経営フォーラム2024 第3分科会 地域づくり「地域で人を育み、地域に人を残す~2つの実践事例から持続可能な地域づくりを考える」
- 開催日時:
- 2024/10/11(金)
- 会場:
- リーガロイヤルホテル広島
- 人数:
- 57名
- 報告者:
- (株)タテイシ広美社 会長 立石 克昭 氏(代表理事)、(株)EVENTOS 代表取締役 川中 英章 氏(中同協共同求人委員長)
- 文責者:
- 事務局 保田
【事例報告1】
「地域の課題を自社の課題として取り組む」
報告者:(株)タテイシ広美社
会長 立石 克昭 氏
<会社概要>
設立:1986年
資本金:1000万
事業内容:各種広告看板企画・設計・施工、
各種塗装工事、LED電工表示システム設計・製作
■社員の家族の安心、自社から地域へ
2015年、残業や休日出勤もあり、社員の家族から不満の声が耳に入りました。もっと会社のことを知ってもらおうと、家族参観日を実施しました。
社員の子どもや奥さん、今後入社する社員の親御さんたちが来てくれ、具体的な会社の方針・今後のビジョンを説明しました。ご家族の方々からは、家族である私たちも一緒に支えながら頑張っていきたい、今後は私が子供に協力してやらねばと心から思った、などたくさんの感想をいただきました。
参観日にきてくれた社員の子どもが、「お母さんの詩コンクール」で「はらみちを大賞」に表彰されました。お店の看板をお母さんが作ったことを誇らしく思っていることが伝わる詩です。家族に安心してもらうことは、企業の努めだと考えています。自分の仕事に誇りを持って社員に働いてもらうためにも、社員の家族まで意識を広げていかなければなりません。
■小さくても光る企業を子どもたちへ
現在、府中市立府中明郷学園 学校運営協議会で会長を務めており、地域創造カリキュラムで育てる「未来を創る力」をテーマに、コミュニティスクール活動を行っています。そこで「地域に子どもたちを残す」と発言した際、親御さんから「子どもを地域に縛ろうとは思っていない。」と言われたことがあります。外へ出たらそこで頑張れる子どももいるように、地域で頑張ることで幸せになる子どももいます。しかし、この地域で頑張ることで得られる幸せの選択肢を、未来を担う子どもたちに見せられていないと感じています。小さくても光る企業が地域にもあると伝えていくことがとても大事です。
■三方よしから始める模擬会社の取り組み
学校だけで子供の育成をしていく時代から、地域の企業を含め一緒になって子供たちを育成する時代に変化しています。本校CSスローガンの「地域の中に学校を 学校の中に地域を」は、地域の誰もが分かりやすい言葉にしようと考えました。府中明郷学園は小中一貫校で全体生徒数は250名です。
中学1、2年生にあたる7、8年生が模擬会社の取り組みを行なっています。生徒たちには、近江商人家訓「三方よし」より、売り手と買い手、そして世間の商売の成り立ちから話を始めました。そこから子どもたちが考えた会社「L i n k S」の経営理念が生まれました。
企業と連携をする際、企業側の一方的な都合だけを押し付けてはいけません。学校側は、子どもたちに学んで欲しい資質や能力があります。資質や能力の理解ができない場合は、学校の教育方針を尋ねることが必要です。その上で連携が成り立っていきます。
■子どもたちの自己表現能力を育てる
今、子どもたちに必要なのは自己表現能力です。毎年商品開発を行いますが、先輩たちの開発をブラッシュアップするのではなく、独自のものを考えています。クレームから商品をチェックする必要を学び、さらには自分たちで商品に付加価値を生み出し販売、最終的には次年度の学年に事業継承を行います。
■地域に根ざす中小企業の在り方
地域を良くしていくには、地域に根ざす中小企業が頑張るに他なりません。利己と利他のバランスよく、輪を広げていくことが大事です。現状の課題を誰かのせいにするのではなく、自身がどう取り組めるかを考えることが、地域を良くすることにつながると思います。
【事例報告2】
―自社の経営課題を地域資源を活用して解決する―
報告者:(株)EVENTOS 代表取締役 川中 英章 氏
<会社概要>
設立:1988年
資本金:4000万
事業内容:レストランやケータリングサービスなど食に関する事業を幅広く展開している
■経営理念と社会への役立ち
2007年、債務超過により60人ほどいた社員が7人になりました。同友会の先輩会員に、社会的に存在価値がある会社になりなさいとアドバイスをいただき、食の安全安心を追い求める会社であれば社会性に繋がるのではないかと考えました。
この年、リーマンショックの買い手市場により内定者を獲得しました。この時、経営理念がありませんでしたが、「地域の同業他社の方々のサービス向上に革新的な刺激を与えることができる会社になる」つまり、「飲食業には起こり得る問題が我社には起こらない会社にする」という経営のビジョンが浮かびました。
広島の新入社員研修に、立石 克昭 氏が基調講演に来てくださり、講演を聴き、仕事に対して誇りを持って働いておられると感じました。自身に置き換えた際、仕事の誇りがないことに気づき、自省する機会を得て、同友会の冊子をたくさん読みました。「21世紀型中小企業」という言葉を見て、分からないけれど分からないなりに実践しようと思いました。
そして、世の中にはいろんな形の幸せがあることを伝えられる社員教育に取り掛かることにしました。働きがいや選ばれる企業になるという観点では、自社が社会にどのように役立っているかを定義することが必要だと感じています。さらに長期ビジョンを明確にし、この指にとまってくださいと言えるようなプレゼンができる企業になることだと。
■地域資源とともに課題解決を図る
広島市安佐南区で食を通した農村活性化事業として、耕作放棄され雑木林のような農地を元に戻す取り組みを行いました。しかし、農作業をしてもトイレがない問題が発生しました。工務店に話を聞くと、1つを作るのに500万円ほどかかると言われました。それなら…と、地域の集会所になるようなレストラン付きのトイレにしようと考えました。
そして、自分たちで田植え作業を体験しました。日本では未栽培のサイクイーン品種というお米は1キログラム1500円します。付加価値の高いパエリアにして商品化することにしました。
キッチンバスの取り組みも行っています。バスに必要な調理機器が揃っているので、田舎でお刺身や前菜、天ぷらや茶碗蒸し、ナポリタンなどを提供します。半径100キロを移動できるため、どんな地域でも出来立てを提供できる仕出し会社になりました。
クリスマスに孫や子どもが地域に来て、顔を見せてくれる機会を設けようと、取り組んだ産直市の売上を少しずつ貯金し、パーティーの開催も行いました。続けていると、社員の定着率が上がっていきました。自分の仕事に誇りを持てる環境を作ることは、最終的に離職率を下げることに繋がりました。
■中小企業家として地域の担い手になる
現在、島根県の有福温泉の再生事業に取り組んでいます。20軒あったうちの17軒が廃業、魚屋や土産物屋も倒産し、キャッシュコーナーまで撤去され、現金を降ろすこともできない観光地です。そんな場所でも事業者が有福温泉に進出し易いよう、廃業した建物を再生、宿泊施設の食を担うセントラルキッチン機能のレストランにリフォームしました。
他にも、島根同友会会員さんの協力を得て、山や海に自転車で出かけるアクティビティを立ち上げました。夕方にはレストランで宿の食事を賄い、地域全体を一つの宿に見立てる街まるごとホテル構想が生まれていきました。
同友会全国協議会で行なっているインターンシップのお誘いイベント「中小企業サミット」があります。ここで2年前に5日間のインターンシップに来た大学生は、その後大学を休学し、半年間有福温泉へ住みました。そして今年の4月から有福温泉の住人になりました。今や、全国からインターンシップがきてくれる会社になりかけており少し驚いています。長期的目線で採用をしていくことが大事です。
若者に対してやりがいを感じる仕事を作ることは、経営者にとって重大な仕事だと感じています。地域の課題解決を担い、地域になくてはならない会社として、成長し続ける中小企業でありたいと思っています。