経営フォーラム2024 第7分科会 学びと実践「学んだだけで満足していませんか?実践なくして成長なし~社員と衝突しながら実践し続けた5年間~」
- 開催日時:
- 2024/10/11(金)
- 会場:
- メルパルク広島
- 人数:
- 33名
- 報告者:
- (株)K鉄工業 代表取締役 近藤 亮二 氏(福山支部)
- 文責者:
- 事務局 本田
■入会前 自社が抱えていた課題
私は17歳で鉄筋工の会社に入社しました。勤務して20年のある日、社長から後継者になってくれないかと言われましたが、その時はまだ後継者になる勇気がなく断りました。その一方で「せっかく社長になるのなら、0からスタートして自分を試したい」という思いが生まれました。
その後、実際に独立し、半年ぐらいは私1人でがむしゃらに仕事をしていました。しかし次第に限界を感じ、開業から半年で3人の社員を雇用することにしました。当時の私は経営や雇用に全く不安を感じていませんでした。悪く言えば行き当たりばったりで、問題は起きてから悩んでいました。その結果、至るところで問題が発生し始め、自分でもどうすればいいかわからない状況になっていきました。
その頃の悩みで多かったのが、取引先からのクレームの多さ、社内の報連相、社員の当事者意識や一般常識の欠如の3つでした。当時は100件の内、50件近い施工ミスが発生していて、私は毎日のようにお客様に頭を下げていました。また、私が行っていない現場の情報は何も入らず、連絡があってもニュアンスの違いのため行き違いが頻発していました。予定通りに現場が終わらない、約束の日に行けないなど工程管理も全く出来ていませんでした。
社員も機械や車に不具合があっても自分が困るまでは放置していました。雇用した時の私は、自分について来てくれれば社員も自然に育つだろうと思っていましたが、問題ばかりが増え続け、これから何をしていけばいいのか悩んでいました。
■入会1~2年目の取組み
私は藁にもすがる思いで知り合いの経営者に「経営って何ですか?社員との関わり方もわからないし、これから何をすればいいのか教えてください」と相談しました。すると「経営を学べる同友会で学びなさい」と教えてくれました。私は今までの自分を変えたいと、強い思いを胸に2019年6月に入会しました。
同友会では経営理念や経営指針書の話をよく耳にしました。当時の私はそれが何なのかよくわかりません。でも会社を良くしたいと、経営理念と経営指針書、そして就業規則の作成に取り掛かりました。
会社では月1回のミーティング、車両管理者等の決定、右腕社員の育成を始めました。ミーティングでは初めて作った経営理念の発表をし、何のために仕事をしているのか、どんな会社にしたいのかを話しました。社員たちは「社長は急に何を言っているんだ」という感じで聞いているだけでしたが、私は少しでも会社を良くしたいという一心で経営理念の浸透を続けました。
経営理念
1.私たちは社員が安心して勤められる環境をつくり人を育てる組織と夢・希望を持てる企業になります。
1.私たちは地震・災害から地域社会を守る安全・安心の建造物を職人魂をかけて造っていきます。
1.お客様に誠実な対応と技術を追求し未来に誇れる建物造りと社会の進歩と発展に貢献いたします。
また建設業のイメージを少しでも良くしようと、「新3K」に取り組みました。「新3K」というのは仕事姿が格好良く綺麗な職場、そして未来に希望が持てる職場や会社にすることです。そこから制服の支給を行い、会社のロゴも可愛らしいものに一新しました。
■入会3年目以降の取組み
入会して3年目には経営指針書が完成し、私は売上1億円をめざすと発表しました。当時の売上は約8,300万円。社員はぼんやりと聞いていていましたが、社長が言うなら1億円をめざそうと言ってくれました。初めて社員も同じ方向を向き始めてくれた気がして嬉しかったです。報連相の問題はLINEを使って、写真付きで報告をすると、私やその現場の職人以外の社員もミスに気づくようになりました。
これによって会社全体で現場の進捗状況が把握でき、社員が進捗の悪い現場に自主的に応援に行くことが増えました。現場全体の作業効率は格段に上がり、トラブルにも素早く対応できるようになりました。
しかし入会から3年が経ち、色々と実践してもまだ施工ミスが減りません。次第に私の中で苛立ちが積り、「こんなに自分は頑張っているのに、社員はなんで期待通りに動いてくれないんだ」という気持ちが蓄積してきました。社員との関係もギクシャクし、激しい口論もしました。会社を良くしたい私の思いだけが先走って、自分の考えや同友会での学びを社員に押し付けていたと気づきました。私は毎月行っていたミーティングを一度止め、一緒に現場に出て汗をかくことにしました。
入会4年目には多忙になり、技能実習生を受け入れました。外国人にもわかりやすい言葉や翻訳アプリでコミュニケーションを取っていました。ところが思うように指示が伝わらないことに腹を立てた一人の社員が、実習生にパワハラをしてしまいました。他の社員も見て見ぬふり、でした。この時ばかりは許してはいけないと思い、就業規則を見せながら「ルールを守らない人はK鉄工業にはいらない」と全社員に伝えました。私自身も指導の仕方を反省し、止めていた月1回のミーティングを再開しました。
■輝け!経営者大賞へ挑戦
福山支部では「輝け!経営者大賞」という支部例会があります。これは2年に一度、各地区からのエントリーと選考を経て、3月の支部例会で同友会での学びや経営実践を報告するものです。私がB地区代表として、その経営者大賞に挑むことになりました。自分が報告することに躊躇もしましたが、何とか2023年度の大賞を受賞させていただきました。この結果はわからないなりに参加し続け、同友会の仲間に指導していただいたおかげです。社員もとても喜んでくれ、今後は会社が有名になり誰に見られても恥ずかしくないようにと、自発的に作業場でもヘルメット着用してくれるようになりました。
会社の変化は数字にも表れました。入会1年目の売上高6100万円、社員数は4名でした。コロナで減収があったものの、2023年度に売上高1億円を達成することができました。実は私自身もこの目標が達成できるか不安でしたが、社員が同じ方向を向いてくれたことで達成できました。同友会の学びを少しずつ実践し社員と共に挑み続けたことで、課題だらけだった会社が少しずつよくなってきました。
これからの目標はチームワークがいい、仕事を見ていると気持ちがいいと言われる会社になることです。もちろん売上も必要ですが、むやみに売上ばかりを追ってしまうと、どこかで歪みが出てきてしまいます。まずはコツコツとお客様に喜んで頂ける仕事をしていき、同時に社員がK鉄工業に勤めていてよかったと思えるような会社、社員が家族に誇れる会社をめざしていきます。
建設業界は若い世代の入職率が非常に低い状況です。弊社にはベテランの3人の職人がいますが、いずれ現場で若手と同じように活躍することが難しくなると思っています。彼らの技術を若い世代に確実に継承していくことも会社の使命と考え、年を重ねた社員が安心して働けるような事業展開を模索しています。
同友会は一流の経営者になるための稽古場だと考えています。私も心が折れそうな時や諦めそうな時は多々ありました。大変な時でもポジティブなことを言うと、願いは叶うと思っています。同友会でも「理念を言い続けていると、いつか自分が思う会社になっている」と教わりました。この言葉は胸に今も、そしてこれからも頑張っていきます。
【会社概要】
設立:2019年7月
資本金:500万円
年商:1億3,000万円
社員数:10名
事業内容:建築現場・土木工事のコンクリートの骨組みになる鉄筋工事一式