経営フォーラム2024 第6分科会 事業承継「理念とビジョンを共有した事業承継」
- 開催日時:
- 2024/10/11(金)
- 会場:
- リーガロイヤルホテル広島
- 人数:
- 49名
- 報告者:
- (株)C&Eコーポレーション 代表取締役社長 名越 鉄治 氏(広島中支部)
- 文責者:
- 事務局 児玉
■私の半生とC&Eコーポレーションのこれまで
まずは、私がどのような道を歩んできたのか、そしてC&Eコーポレーションがどのように成長してきたのかをご紹介させていただきます。
大学生の時、様々なアルバイトを経験し、飲食業界で働くことに魅力を感じていましたが、当時は社会的地位が低く、家族の反対を押し切って、新卒採用で広越という会社に入社し、あみ焼「シズラー」に配属されその後郊外型焼肉チェーン「ラリーズ」の立ち上げに携わりました。
そして、バブル崩壊後の1995年、ラリーズ白島店を買い取り、「ララビス」と名前を変えて独立開業。これが㈱C&Eコーポレーションの創業となります。
その後、BSE問題やコロナ禍といった危機を乗り越えながら、店舗事業:焼肉店「楽月・楽群」2店舗、FC事業:手ぶらバーベキュー「BBQ太郎」、デリバリー、高級弁当、EC事業やセントラルキッチンなどを展開し、現在に至ります。
■C&Eコーポレーション設立の由来
C&EのCはカスタマー、つまりお客様を意味し、CS(顧客満足)を表しています。Eはエンプロイ、従業員を意味し、ES(従業員満足)を表しています。CSとESを両立させる会社にしたいという思いから、C&Eコーポレーションと名付けました。
経営理念
私達は、お互いをファミリーと思い、夢を共有し、幸せになります
私達は、お客様に食を通じて、喜びと感動をお届けします
私達は、地域の皆様に信頼され、愛される会社になります
この経営理念は15年前に改定したものです。創業当初は、「お客様第一主義」や「我々の生活はお客様があって成り立っている」といった、お客様を最優先する、いわば「お客様は神様です」という時代背景を反映した理念でした。しかし、15年ほど前に同友会で学び、「従業員や地域社会への貢献も大切だ」と考えるようになり、従業員やアルバイトの方にも分かりやすい言葉で、現在の理念に改定しました。
以来、私たちは「業界の見本となる会社を作る」「プロフェッショナルの人材を育成する」「働きがいのある会社を作る」「プライドが持てる会社作る」という行動指針を掲げ、従業員一人ひとりが仕事に対する意識を高く持ち、成長を促進するための指針としてきました。
行動指針の実践度合いを測るため、過去には「居酒屋甲子園」や「サーバーグランプリ」といったコンテストに積極的に参加していました。
これらのコンテストを通して、自分たちのサービスレベルを客観的に評価し、行動指針が実践できているかを確認することで、従業員のモチベーション向上、サービス改善、そして「業界の見本となる会社」という目標への意識向上を図ってきました。
振り返ってみると、この30年間は決して平坦な道のりではありませんでした。2001年には、焼肉業界を揺るがすBSE問題が発生しました。オープンを控えていた2号店は、急遽「焼肉楽群」から「炙焼楽群」という、魚介類なども扱う炙り焼き業態に変更せざるを得ませんでした。
2005年には「ダイニングカフェグレース」、2007年には焼肉店「楽月」をオープン。2009年には「ダイニングカフェセントグレース」をオープンしましたが、こちらは2014年に店舗譲渡しました。
その後も、肉バル「パライソ」やイタリア食堂「マーレ」など、新店舗を展開しましたが、コロナ禍では、売上が激減し、2店舗を閉鎖せざるを得ない状況に追い込まれました。また、残りの店舗も赤字が続き、従業員の雇用維持、資金繰りなど、本当に苦労の連続でした。しかし、従業員一丸となって、セントラルキッチンに改装やデリバリーやECなどの新しい事業に挑戦することで、この危機を乗り越えることができました。
■事業承継を決断した理由
このように、様々な経験を積む中で、年齢や体力的な衰えを感じ、65歳を過ぎた頃から事業承継を意識し始めました。息子は28歳で入社し、いずれは会社を継ぐだろうと考えていましたが、具体的な時期については決めていませんでした。
会社も30周年を迎え、息子も37歳になる今が、承継の適切なタイミングだと判断しました。そして、70歳、会社設立30周年という節目を迎える今、息子への承継を決断したのです。
■円滑な事業承継のために
事業承継は、経営者・後継者・会社にとっても、大きな転換期です。そこで私は、承継をスムーズに進めるために、以下の3つの取り組みを行いました。
1.先輩経営者へのヒアリング
実際に事業承継を経験した先輩経営者3名にインタビューを行い、成功談や失敗談、苦労話などを伺いました。
・引き継ぎ事項 ・社長教育 ・教えてほしかったこと ・後悔していること
など、率直な意見交換をする中で、多くの学びを得ることができました。特に印象に残っているのは、父から「後継者に具体的な引き継ぎ事項がなかったことを後悔している」という意見です。
そこで私は、息子に会社のことをすべて伝えるつもりで、経営理念から日々の業務まで、丁寧に説明していくことを心がけました。
2.後継者との10年ビジョン作成
後継者である息子と、10年後の会社の姿を共有するためのロードマップを作成しました。以下、数値目標です。
3年後:売上高4億1,000万円
7年後:売上高5億8,200万円、FC展開の検証
10年後:売上高7億5,000万円、FC加盟店5店舗
このビジョンを通して、後継者だけでなく、従業員全員が将来像を共有し、同じ方向に向かって進んでいけるようにしました。ロードマップの作成は、単に目標を設定するだけでなく、現状を分析し、課題を明確にする良い機会となりました。
3.人材育成と情報共有
事業承継を成功させるためには、後継者を支える人材育成が不可欠です。そこで、従業員一人ひとりが成長できるよう、以下の取り組みを行っています。
エンジョイミーティング:理念の共有、読解力と要約力向上を目的とした月1回の勉強会。少人数のグループで、様々な階層の従業員が参加し、文章を読んだ感想や意見を共有することで、理念への理解を深め、社内コミュニケーションを活性化させています。
C&E大学:幹部、中堅、新入社員の3つの階層に分かれたオンデマンド形式の階層別教育。各階層に必要な知識や教養を習得するためのカリキュラムを1年間かけて実施しています。
幹部クラス(ゴールドクラス):リーダーシップやチームワークに関する研修
中堅社員クラス(シルバークラス):接客、クレーム対応、サービス、P/L管理に関する研修
新入社員クラス(ブロンズクラス):ビジネスマナー、ストレスコントロール、コミュニケーションに関する研修
4.日次決算システム導入:全員が日々の数字を把握することで、コスト意識の向上を図る。このシステムにより、売上、客数、労働生産性、前年対比などのデータに加え、人件費、原材料費、賃料、光熱費などのコストもリアルタイムで確認できます。ここれにより、各店舗の経営状況を常に把握し、迅速な経営判断を下せるようになりました。
また、人件費については、従業員全員の給与をオープンにすることで、コスト意識の向上を図っています。
これらの教育と数値管理、情報公開は、ロードマップ作成以前から取り組んでいたことですが、今後さらに精度を高め、10年後の目標達成に貢献できるよう強化していく予定です。
また、コロナ禍で得た教訓を活かし、外部環境の変化にも対応できるよう、セントラルキッチンを活用した低コスト運営、デリバリーやECなどの新事業展開にも力を入れています。
■後継者からのメッセージ(後継者である息子・真生氏に、現在の心境を語ってもらいました)
30年続く会社を継ぐことに、大きな責任と不安を感じています。特に、コロナ禍による業績悪化、財務管理の課題など、山積する問題に不安を抱くこともあります。
しかし、父と共に10年ビジョンを作成したことで、目指すべき方向が明確になりました。従業員や取引先の皆様との信頼関係を大切に、スピード感と変化を重視した経営で、会社を成長させていきたいと思います。
■最後に
事業承継は、単に経営者の座を譲るということではありません。会社の歴史、理念、そして人との繋がりを、次の世代に引き継いでいくことです。
私は、息子を信頼し、サポートすることで、C&Eコーポレーションの未来を託したいと思います。そして、息子を中心とした若い世代が、新たな時代を切り拓いてくれると信じています。
【会社概要】
設立:1995年3月10日
資本金:1,000万円
年商:3億5,000万円
社員数:78名(うちパートアルバイト59名)
事業内容:焼肉店(楽群、楽月)、高級弁当事業、出張BBQ事業の運営