経営フォーラム2024 第1分科会 基調講演を深める分科会「人を生かす経営を実践しよう~社員の成長が、会社発展のカギ~」
- 開催日時:
- 2024/10/11(金)
- 会場:
- リーガロイヤルホテル広島
- 人数:
- 50名
- 報告者:
- エイベックス(株) 代表取締役会長 加藤 明彦 氏(中同協副会長 愛知同友会)
- 文責者:
- 事務局 岡崎
■あなたは、なぜ同友会に入会をしましたか?
皆さんは何で同友会へ入ったのですか?紹介者に勧められて入会した方(受身型)、今の会社の課題を解決したいと思って入会した方(停滞型)、特に困っていないけれど経営者として何か物足りなさを感じて入会した方(欲深型)、どれでしょうか。
一つ目の誘われて入会した方々は非常に見込みがあります。なぜなら素直に物事を吸収できる方々だからです。同友会を信じて言われたことを素直に実行してほしいと思います。
ただし、仲間の話を聞くだけでは不十分です。まだお互いに勉強中ですので、同友会の書籍を読んで理解を深めることが重要です。『同友会運動の発展のために』『生きる、暮らしを守る、人間らしく生きる~自主・民主・連帯の精神』『労使見解』をセットで読むと理解が深まり、強靭で良い会社になると思います。
私は2つ目の停滞型でした。1993年に愛知中小企業家同友会に入会しましたが、当時、社員数は28名で、46歳のときでした。大学卒業後、二代目としてやる気満々で入社したものの、20数年間は古参社員との軋轢や社員が定着しないなど会社はどうにもならない状況でした。何とかしなければと最後に見つけた同友会に藁にもすがる思いで入会したのです。今年で会歴31年になりますが、私は入会歴と役員歴が同じです。同友会では例会に積極的に参加するとすぐに役員に推薦されます。私にとっては、役員になったことが非常にありがたかったです。最初に地区役員を受けて共同求人委員会を知り、『労使見解』(人を生かす経営)と出会い、経営者としての姿勢と覚悟を学びました。振り返ると労使見解の学びは自社の発展のきっかけでした。
同友会には委員会と地区会・支部の組織があります。地区会・支部は経営課題を発見する場として機能しており、委員会はその課題を解決する場です。採用に関する問題は共同求人委員会、社員の成長を促す教育委員会、経営のあり方を考える経営労働委員会。さらに、障害者問題委員会のベースには真の人間尊重の経営があります。最近では、これらの委員会が人を生かす経営を学ぶため、一緒に勉強会を開催するスタイルになっています。
■労使見解の学びからの気づき~最低賃金問題
労使見解には、困難の原因を他に求めたり、仕方がないと諦めたりしないこと、そして労働者の生活を保障することが書かれています。経営者として非常に重要な責任です。
日本では最低賃金を2030年までに1,500円に引き上げることが議論されています。同友会でもこの1,500円という目標について活発な議論が行われています。私たちの会社では、パートさんの最低賃金が1,200円です。
高卒社員の初任給は20万円、大卒社員は22万円に設定しています。世間が給料を上げているから、うちも上げなくてはという単純な問題ではなく、パートタイム労働者とのバランスを取りながら、社員全体の給与を引き上げなければいけないのです。
最低賃金1,500円は、企業にとって大きな挑戦です。しかし、賃金の引き上げは社員の生活を保障するためには不可欠であり、避けられないことと感じています。私たちの会社では、経営指針の中で、この問題に対処するための方策を議論しています。
広島同友会の中で「労働者の生活を保障する」という点をどう理解するか議論していただきたいです。この切り口から話し合うことで、様々な視点が見えてくると思います。これが同友会の一番価あるところだと思っています。
■労使見解に基づく企業風土の確立
次に重要なのは、労働者の自発性が発揮できる状態を企業内に確立する努力です。これは風土づくりとも言えます。労使見解に基づく企業風土が整えば、自然と社員との信頼関係が築かれます。信頼関係を作るために何をするかということではなく、企業風土をどう確立するかが重要なのです。これは「自主・民主・連帯」の、生きる、暮らしを守る、人間らしく生きるの「人間らしく」に絡んできます。「労使見解」と「自主・民主・連帯」は切っても切り離せないもので、すべてが関連しているのです。
私自身の過去の失敗についてお話しします。かつて私は、会社が儲からないのは、お客と社員が悪いと考えていました。自信過剰で、社員の意見を聞いても私が期待する答えは返ってこないと全ての答えを自分で出していました。そうなれば社員はますます意見を言わなくなります。社員の考える余地を奪い、自発性を損なっていたのです。
社員が自主的に行動できるようにするためには、経営者が「何のために」という目的を明確に伝えることが重要になります。経営者はどうすればよいかを問いかけ、社員自身で考えることです。「目的(know-why)」は経営者が伝え、「know-how(方法・手段)」は社員にやってもらうで良いのです。
■経営指針に労使見解の精神が生かされているか
経営指針を作成し、それを全社員と共有することが最大の「共育」です。教え育てる「教育」ではなく、共に育ちあう「共育」です。経営指針は「共育」の道具です。各々の役割を明確にして、役割に応じた方針展開が理解できれば、「私は、あなたがいなければ困る」という互いの存在価値を認め合うことができる、そのような状況を作るのが経営指針づくりです。
社員が経営理念を理解しなければ意味がありません。私どもでは経営理念の唱和はしていません。年に1回の経営指針の泊まり込み研修で、6人の幹部が部下に経営指針を発表して経営理念を深めていきます。経営理念は初め経営者がつくりますが、いずれは手が離れます。これを会社の中でどう浸透させるかが課題であり、一番大事なところです。
次に、労使見解(人間尊重の経営)に基づく、経営指針と採用・共育の三位一体の活動が社内で推進されているかです。採用には自社の魅力を伝えるために、経営指針の中の未来を語るビジョンが必要です。学生は自分の将来を見据えた上で、どのように成長できるかを理解しやすくなります。共育は先にお話した通り、経営指針の方針・計画で目的と役割を明確にしてブランド化していくということです。
「労使見解」の精神を具現化することに、経営の本質があります。自主・民主・連帯に基づく労使見解の考え方が経営指針の理念、ビジョン、方針・計画に生かされているか、検証をすることが重要です。ここが経営者の役割だと思っています。そして、経営理念や方針計画が科学的な裏付けと整合性を持っているか、目標数値と行動計画がセットになっているかを確認する必要があります。これにより、社員は計画の実現可能性を理解し、自らの役割を果たすことで、企業全体の成長と安定が実現します。
■会社経営の目的-何のために経営をしているのか?
会社経営の目的は、「会社=人生」、「人づくり」です。一人ひとりの人生を豊かにすること、社員一人ひとりが潜在能力を発揮して成長した結果が、会社の発展につながります。やりがい・生きがい、誇りと喜び、これが感じられるような豊かな人生、これができれば最高です。社員の成長は会社の発展、いわゆる温かい人間関係の会社づくりができてこそ、トップの志(目的・理念)が人を動かすのではないかと思います。ここを目指すのが、我々経営者としての生き様だと思います。