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2024.12.25

経営フォーラム2024 基調講演「人を生かす経営の実践~自主・民主・連帯の精神を企業に生かそう~」

開催日時:
2024/10/11(金)
会場:
リーガロイヤルホテル広島
人数:
560名
報告者:
エイベックス(株) 代表取締役会長 加藤 明彦 氏(中同協副会長 愛知同友会)
文責者:
事務局 木下

■同友会会員の器(資質)

同友会の目的の2番目「よい経営者になろう」、これは会員同士がお互いに資質を高めていこうということです。この点で、私の気づきをお話しします。
「勝手な同友会」をやっていませんか?入会当初の私はまさにこれでした。「自分には自分の考え方がある」、しかも自信過剰で、社員に対する不満や愚痴を言ってばかりの経営者でした。これを避けるためには、素直に信じて学ぶ。先輩会員から学ぶべきは、貴重な経営体験、信念、その生き様にあると思います。
「同友会ごっこ」をしていませんか?例会で報告を聞き、グループ討論にも参加する。この過程で「学んだつもり」になっていませんか?学んだことを実践していますか?経営者として成長していますか?

会社が変わっていますか?変わっていないなら、あなた自身に問題があるからです。問題は自分にあると考え、周囲や環境のせいにしないことが最も重要なのです。学んだことを「社員に分かりやすく」伝えてますか?そのまま話すのではなく、自分の中に取り入れ、社員の立場に立って理解しやすい形で伝える必要があります。私はこれを「TTP(徹底的にパクる)」といっています。

■同友会との関りと経営の成長

私は1993年に同友会に入会しました。経営指針も成文化しましたが、自信が持てず、社員に発表するまでには至りませんでした。この期間は5~6年続きました。経営者の自分が毎日会社に行くのが嫌でしたから、社員も同じ気持ちだったと思います。
1999年、「中同協(中小企業家同友会全国協議会)30年史」にふれ、市場創造と人材育成の重要性を学びました。これを経営指針の柱とし、実践することに努めました。2000年は社員数が30名から80名に増え、売上も3億円から13億円になりました。以降、市場創造と人材育成を一貫して追求し、24年後の現在は社員数500名、売上84億円の企業に成長しました。私は同友会の理念を実践することで、経営者としての成長と企業の発展を実現することができたのです。

■同友会の本質は「労使見解」

1973年に「三つの目的(よい会社・よい経営者・よい経営環境)」が採択されました。その2年後の1975年に発表されたのが「労使見解」です。
「労使見解」は常に私たちに、経営者としてのあるべき姿を問いかけ、労使関係の創造的発展こそ企業成長の原動力であることを示し続けてきました。

このポイントは、①経営者の経営姿勢の確立、②経営指針の成文化とその全社的実践の重要性、③社員をもっとも信頼できるパートナーと考え、高い次元での団結をめざし、共に育ちあう教育(共に育つ)を重視している、④経営を安定的に発展させるためには、外部経営環境の改善にも労使が力をあわせていこう、ということです。
これに関して私の気づきをお話しします。まず1歩目として、当初は当社で「労使見解」の考え方が展開できておらず、そもそも「経営者の姿勢」が悪かったと、学ぶ中で気づき反省しました。
2歩目は、その後「労使見解」の学びを深めていったものの、なかなか社内に浸透していかず悩んでいました。そして気づいたのが、「自主・民主・連帯の精神」の風土が会社になかったことでした。
「労使見解」を自分で学ぶことも重要ですが、それだけでは会社は変わらないのです。いかに「自主・民主・連帯の精神」を会社の風土として根付かせるかが課題だったのです。
これらがどう「自主・民主・連帯の精神」と結びつくかですが、1人1人の違いを認め、個性を生かすことで、個々が潜在的に持っている能力が発揮され、それによって誰もが一度しかない人生を豊かなものと実感でき、「幸福感」を味わえるようになります。これが「人間尊重経営」の基本です。
経営者がまず「自主・民主・連帯の精神」を理解して経営者の姿勢を確立することによって、会社の中に徐々に風土がつくられてきます。風土ができると、社員が徐々に呼応してきて自主性が生まれてきます。そこで初めて経営者と労働者に『労使見解』の対等な労使関係ができてくるのではないかと思います。

■リーマンショックの教訓「雇用を守る」

2008年のリーマンショックは、「雇用を守る」ことの意味を考えさせられました。そして、経営に対する考え方も「P/L(損益計算書)経営」から「B/S(貸借対照表)経営」へ大きく変えました。人件費は通常は「費用」扱いですが、資産の自己資本に相当するものだと認識を変えました。「最大の経営資源はヒト」です。我社は人がいないとモノが作れないからです。経営危機だったからこそ覚悟を決めました。雇用は絶対に守ると社内で宣言したのです。まさに経営者の姿勢が問われたのです。
銀行にも借り入れの時に訴えました。雇用を守る方が他社よりも早く利益を生む。だから返済もしっかりできると。お金さえあれば会社は潰れません。私は資金集めと販路開拓でほとんど会社にいなくなりました。だから社員に任せるしかありません。このことで、社員との強い信頼関係が築けたと思います。
元々、共育で社員は育っていました。経営指針を全社員と共有していく過程が、最大の「共育」だと感じましたし、2000年に掲げた中期ビジョンもあったので、社員たちは会社の方向性を理解してくれていました。

■市場創造と人材育成

「今ある仕事は必ずなくなる」と私は考えています。弊社は、家庭用ミシン部品で創業後、8ミリ映写機部品、自動車関連部品へと事業内容が大きく変わりました。過去の延長線上のことをやっていたら、確実に現在は売上0です。時代の変化と共にニーズや取り扱うものも変化します。リーマンショックの時に、自動車部品製造業から切削研磨加工を極めるプロフェッショナル集団に変わり、安定した売り上げを確保しました。こう捉えると、お客様は自動車業界でなくてもよいのです。

将来が見えるビジョンが明確になるとやるべきことがはっきりと見えてきます。社員はやらされ感がなくなり、自ら自分の役割を担うようになるため、具体的な会社の方向性や経営指針作りはとても重要です。今ある仕事は、何もしないと必ずなくなる。だからこそ「市場創造」が大事なのです。
人間は必ず年を取ります。採用し続けない限り、今いる社員は必ずいなくなります。

毎年採用計画と育成を行わなければ企業活動が継続できません。不足したら募集をするという「妥協採用」をしてはいけません。全社員の年齢構成を把握して、社員の後継・技術承継を行うことで共育ちの関係が生まれ、会社の維持と発展につながります。経営指針を作り、現状に甘んじることなく、常に危機感を認識することは、会社が発展する秘訣になります。

■経営者の責任とは

労使見解には、「経営者である以上いかに環境が厳しくとも、時代の変化に対応して、経営を維持し発展させる責任があります」と書いてあります。それをしないと経営者失格であると言っているんです。我々の先輩方は、それぐらいの覚悟を持って経営してこられたのです。その経営とは何か。繰り返しになりますが「人間尊重の経営」なのです。

【会社概要】
設立 1953年6月
資本金 1,000万円
年商 84億4,000万円(2023年度)
社員数 499名(うちパート社員235名)
事業内容 自動車関連部品(A/Tバルブ、ブレーキ、ミッション、エンジン部品) 建設機械部品(高精度小物、精密切削、研削加工部品)