です。今、雇用が難しければ一人の障がい者と関わる道もあります。先に大人になった者の責任として、まだまだやるべきことがあります。これがモルツウェルの未来志向の経営戦略です。